実は、神木隆之介くん版「テラ・フォーマーズ」だった、話題の映画「太陽」!人間にとっての真の幸福とは何か?
情報の遮断とコミュニケーションの不全
そう、思えば入江監督の作品において、「言葉へのこだわり、情報とコミュニケーションの遮断」は、毎回重要な要素となってきた。
本作での、ノックスが異様に形式・言葉使いにこだわる描写などは、まるで数学の数式にこだわるようであり、感情を失って理性=うわべに重点を置くノックスの特徴を良く表現した小説版では、単に取材陣の前で純子に謝罪の言葉を大きな声で言わせる事で、報道的に効果を狙ったとの描写がされているのだが、映画版ではしつこい程に何度も大きな声で繰り返させるし、後でもう一度この描写を登場させて、まるでノックスと化した副作用として「言葉使いに異様にこだわる」という現象が現れたかのように印象つけている。
天国と地獄、その寓話としての「太陽」
本作を鑑賞中、実はある昔話を思い出していた。天国と地獄にまつわる古い寓話だ。
ある男が神様に連れられて、天国と地獄を見学することになった。まず訪れたのは地獄の方。
そこでは意外にも、人々の周りにたくさんの美味しそうな食べ物が溢れんばかりに置いてある。しかし、地獄の住人は皆ガリガリにやせ細って、悲しそうに泣いていた。よく見ると、地獄の住人の腕は肘と手首が曲がらないようになっており、せっかくの美味しそうな食べ物も、自分では決して食べられないようになっていたのだった。
次に男が訪れたのは天国。そこも地獄と同様に、天国の住人の周りには美味しそうな食べ物が溢れていた。その上なんと、天国の住人の腕も地獄の住人と同じように、肘と手首が曲がらないようになっている。ところが意外にも、天国の住人は皆丸々と太っていて、幸せそうにニコニコと微笑んでいるではないか!
「これはいったい?」男が良く観察すると、その理由はすぐに判った。天国の住人は二人一組になって、互いに相手に食べ物を食べさせていたのだった。
眼の前にありながら、どうしても手に手に入れられない幸福。しかし、二人で互いに足らない点を補い合えば、幸福を得ることが出来る。
映画「太陽」のラストシーンを見ながら、この天国と地獄の話こそ、本作のテーマなのではないか?そう思えてならなかった。
実は、神木隆之介くん版「テラ・フォーマーズ」だった、話題の映画「太陽」
更にもう一つ。太陽を永久に失うことになったノックスの設定を鑑賞中に思い出していて、ふと気付いたことがあった。そう、試しに本作の基本設定を、もの凄く簡単にまとめてみると次の様になる。
暗闇で生息し、病原菌を持つ事で人に忌み嫌われる存在が、絶対数を獲得し優れた知能と身体能力を持って人類と拮抗する勢力となった未来。はい、これってGW最大の話題作「テラ・フォーマーズ」の設定そのものじゃないですか!(注:これはあくまでも個人の見解です)
幸いこの2作は同時期に劇場公開中なので、ここはぜひ、両者を見比べて観るのもまた面白いのではないだろうか。
(C)2015「太陽」製作委員会
最後に
実は、同じ日に観た映画「スポットライト」の中に登場したセリフが、この作品の本質を表現していると思ったので、ぜひここで紹介させて頂きたいと思う。
「人生は、足元も見えない暗闇の中を歩いて行くようなもの。そこに光が射すことで、自分の進んでいる道が間違っている事に気付く」
自分達の生活から太陽が奪われたことで、ノックスはその判断を失ったのだろうか?あるいは、太陽の下にいながらその事に気付かず、利己的な争いを続けるキュリオたちにも、いつか光が射す日が訪れるのだろうか?
上映時間の関係上、映画は小説とは違って丹念な描写が出来ないのは理解出来る。そもそも映画は「省略の芸術」であるため、情報量の多い小説に対して、映画化には常に要素の取捨選択が行われることになるからだ。今回、映画の公開に合わせて発売された小説版「太陽」の完成度は極めて高く、実際鑑賞後のレビューには、映画の内容が良く判らなかったとの意見も多数見受けられる本作だけに、より深く理解して楽しむためにも、ぜひ鑑賞後に小説版を併せて読んで頂ければと思う。
それと併せてGW中の読み物としてぜひオススメしたいのが、3月に洋泉社から発売された本、シネマズ公式ライターでもある斉藤守彦さんが書かれた「映画を知るための教科書1912〜1979」だ。
商品としての映画と、その流通経路である配給会社・宣伝会社、そして映画館の仕組みや歴史的背景が、この本には実に詳しく書かれており、例えば同じ「TOHOシネマズ」でも、映画館によって上映作品に違いがあるのは何故か?といった、普段誰もが抱く疑問に対しての答えを教えてくれる貴重な内容となっている。GW中の映画鑑賞のお供に、ぜひお読み頂ければ幸いです。
最後に、映画「太陽」鑑賞後に見ると、より楽しめる映画6本を紹介しておこう。
「ヤングゼネレーション」「ブルークリスマス」「地球最後の男・オメガマン」「第五惑星」「ゴキブリたちの黄昏」「猿の惑星・征服」だ。お時間がありましたら、ぜひ!
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(取材・文:滝口アキラ)
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