まだまだ花を咲かせてくれそうな 三田佳子
写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.9
現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。
日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。
まだまだ花を咲かせてくれそうな
三田佳子
『の・ようなもの のようなもの』では落語一門のスポンサー、『俳優亀岡拓次』ではベテラン女優の役と、今年も旺盛に映画出演を続けている三田佳子。往年の映画スターとしての華やかさと、フットワークの軽さを両立させたキャリアには毎回目を見張らされます。
ラジオ&テレビの少女スターから
リアリズムの映画女優へ
三田佳子は1941年10月8日、大阪府の生まれ。幼い頃に東京へ引っ越し、56年、中学3年生のときに児童劇団ちどりに入団し、同年NHKラジオ『東京千一夜』第7話に森繁久彌の娘役で芸能界デビューを果たしました。
その後もラジオやテレビ出演で人気を得て、高校入学とともに映画界からスカウトされ続けますが、学業優先で断り続け、卒業した60年3月、同年発足したばかりの第二東映に入社し、さっそく『殺(や)られてたまるか』(60)で主演・梅宮辰夫の恋人役で映画デビュー。その後も梅宮の相手役を演じ続けますが、61年に家城巳代治監督の『街』で港町のすさんだ家庭環境にもめげず、明るく生きる娘役が好評で、61年度の製作者協会新人賞を受賞しました。
佐藤純彌監督の『廓育ち』(64)で遊郭の世界に生きる女の業を見事に演じ、ミリオン・パール主演女優賞を、成沢昌茂監督の『四畳半物語 娼婦しの』(66)では京都市民映画祭主演女優賞を受賞。また同年の佐藤純彌監督『愛欲』では当時ライバルと謳われていた佐久間良子と競演し、一人の男をめぐる火花散る女の闘いを展開していきました。
(佐藤監督は三田佳子に関して「リアリズムの女優」と評しています)
67年、東映を退社してフリーになってからは、徐々にTVのほうへにも活動の拠点を広げ、69年のNHK『京の川』で第7回放送批評家賞を受賞。74年には当時NHKディレクターだった高橋康夫と結婚します。
80~90年代の栄光から
今も現役を貫く大ベテランとして
80年代に入り、森谷司郎監督の『漂流』(81)で幼い日の主人公に生きる勇気を説きながら死んでいく母を演じ、また同年ポルトガル映画『恋の浮島』で神戸在住のポルトガル人作家と結婚する日本人女性を好演。さらに82年の佐藤純彌監督による日中合作映画『未完の対局』では戦争の犠牲となっていく日中の恋人たちの悲劇を激しい慟哭とともに見据える主人公の妹を好演。
そして84年、澤井信一郎監督の『Wの悲劇』で薬師丸ひろ子扮するヒロインが所属する劇団の看板女優を貫録で演じきり、キネマ旬報をはじめその年の助演女優賞を総なめしました。その名演は今なお映画ファンの間で語り草となっています(『俳優亀岡拓次』の大女優は、このときの彼女のイメージから来ているような気もします)。
86年にはNHK大河ドラマ『いのち』主演に抜擢され、平均視聴率29.3パーセントの人気を得て、国民的女優として君臨。87年の降旗康男監督『別れぬ理由』ではセミヌードやベッドシーンにも果敢に挑戦し、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など多数受賞。
この勢いは90年代まで続き、92年の神山征二郎監督『遠き落日』では野口英世の母シカの生涯を16歳から亡くなる66歳まで演じ切り、ここでも日本アカデミー賞主演女優賞をなど多数受賞しています。94年には再度NHK大河ドラマ『花の乱』で応仁の乱における稀代の悪女・日野富子の内面の苦悩を見事に体現していきました。
その後、我が子の不祥事でスキャンダルに見舞われるなど不遇の時期もありましたが、そのころ三田佳子のことを気遣ってくれた映画人のひとりが、91年の『おいしい結婚』(91)以来意気投合していた森田芳光監督で、『海猫』(04)では何とオバアの役をオファーしましたが、彼女も監督の意を汲み、果敢にそれに応え、見事に映画界に返り咲きました。
そんな森田監督が早逝し、杉山泰一監督をはじめ残された森田組のスタッフが撮り上げた『の・ようなもの のようなもの』(16)の中で、三田佳子扮するスポンサーは、行方不明になって久しい落語家の志ん魚に会いたいとつぶやきますが、それは森田監督にまた会いたいという彼女の叶わぬ願いを代弁した台詞のように思えてなりませんでした。
2014年、春の叙勲で旭日小授章を受章。まだまだ銀幕に花を咲かせてくれそうな、そんな勢いを感じさせてくれる生涯現役の“映画女優”です。
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(文:増當竜也)
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