そこにいるのは亀岡拓次か?安田顕か? はまり役を超えたはまり役!
(C)2016「俳優 亀岡拓次」製作委員会
TEAM NACS結成20周年の年、その先陣を切る安田顕主演作が登場
北海道のローカルバラエティ「水曜どうでしょう」をレギュラー放送から見ていた者にとって、今の演劇ユニットTEAM NACSの活躍を見ると何とも感慨深いものがある。
大泉洋以下あそこで些細なことでボヤキあい、罵りあい、笑いあっていた面々が今やもっともチケットが取れない人気劇団とまで言われるようになっている。不思議な光景だ。
切り込み隊長の大泉洋はバラエティでの成功は予見できたが、俳優等しても超のつく売れっ子になった。先ごろもブルーリボン賞で主演男優賞を受賞、大河ドラマ「真田丸」出演中。
最新主演作の「アイアムアヒーロー」(佐藤信介監督)も4月23日土曜日に公開を控えている。先陣を切った大泉洋に続く形で各メンバーも今や映画にドラマに欠かせない存在となっている。新婚ホヤホヤの戸次重幸は主演映画「ホコリと幻想」(15年、鈴木聖史監督)のDVDがまもなく発売される。
最年少の音尾琢磨は「森山中教習所」(豊島圭介監督)が待機中。近年は農業タレント宣言をして全国区での俳優活動セーブ中のリーダー森崎博之ですら「愛を積む人」(15年、朝原雄三監督)に顔を出している。
そんな中、ひときわ活躍が目立つのが安田顕だ。昨年だけ映画5本、ドラマ2本に出演。ドラマ「下町ロケット」ではドラマのヒットも相まって一気に露出が増えた。その安田顕が満を持して映画に主演した作品が「俳優 亀岡拓次」(横浜聡子監督)。「水曜どうでしょう」のミスターこと鈴井貴之の第1回監督作品「man-hole」以来の主演作品だ。
はまり役という言葉以上のはまり役
小説であれ漫画であれ原作のあるモノの映像化といえば、各キャラクターを誰が演じるか、それがイメージに合うか?合わないか?は作り手も見る側も意識せざる得ないところだろう。何から何まで違うといわれることもあれば、漫画やアニメであれば外見はそれなりに合わせてきたなと思うときもある。勿論俳優や演技と全くずれてしまい、外見の完成だけで映画が終わってしまっている時もある。
この「俳優 亀岡拓次」は小説原作なので、キャラクターの外見を合わせる必要はない、しかし映画を見てしまうと、いやそれ以前にポスターのビジュルアをチラッと見た時から、亀岡拓次は安田顕にしか見えない。
はまり役という言葉がある。映画に限らずドラマ、演劇などで多くの俳優が多くの役でそう言われ続けてきた。具体的に挙げ出したらキリがないぐらいだろう。
原作は劇作家で芥川賞候補作家でもある戌井昭人の11年刊行の小説でタイトルは映画と同じ「俳優 亀岡拓次」であるが、そもそもの原作のタイトルが「俳優“安田顕”」だったのではないかと思ってしまう。
“スイマセン”が口癖で、お酒が好きで、少し猫背気味で歩く。“水曜どうでしょう”時代からずっと見てきた安田顕、いや敢えてファンから敬意を込めた愛称“安田さん”がそこにいた。設定年齢こそ亀岡のほうが少し若いが、あとはそのまま。意図的だったらしいがいつも死んだ目をしているのも変わらない。
また作品の大小にあまりこだわらず役の大小にもあまり頓着せずに来た作品はどんどん出る。気が付けばどこを見てもいる顔、文字通りの脇役俳優がそこにいた。もうその俳優は安田顕なのか亀岡拓次なのか分からない。
従来通りの使い方の“はまり役”という言葉だけでは少々物足りない。何か新しい表現はないのだろうか?
脇を彩る若手から大ベテランまでそろって見せてくれる、映画愛・演技愛。
横浜聡子監督作品3作品目で、もはや横浜監督のミューズとなった感のある麻生久美子は少し珍しいちょっとくたびれた色気を見せてくれる。
実際に映画・映像制作もしている新井浩文、染谷将太はそのまま若手映画監督役で登場。三田佳子は舞台の演出もする大ベテラン女優というセルフパロディのような役どころを楽しそうに演じている。山崎努が演じる大御所監督の姿は山崎本人が今までに演出を受けてきたであろう数々の名監督の姿が透けて見える。
劇中映画として登場する映画作品もどこかで見たことがあるような映画達が登場する。どれもこれも映画ファンとしては目になじんだお馴染み風景たちだ。横浜監督自身の様々な映画の顔が見えてくる。
その何とも愛おしい人々、劇中映画の間をふらりふらりと亀岡さん=安田さんが心地よさそうに浮遊している。見ているこちら側は居心地良く、そして亀岡は少し居心地悪そうに。
テアトル新宿のメッセージボード。“onちゃん”などなど水曜どうでしょう時代からのファンからのメッセージは今も自然とよせられる
テアトル新宿他全国大ヒット公開中
(文・撮影:村松健太郎)
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