音楽

REGULAR

2016年03月26日

青春映画としての音楽アプローチ。『ちはやふる 上の句』のサウンドデザインの魅力に触れる。

青春映画としての音楽アプローチ。『ちはやふる 上の句』のサウンドデザインの魅力に触れる。

■「映画音楽の世界」

みなさん、こんにちは。

先週より公開となりました映画『ちはやふる 上の句』。みなさんはもうご覧になりましたか? 私自身つい先日鑑賞しましたが、実に爽快な作品で、思いのほか楽しむことができました。

ちはやふる -上の句-


(C)2016 映画「ちはやふる」製作委員会(C)末次由紀/講談社


先に書いてしまえば、文句なしにおススメの作品です。

映画を丁寧にコントロールした監督の手腕。白熱の競技かるたを捉えたカメラ。テンポの良い編集。そして、若手俳優たちの熱演。しっかりと作品世界を構築した映画であり、邦画のポテンシャルを感じた作品となりました。

さて、今回の『映画音楽の世界』では、そんな各要素が渾然一体となった映画『ちはやふる 上の句』の音楽について紹介したいと思います。

青春映画音楽の名手、作曲家・横山克。


講談社から発売されている末次由紀原作の漫画『ちはやふる』を映画化した本作。映画は「上の句」と「下の句」に分かれ、前編にあたる「上の句」が3月19日から公開となりました。主人公の綾瀬千早に広瀬すずさん。『タイヨウのうた』や『カノジョは嘘を愛しすぎている』の小泉徳宏監督がメガホンを取り、音楽は横山克さんが担当しました。

横山克さんは最近では『ガラスの花と壊す世界』や、クラムボンのミトさんと共作した『心が叫びたがってるんだ。』の音楽を担当していて、昨年公開された桐谷美玲主演の『ヒロイン失格』も手掛けました。

『ヒロイン失格』の劇伴では、恋に揺れる主人公のはとりの感情に寄り添うような優しげなメロディーラインを、ピアノや弦、フルートでしっかりと紡ぎあげ、音楽面から映画の大ヒットに貢献していたと思います。そしてそんな青春要素だけでなく、学食のオヤジこと竹内力さんの登場シーンではアクションスコアを、某大ヒット映画をそのままパロディーにしたシーンの曲には[世界は関係なく、利太がさけぶ?]と題した悲劇的なスコアを作曲し、音楽は真面目なのに劇中ではコメディーとしての役割を果たすという、実に面白い効果を生んでいました。

世界を彩り、ほとばしるエネルギーを表現した音楽。


『ちはやふる』については正直を言いますと原作未読の状態で、鑑賞前は「かるた映画」ということで作品に対してどことなく古風なイメージを抱いていました。

そうなると、自然に頭に浮かぶ音楽は、例えば三味線や太鼓など日本の伝統楽器をエッセンスにした音楽が似合うのではないか、と想像してしまうわけです。横山克さんは、私の中で前述の担当作品を眺めてみて「青春映画に強い作曲家」というイメージで形成されていたので、映画の雰囲気と合っているのだろうか、とクレジット発表時から気になっていました。

結果、映画を観てみると『ちはやふる』は競技かるたの魅力を伝えるだけではない、競技かるたに全身全霊で打ち込む千早たちの姿とその友情、絆を描いた青春映画としての完成度も高い作品でした。かるたの奥深さ、競技かるたの迫力も描きつつ、映画の本質は今という瞬間に青春を駆け抜ける若者を瑞々しく描いた部分にある、と感じました。

そう捉えると、むしろ「青春映画に強い作曲家」の横山克さんは『ちはやふる』という映画に不可欠な作曲家で、まさにぴったりの人選だったのだと解りました。

『ちはやふる 上の句』の音楽を全体的に見渡してみると、作曲スタンス的には『ヒロイン失格』と通じるものがあります。ピアノと弦楽器を情感たっぷりに奏でる一方で、オープニングで千早が見せる爆発的な能力の描写や手が畳を叩き札が弾け飛ぶ、まるでアクション映画を観ているような「競技かるた」という要素に対してはテンポよくエネルギーを注ぎ、物語に応じて緩急を付ける采配のバランスの良さを発揮していました。

あえて時代の先端をゆくサウンドを配置。Perfumeによる主題歌。


主題歌は予告編の時点で流れていたPerfumeの[FLASH]で、個人的にはこれも競技かるたという世界観にまさに現代的なデジタルサウンドである中田ヤスタカさんの楽曲が合うのだろうかとずっと疑問に思っていました。しかし鑑賞してみると前述のように「青春を駆け抜ける若者たち」を描いた映画だと認識を改めると、エンドロールで流れるPerfumeのその主題歌は不思議なくらい作品に合っているように私には思えてしまったのです。

あえて現代のサウンドデザインの先端を行くPerfumeを起用し、電子音とかるたという新旧要素を対比させた選曲センスには唸らされました。しかもそれだけではなく、──詳細は伏せますが──新旧その橋渡しを担うようなエンドクレジットのデザインもまた感性にあふれた素晴らしいものであり、なるほどこれならますますPerfumeの主題歌にうまくバトンが渡されていくのだなと、小泉監督の明確なヴィジョンにますます驚かされました。

『ちはやふる 上の句』はまだ上映も始まったばかり。後編となる『ちはやふる 下の句』は4月29日の公開となりますが、先に映画のサウンドトラック盤が4月6日に発売となります。競技かるたを通して描かれる彩り豊かな世界観を、音楽の面から触れてみるのはいかがでしょうか。

[amazonjs asin="B01C7HYOS2" locale="JP" title="映画『ちはやふる』オリジナル・サウンドトラック"]

■「映画音楽の世界」の連載をもっと読みたい方は、こちら

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

(文:葦見川和哉)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!