「ちょっくら映画館に行ってきました。」~第1回:アミューあつぎ映画.comシネマ~


シニアとマニアが混在してのアニメ映画鑑賞
遠くはハンガリー、ブダペストから!


感性の若さということではもう1点、ここではアニメ映画の上映も盛んなのだが、これまた意外にもファミリー層向けのものではなく、マニア向けの作品のほうが入るとのこと。

「ファミリー向けのアニメ映画は海老名のシネコンで見られますので、ミニシアターと同じ考えで、わざわざ東京まで足を運ばなくてもいいようなマニアックな作品をうちでは定期的にかけています。

面白いことに、それらのアニメ作品もシニア層の方々はちゃんと見てくださるのですよ。ちょっと難解なSFものとかでも『何となく面白かったよ』とか(笑)。最近ではアニメばかり好んで見に来られるおばあちゃまもいらっしゃったりして、これは面白い化学反応ですね」

つまり、ここではアニメ・ファンの若者層とアニメの知識など皆無なシニア層を混在させながら、アニメ映画を鑑賞するというユニークな現象が起きているのだ。

「アニメ映画は情報がwebなどで各地に飛ぶことで、映画館の良いPRにもなるんですね。映画.comのほうで上映スケジュールを載せてもらっていることで、全国からアニメ・ファンの方々がいらっしゃることも多いのですが、一番驚いたのは『劇場版TIGER&BUNNY-The Rising‐』のとき、何とハンガリーのブダペストからいらしゃった若い女性の方がいて『厚木ッテ遠イデスネ』と(笑)。これは嬉しかったですね」

聞けば聞くほど、厚木市の映画ファンのライフスタイルの中に、映画.comシネマは見事に定着した感がある。

「今、最年少のヘビーユーザーは小学5年生の女の子で、見た映画の感想を必ず備え付けのノートに書いてくれるのですよ。嬉しかったのが『ここで働くにはどうしたらいいですか?』と。ちゃんと大学まで行って、それでもうちで働きたかったら、また言ってと答えておきました(笑)。

中学生の職業体験も受けています。子どもたちには接客させて、映画を見せて、感想を書かせて、最後に90秒のスピーチをお客様の前でさせます。
『風立ちぬ』を3人の女の子に分担してやってもらったときはお客様から大喝采で、彼女たちが泣き出して、お客様も泣き出して、最初スピーチなどできるはずないと反対していた先生も感極まっていらっしゃいました。(笑)。
こういった経験から、映画館っていいなという想いが残ればいいと思いますね」

多目的ホールでの地域交流や
決して馴れ合いにならない自主映画上映会


たまたま取材でお邪魔した日、多目的ホール「ホール112」では公立夜間中学の拡充を訴える厚木市の自主夜間中学“あつぎえんぴつの会”主催で、夜間中学をモチーフにした山田洋次監督の『学校』上映と、主人公教師のモデルのひとりでもある見城慶和氏やえんぴつの会の生徒さんたちの講演が催されていた。
えんぴつの会の生徒さんたちも壇上に

えんぴつの会の生徒さんたちも壇上に

112席はびっちり埋まり、とても温かな空気の中での『学校』鑑賞は、実際の夜間中学に通う方々と同席していることもあってか、個人的には初見の時以上の感動があった。

「ホール112では今後も映画に限らず落語の上演や歌謡ショーなど、市民のみなさまのリクエストに応えながらやっていく予定です」

学生やインディーズの自主映画上映会も定期的に行われているが、こちらも何とシニア層が多く鑑賞してくれるとのこと。通常、この手の上映会は仲間内で終わってしまうものだが、さすがは映画.comシネマ!

「今では厚木市近辺だけでなく、都内からも『アミューあつぎなら自主映画もかけてくれる』といった触れ込みで、自主映画上映の依頼がそれこそ毎月100件くらい来ていますね。

またこちらも『厚木市から若手監督を育てよう』という号令をかけたりしておりますが、うちのお客様はジャンルであるとか、メジャーもマイナーも関係なく、あくまでも“映画”ということで常に接してくれますので、これまた意外に入るのですよ。

もっともその分、上映後の監督さんたちへの感想などは容赦ない(笑)。でも、そういったところが他の上映会と決定的に違うところだとも思いますし、実はみなさん、この映画館で上映された自主映画の監督さんたちが、やがてメジャーの作り手として成長してくれるのを楽しみにしてくれてもいるのです。

これは自主映画ではありませんが、『トイレのピエタ』をかけたときも、監督の松永大司さんが『いつもと客層が違う!』と驚かれつつ、すごく喜んでおられましたね」

上映前にスタッフや観客が作品解説!
スケジュール確認は回覧板で!


スタッフの指導も徹底している。今回、取材にうかがわせていただいた際の、スタッフの応対の良さにも感心した。当たり前のようでいて、意外にそれができていない映画館はシネコンもミニシアターも今は多い。

「うちではスタッフ採用の条件から、映画好きとか劇場経験者といった要素にこだわらず、会ってみて笑顔が綺麗であるとか、コミュニケーションがちゃんとできる人を重視しています。
年配のお客様が多い分、厳しいですからね。
今ではスタッフも常連さんの名前も顔もちゃんと覚えています。うちの映画館はお客様からの差し入れが多いのも特徴かもしれません(笑)。

それと、うちでは上映前にスタッフが90秒ほどの作品解説をネタばれしない程度にさせていただいております。
そのことによってお客様の作品に対する理解度も深くなると思っているのですが、最近ではお客様のほうから『俺が解説するから』と名乗りを上げてこられたりして(笑)。

一度見て面白かった作品のことをどうしても公にしゃべりたいということで、『ではあなたは明日で、私はあさってで』みたいな打ち合わせしている姿もロビーなどでよくされています(笑)。

また、そういった解説の後での映画鑑賞後、見た人が解説した人のところに寄ってきて『あなたの言う通りよ』とか『私は違うと思う』とか、そういった議論が始まって、『じゃあ、ちょっとお茶でも飲みながら』ということで、現在映画館の隣にはカフェが設けられております(笑)」

映画.comと提携しつつも、実際の観客の大半はネットなどは扱わず、当然ブログなどを書く機会もない。しかし、その代わりに映画館そのものでの直のコミュニティを実現させているのだから、その意味では映画館の原点回帰ともいえるかもしれない。

「宣伝展開に関しましても、パブリックな映画館ですので、新作情報などはすべて無料で市の広報誌に載るんですよ。
また、それとは別に上映スケジュールが回覧板で厚木市9万世帯に回るのですが、これがなかなか効果がありまして(笑)、それを見てスケジュールを立てていらっしゃるお客様も非常に多いですね」
アンケートBOXや書き込みノートは常にいっぱい!

アンケートBOXや書き込みノートは常にいっぱい!

地方行政からも注目されている
地域コミュニティとしての映画館


徹底的にアナログながら、それゆえに地域のニーズに応えられる映画館となって久しいが、実は当初から順風満帆な道のりではなかった。

「実は最初、市のみなさん、映画館の復活を喜んで来てくださるだろうといった気持ちでオープン初日を迎えたら、予想外にネガティブな市民もたくさんいらっしゃいました。要は映画館は税金の無駄遣いではないか、という声ですね。

そうなったときに思ったのが、このままじゃ駄目だと。そこで各自治会の会合、市民団体、それに個々のお宅をまわり、3か月で500人の方々に、この映画館は目指す方向性について説明し続けました。

同時に市から映画館を高齢者保養施設に指定いただき、福祉をケアできる映画館ということを1年間ほどずっとアピールしていくうちに、みなさんわかっていただきました。今ではその方々が、うちのお客様の中心メンバーとなっています。

ですから映画館って、確かにラインナップや中の運営も重要ではありますが、それ以上にどれだけ地域の方々に受け入れていただけるか、いかに支えていただけるかが大事だということを痛感させられました。

いくら良い映画をかけても、お客様が来なければどうにもならないわけですから、地域コミュニティとインフラを作りあげることが、映画館を運営していく上で必須なのではないかと思っております」

こういった活動とその成果が広まって、現在、アミューあつぎ映画.comシネマは各地の地方行政からも注目を集めている。

「昭和30年代にピークを迎えていたような地方都市って、今が公共施設の建て替え時期のところが多いのですよ。そこで街の再々開発として、行政主体で映画館を含む公共ホールを作ろうという動きがトレンドになりつつありますね。

そこで私のほうにも相談が来たりもしていますが、ハードは厚木市と同じように、必ず行政のほうで用意してください。指定管理制度ではなく、必ずテナント契約を結ばせて、民間業者が利益を得られるようにしてください。そうすれば必ずやる気のある優秀な人材も出てきますし、私たちも協力は惜しみませんし、いつでもノウハウは公開いたします。いつもそうお話しするようにしています」
人に優しくなれる映画館をめざして

人に優しくなれる映画館をめざして

行政とのコラボレーションを図りながら、映画館を地域のコミュニテイ施設の一環として確立させようとする動きは、今後の重要な焦点になっていくかもしれない。

アミューあつぎ映画.comシネマはその先駆けである。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)

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