俳優・映画人コラム

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2015年10月29日

「高倉健と生きた時代」を語る① ~倍賞千恵子~

「高倉健と生きた時代」を語る① ~倍賞千恵子~

■「キネマニア共和国」

第28回東京国際映画祭では「高倉健と生きた時代」と題して、昨年亡くなった名優・高倉健の主演映画10作品を上映し、偉大なる映画スターを偲ぶ追悼特集を開催。
10月25日、TOHOシネマズ新宿にて『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』(77)と『遥かなる山の呼び声』(80)『駅/Station』(81)の3作品で高倉健と共演した倍賞千恵子が登壇し、彼の死去後、公の場で初めて故人の思い出などを語った。(司会/佐藤利明)
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眼力のある健さんとの相合い傘


倍賞千恵子が初めて高倉健と共演したのは『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』(77)である。

「記者会見のときに共演のみなさんとお茶を飲みまして、そこで初めて健さんにお目にかかりました。そのとき武田鉄矢さんがいろいろ面白い話をしてくれて、みんなでゲラゲラ笑っているうちに緊張もほどけていったのですが、そんな中で健さんの第一印象はやはり『かっこいいなあ』でしたね。
ただ、現場ではやはり緊張しました。何せ私は目の小さいお兄ちゃん(渥美清)といつも仕事していましたから(笑)、対する健さんは“眼力のある方”というイメージでしたね。
また、私は夕張での回想シーンの出番がほとんどでしたが、最初にみんなで食事した後、お茶飲みに行くことになりまして、ちょうど雨が降っていたのですが、そのとき山田洋次監督が『倍賞君、健さんのところに行って兄弟何人いるのか聞いてきてごらんよ』とおっしゃるので、え? と思いながら健さんのところへ行きまして、そこでお話を伺っているうちに、いつのまにか相合い傘していました(笑)。緊張していましたので、結局ご兄弟は何人だったのか、いまだによくわかっていません(笑)。
夜、健さんが喧嘩するシーンを見学させていただいたときは、ドキッとするくらい怖かったですね。本当に近寄りがたい雰囲気で、ここで見ていてはいけないのではないかと思い、そっと帰ってしまいました」
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『幸福の黄色いハンカチ』のラストシーンは、3日ほど風や雲の動きを見ながらの撮影で、その待ち時間の間に健さんと山田監督の雑談の中から生まれたのが『遥かなる山の呼び声』だったという。

「山田監督作品の中で、私は働く主婦をやらせていただくことが多かったのですが、『遥かなる山の呼び声』では夫を亡くし、酪農の仕事を続けるか辞めるかの瀬戸際にいる未亡人の役でしたので、このときは健さんと男と女の関係とでも言いますか、たとえば『行かないで!』みたいなお芝居をするのも初体験でしたし(笑)、さくらさんとは違う、濃密な“女”を演じさせていただきました」
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二度と現れないタイプの名優


これまでの2作は松竹映画だったが、3本目の『駅/STATION』は東宝作品。

「既に五社協定はなくなっていましたが、このとき松竹から出演を反対されまして、直接お話しさせていただいて、ようやく出演できることになった作品でした。
このときも健さん扮する主人公が私の情夫を射殺するシーンのとき、スタジオに入るなり張りつめた空気が流れていて、とても近寄りがたい雰囲気だったのを覚えています。一方で、やはり重要なシーンの際、暗がりの中で健さんがストレッチしている姿がとても印象的でした。
でも撮影が終わるとお茶目なところもいっぱいある方で、何かの打合せでお茶を飲んでいるとき、健さんが急に時計をぱっと外してコップの水の中に落としたんですよ。『何してるんですか⁉』とびっくりして言ったら、『大丈夫、防水です』と(笑)」
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高倉健が亡くなったとき、ショックでしばらくの間は映画やテレビを見るのも嫌だったという。

「動いている健さんの映像を見るのもつらかったですし、とても大事な方を失った想いです。渥美清さんもそうでしたけど、みなさん突然いらっしゃらなくなっている」
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高倉健は、渥美清や笠智衆と同じように、二度と出てこないタイプの俳優だと。

「山田監督が『素晴らしい俳優は贅肉がない』とよくおっしゃるんですけど、それは肉体的に太っている痩せているではなく、自信がない人ほど芝居で小細工をする。それが“贅肉”という表現になるのですが、その意味でもまったく贅肉のない芝居をされていたのが渥美さんであり、笠さんであり、高倉健さんであったと思いますし、私自身そういう人間、そういう俳優でありたいと願っています」
場内の寄せ書きコーナーには倍賞さんのコメントも


場内の寄せ書きコーナーには倍賞さんのコメントも

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(文:増當竜也)

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