いつかこの団地の話を撮りたいなあ、と思いました――

あらたに“団地映画”に仲間入りする映画『海よりもまだ深く』は、なぜ団地を舞台にしたのか？是枝裕和監督がその思いを明かしている。

是枝裕和監督最新作『海よりもまだ深く』
“団地”を舞台にしたその理由

先日、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門への正式出品が決定した映画『海よりもまだ深く』。本作は、“なりたかった大人”になれなかった大人たちを描く是枝裕和監督の最新作だ。

叶わぬ夢ばかり追い続ける情けない主人公・良多を、阿部寛がときに可笑しく、ときに切なく、チャーミングに演じる。そんな良多に愛想を尽かした元妻に真木よう子。そして、良多の人生を穏やかな眼差しで見つめる母に樹木希林。さらに、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮、橋爪功ら豪華キャストが集結した。




本作同様に“団地”を舞台にした映画はこれまでも数多く製作されてきた。

建設されたばかりの団地を舞台にした、ブラックユーモア溢れる密室劇である『しとやかな獣』（1962年）、昭和後期の団地を舞台に、松田優作演じる風変わりな家庭教師が騒動を巻き起こす名作『家族ゲーム』（1983）。

13年前から謎の死が続いているクロユリ団地を舞台に、恐怖の連鎖を描く中田秀夫監督の戦慄のJホラー『クロユリ団地』（2013）、エッチなことばかり考えている男子中学生が、同じ団地に越してきた謎のシングルファー­ザーとの出会いを経て成長していくさまを描く宮藤官九郎の青春コメディ『中学生丸山』（2013）。

そして今年6月4日には、団地を舞台に、ある秘密を抱えた主婦を描く、阪本順治監督最新作『団地』も公開されるなど、一種のジャンルとして”団地映画”は、その存在を確立しているといっても過言ではないだろう。




本作『海よりもまだ深く』も、是枝裕和監督が9歳から28歳まで実際に住んでいた、東京都清瀬市の旭が丘団地が舞台となっているが、なぜ団地を舞台に是枝裕和監督は作品を撮ろうと思ったのか？

「父が亡くなって、団地でひとり暮らしを始めた母の元へお正月に帰った時に、いつかこの団地の話を撮りたいなあ、と思いました。最初に浮かんだのは、台風の日の翌朝、芝生が綺麗になった団地を歩く風景です。台風が通り過ぎた後の団地が美しかったのを覚えています」と是枝裕和監督は、その理由について明かす。

“夢見た未来と少しちがう今を生きる大人たち”を描いた本作だが、是枝裕和監督は「なりたいものになれなかったのは団地も同じなんですよね」と語る。

かつて憧れの集合住宅として全国に建てられた団地。しかし今や老朽化や住民の高齢化といった問題を抱え、当初のイメージと異なる状況に直面している。そんな団地のたたずまいを、是枝裕和監督は、なりたいものになれなかった登場人物たちの切なさと重ね合わせ、郷愁と共に映し出した。

「姪がひばりが丘の団地にいて、同じような環境だからすごく共感できた」「この気持ちで帰路につけるのは嬉しい。団地の生活がリアルで素晴らしかった」「久々に素晴らしい邦画を観たと感じました。監督の素晴らしい脚本に素晴らしい俳優、そして手抜きのない団地の風景。上映時間いっぱい惹きこまれました」など、今の日本にとって原風景的存在になりつつあるその景色と、そこを舞台に紡がれる物語に、一足先に鑑賞した人々からは共感の声が相次いでいる。

映画『海よりもまだ深く』は2016年5月21日（土）丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他全国ロードショー。

(C)2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

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