日本におけるIMAX歴史とIMAX版『ダンケルク』の魅力




9月9日から公開されたクリストファー・ノーラン監督の最新作『ダンケルク』。第二次大戦前夜、フランスのダンケルク海岸で行われた史上最大の脱出作戦を、陸海空3つの視点から描きだした戦争ドラマである。

本作の最大の見どころとなっているのが、作品の全編をIMAX65mmフィルムとラージフォーマット65mmフィルムで撮られた圧巻の映像だ。通常版での上映でも迫力十分(一部の劇場では4K上映となるのでその鮮明さは問題ない)ではあるが、やはり本作の醍醐味を味わうのであればIMAXシアターで鑑賞することを推奨したい。

ダンケルク クリストファー・ノーラン監督 メイキング


(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.


現在国内に約30スクリーン存在するIMAXデジタルシアター。2009年に日本上陸してからすでに8年が経ち、すっかりその存在が浸透してきているが、今ひとつ普通のスクリーンとの違いを正確に理解できていない方は少なくないだろう。ただ壁一面にスクリーンがあるというだけではない、IMAXの魅力について紐解いていきたい。

実は今年、IMAXは誕生50周年の記念すべき年を迎え、現在開催中のトロント国際映画祭では、それを祝して『ダンケルク』が特別上映されている。

日本に初めて上陸したのは1970年に行われた大阪万博で、初めてIMAX方式によって制作された短編映画がお披露目され、その後は多くの博物館や科学館などで、その上映システムが導入された。教育向けのネイチャードキュメンタリーや科学映像を、巨大なスクリーンで味わうこのシステムは、その時点で “体感するもの” として確立していたのである。



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その後、この技術が教育向けではなく、娯楽性のある映画に使われるようになり、日本でも全国各地にIMAXデジタルシアターなる映画館が登場した。現在東京・品川にあるTジョイPRINCE品川や、北海道・札幌のユナイテッド・シネマ札幌のIMAXスクリーンは、その時の劇場を改修したものであり、他のIMAXスクリーンと比較すると、座席の高低差やスクリーンまでの距離など、実に精密な設計がなされている。

通常の劇場と異なり、壁一面に展開するスクリーンによって生まれる、作品への没入感が最大の売りであるIMAXデジタルシアター。そのスクリーンのフルの画面比は1.90:1(大阪エキスポシティに導入されているレーザーIMAXでは1.43:1)。この数字を聞いて、映画ファンならば、妙な違和感に気付くことであろう。

例えばクリストファー・ノーラン作品をはじめとした、ハリウッド大作に多く使われるシネマスコープ(2.35:1)の画面よりも上下に情報量が多いということを単純な画面比だけで取りざたされることが多々あるが、その画面比はアメリカンビスタ(1.85:1) の画面と大差ないということである。ましてや、レーザーIMAXにいたっては、クラシカルなスタンダードサイズ(1.33:1)に近い。

もともと、スタンダードサイズが主流だった映画の画面は、作品のスケール感を出すために横にどんどん広がっていった。ジョン・フォードの『香も高きケンタッキー』のように、馬一頭を収めるのにふさわしい画面比だったスタンダードが、およそ倍に近いシネマスコープになることで、ウィリアム・ワイラーの『ベン・ハー』のように、何頭もの馬が引く馬車を映し出すことができ、画面の中で駆けていく姿を捕えることができたのである。




しかしそれは、劇場のスクリーンが横にしか伸ばせなかった環境上の都合でしかない。数字だけみれば、ビスタ画面に回帰しているように見えるが、まず迫力を出すために横に拡張し、空間全体を包み込むために上下にも拡張する。それによって、これまでの映画には必要がなかった上下の空間(基本的に被写体である人間は上下に移動することが少ないので)を描き出し、映画の中に入り込んだ錯覚を生み出しているのだ。

もちろん、ビスタ画面を単に拡張しただけではない。その画面はデジタルでも4Kの粒子的情報の多さ。そしてもちろん今回の『ダンケルク』は65mmフィルム撮影で行われているので、それ以上の高精細な画面を作り出すことに成功しているということか。

109シネマズ二子玉川 IMAX



IMAXの魅力は画面だけに留まらない。むしろ、今回の『ダンケルク』を観ると、その音の演出力の高さに舌を巻くことになるだろう。序盤から銃撃シーンや爆撃シーンが続き、耳を塞ぎたくなるほど凄まじく、あたかも自分が戦場に投げ出されたかのような感覚に襲われるのである。独自の劇場設計で、どこに座っても満遍なく作品のもたらす音を体験でき、どんな小さな音さえも逃さないのだ。それぞれ独立したスピーカーから奏でられる音響が映像と相まって、 “映画の中に入り込む” ということを実現させているのだ。

現在公開中の『ダンケルク』をはじめ、来週からはリドリー・スコット監督の最新作『エイリアン:コヴェナント』(IMAX3Dでの公開だ)、月末には日本映画『亜人』がIMAX版で上映されることが決まっている。この機会にIMAXを体験して、新しい映画の味わい方を知ってみるのもいいのではないだろうか。

(文:久保田和馬)

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