ピーター・パン誕生の謎を解き明かす 快作『PAN ネバーランド、夢のはじまり』


オリジナルの枠から飛躍した
設定やキャラクターの楽しさ


時は第2次世界大戦下、ロンドンの孤児院で大人たちの虐待を受けながら暮らす少年ピーターは、母からの手紙を見つけたことを機に、ある夜、空飛ぶ海賊船に誘拐され、異世界ネバーランドへ連れていかれます。
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しかしそこは、邪悪な海賊黒ひげが睨みを利かせた世界で、ピーターはそこで若き日のフックやタイガー・リリーなどとともに、母を探す冒険の旅に出ます。

もともとピーター・パンが初登場したのは20世紀初頭ですが、ここでは舞台設定が1940年代と大幅に変更されており、正直、最初は違和感を覚えたのですが、これによってピーターらを乗せた空飛ぶ海賊船をドイツ軍と間違えたイギリス軍との空戦シーンが展開されるに至り、ネバーランドへ行くまでの間に見せ場を設けたかったのだろうと理解できます。
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ネバーランドの描出は秘境そのものといってもよく、その壮大なセットの数々に圧倒されるとともに、CG技術を駆使したセンス・オブ・ワンダーなシーンの数々に、これが超大作であることを改めて納得させられますが、本作の長所はそういった仕掛けなどに人間描写が負けていないことでしょう。

本作の監督ジョー・ライトは『プライドと偏見』(05)『つぐない』(07)など、イギリスの社会風俗にこだわった人間ドラマを構築してきた才人ですが、ここでもピーター・パンそのものをイギリス文化の象徴とみなし、彼の冒険心とその行動をファンタスティック・エンタテインメントとして描きながら、イギリス文化の香りと誇りを醸し出すことに成功しているのです。
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キャラクターの構築もユニークで、原作ではちょっとしか触れられていなかった黒ひげをここでは悪の権化として、それをヒュー・ジャックマンが喜々として演じることで映画の貫録にも大いに貢献していますが、個人的に目を見張ったのは、若き日のフック(後のピーター・パンの宿敵)が何とピーターの仲間として登場することで、なるほど最初はふたりとも仲良しだったのねということが微笑ましく感じられ、ギャレット・ヘドランド演じるフックのシリーズが今後作られてもいいのではとも思ってしまいました。

これまではアメリカの先住民ネイティヴ・アメリカン的キャラクター造型がなされることの多かったタイガー・リリーも、ここではそういったイメージを払拭させた“闘うプリンセス”として構築されているのが嬉しく、また演じるルーニー・マーラのアクションまで果敢にこなす美しさには思わずみとれてしまうほどです。
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帆船が空を飛ぶ爽快なショットは、『空飛ぶゆうれい船』(69)や『宇宙戦艦ヤマト』(77)『宇宙からのメッセージ』(78)『オーディーン 光子帆船スターライト』(85)などに親しんできた日本の映画ファンにはたまらない昂揚感に満ち溢れており、クライマックスは妖精たちが大挙現れる洞窟内での「お待ちかね!」ともいえいえる大合戦で、豪華絢爛たるスペクタクル映像は3Dで見るとさらに効果的でしょう。

ファミリー映画として家族で楽しめるのはもちろんですが、ピーター・パンの世界を愛する人にとっても、オリジナルを基にしたひとつの新解釈として、またエンタテインメントとしての楽しさの中から、イギリス独自の文化風俗なども堪能できる逸品となっております。

少なくともこの秋、ファンタ映画ファンとしては見逃せない作品であることは間違いないでしょう。

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(文:増當竜也)
『PAN ネバーランド、夢のはじまり』は2015年10月31日(土)全国ロードショー!
公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/pan/

(C)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.

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