映画コラム

REGULAR

2016年05月31日

『ズートピア』解説、あまりにも深すぎる「12」の盲点

『ズートピア』解説、あまりにも深すぎる「12」の盲点


2.ジュディは“見た目”で判断して、“中身”を知ろうとしなかった



一見“正しい”性格をしているようなジュディでしたが……じつは、ほんのすこしの差別(偏見)意識が作中でみえています。というよりも、彼女は「自分は見た目で判断されるのを嫌う」くせに「とても物事の見た目を気にしている」のです。

ジュディの“見た目を気にする”性格がもっとも表れていたのが、 レンジでチンした“おひとりさまにんじん”の中身を見たシーンでしょう。彼女はそのにんじんの小ささにがっかりして、食べようとはせず、そのままゴミ箱に捨ててしまうのです。

この“おひとりさまにんじん”の対比になっているシーンがあります。それは、後のMr.ビッグの娘の結婚パーティにて、ニックが“ネズミサイズのプリン”を食べたときのこと。彼はプリンが小さいからといってがっかりせずに、スプーンでていねいにすくって、味わいながら食べて笑顔になっていました。

このふたつのシーンで、ジュディはじつは物事の見た目を重視するあまり“中身を知ろうともしない”、ニックは物事の“中身をちゃんと知ろうとする”性格であることがわかるんです。

そのほかにも、ジュディは小さくてジメジメした住まい(うるさい隣人もいる)を「いいじゃない!」と肯定していたようでしたが、玄関前にはカラフルでかわいらしいマットを敷いていたりもしました(少しでも見栄えをよくしたかったのでしょうが、セメントまみれになった足で汚してしまうのが切ない……)。

さらに、ジュディはヌーディスト(はだかで暮らす人々)たちにも拒否反応を覚えていましたね。彼女はなんとか堂々とした態度でいようとするけど、やはりところどころで目を塞いでしまっていました。

さらにさらに、ギャングに捕らえられたとき、ジュディはつぎつぎに出てくるシロクマたちのことを「あれがMr.ビッグね!」などと、その名前から“決めつけ”をしていました(本当のMr.ビッグは、名前に反して小さなネズミだった)。

これはクスクス笑えるコメディーシーンというだけでなく、ジュディの性格をしっかり示していたんですね。

ジュディの“表面上だけをみている”ということは、中盤のあの悲劇にもつながってきます。
彼女は肉食動物だけが凶暴化するという事実を、“生物学的な共通性がある”という客観的な視点で答えていたようですが、それが“多くの肉食動物を傷つける”という重大なことに気づけなかったのです。

そして、一度は持って行こうとしなかったコンスプレー(キツネ撃退用のスプレー)を携帯していたこと、それをとっさに使おうとしていたことをニックに指摘され、ジュディの“(ニックの)表面上ばかりを捉えていたこと”は決定的となるのです。

3.ジュディは“職業差別”をしていた?

明確に差別意識と呼べるものではないですが、ジュディの以下の行動とセリフも、少し“引っかかる”ものがあります。

ジュディが初めて警察に来たとき

ジュディは新任で駐車違反の切符をきる仕事を申し付けられるが、「私は警察学校でトップの成績だったんですよ!」とボゴ署長に反論する。

ひどい1日が終わって両親にテレビ電話をしたとき

父親に「駐車違反の切符をきる仕事の制服だ!」と指摘されると「これは今日だけなの!」とごまかそうとする。

切符をきる仕事をして、市民から罵詈雑言を吐かれたとき

「私は本当の警官、私は本当の警官……」と頭を打ちつけながら自分に言い聞かせる

もちろん、これらは“自身の努力と能力に見合った仕事がしたい”というジュディの純粋な気持ちそのものであり、(いくら新任とはいえ)不当な仕事を押し付けられたことに対しては当然と言える反応です。しかしながら、彼女にはほんの少しだけ、職業差別的な意識も見えているようにも思えるのです。

彼女は努力して警官になったということもあり、“(自分が思う)立派な仕事”でないと、自己肯定ができないようになっていたのではないでしょうか?


振り返れば、ジュディの両親は「夢を諦めたからこの(農家の)仕事ができているんだ」「新しいことをすれば失敗もある」「にんじんはただ売るだけでいい、これも立派な仕事だ」などと幼いころのジュディに言っていました。(ジュディはそれらの両親の言葉に「私は、新しいことをするの好き!」と返したり、困惑した表情をしている)

初めてのウサギの警官を目指すほどに向上心が高いジュディにとって、“努力を伴わないような両親の仕事”は受け入れられないものだったのかもしれません。

4.ベルウェザー副市長にあらわれている自己顕示欲とは?

黒幕のベルウェザー副市長の“心の闇”は、作中で何度かあらわれています。

・ジュディがウサギ初の警察官となって写真を求められたとき

ベルウェザーはカメラの前に出て自分をアピールしようとする。

・ジュディとニックの捜査に協力したとき

「(副市長というのは)名前だけ、実際は秘書なの。選挙で羊の票を集めるためよ」と言っている。



・ジュディが肉食動物だけが凶暴化する事実を発表したとき

ベルウェザーは笑顔でジュディに「とてもよかったわよ」と言っている。

ベルウェザーは、“誰かに認められたい”という自己顕示欲が旺盛なばかりか、たとえ誰かを傷つけようとも、自分の地位を守ろうとしていた悪しき人物だったのですね。
これは、ジュディが出した結論とは対照的になっています。

5.ジュディは、自身にあった差別意識と、大切な仕事を知る

ジュディは、チーターのクロウハウザーが、せっかく受付の仕事を気に入っていたのに、肉食動物が凶暴化する報道のために異動を命じられたことを目の当たりにします。

ジュディは警官という“望んだ仕事”のために努力してきたのですから、それが奪われてしまうことを知ったときのショックは大きかったことでしょう。

そして、ボゴ署長に「こういうときこそ立派な警官が必要だ、お前のような」と言われようとも、ジュディはずっと憧れていたはずの警官のバッジを返します。

市民を守ることが自分の信じていた仕事であったはずなのに、思慮のない行動で、自分自身が多くの人の差別意識を産んだこと、そして肉食動物たちを傷つけてしまったことを知ったのですから。

そして、故郷に帰ったジュディが出会ったのは、立派にパンの販売の仕事をしていたキツネのギデオンでした。

ギデオンは子どものころに「ウサギが警官になれるわけがない」という理由でジュディをいじめていたことを「あのころは自分に自信がなかったんだ」と謝り、ジュディは「私も似たようなものだから」と答えました。

ここで、ジュディは“正しい”と思っていた自分にも、差別意識があったことを認め、はっきりと言葉に出しています。彼女が認めた差別意識とは、“見た目で判断する”ものだけなく、職業差別をも差していたのかもしれません。

幼いころに自分をいじめていたギデオンが、大切な仕事をしていたことを知ったのですから。これは、彼女が“表面上だけでない、物事の中身”を知った瞬間でもあるのかもしれませんね。

6.ニックは記憶力が抜群だった!



キツネのニックは、じつは記憶力がとてもよかったりします。

ジュディが“ジュディ・ホップス”というフルネームを告げたのは、免許センターのナマケモノのフラッシュと、豹変してしまったカワウソのオッタートンに名乗ったときのみで、ニック自身には“ジュディ”という下の名前を言っていなかったりするのです。

しかし、……ニックとジュディがともに川に落ちたとき、ニックは「にんじん、ホップス、ジュディ!」と、しっかり名前を告げています。

このシーンは、“にんじん”とばかりジュディを呼んでからかっているニックが、“大切なとき”にはちゃんと名前を呼んでいるということも示しています。

そのほかにも、ニックは一度しか言っていなかった捜査の残り時間を覚えていましたし、その記憶力のよさは交通カメラを使った捜査でも大いに役に立ちます。ジュディが警官としての才能を見抜くのも、当然ですね。

そういえば、ヒッピーっぽいヤクのヤックスが「ゾウは記憶力がいい」と言って、ヨガ教室を開いているゾウのナンギの所へ行くと、ナンギのほうは全然覚えていなくて、ヤックスのほうが記憶力が抜群だった、というシーンがありましたね。

これは「自分では記憶力がいいという長所に気づいていない」ということも示しており、それはニックにも当てはまっていたのですね。

また、ニックはもともとジュディと同じ努力家であったのに、幼いころにトラウマにより、自分を卑下してしまっていましたね。彼は記憶力がいいからこそ、そのような悪いこともなかなか忘れられなかったのかもしれません。

7.ニックとジュディは相性が抜群!

ニックは皮肉屋な性格で、マジメなジュディとは対照的なようでしたが……その相性が抜群であることがわかるようになっています。

たとえば、ジュディは終盤の列車でのアクションシーンで、とにかくスピードを上げることをニックに告げていましたが……彼女はスピードの上げすぎで線路を曲がりきれないこと、列車そのものが爆発して証拠がなくなることを見抜けませんでした。

だけど、ニックはそのことを見越して、列車内から証拠品のバッグを持ち出していた! これまでも捜査において連携プレーをみせていたふたりでしたが、ここにきてその関係性がより強固になったようですね。

そして、ラストシーンでは「皮肉を言い合いつつ、お互いが好き合っている」ことを示している会話までもがあるんですよね。なんていうか、もうこいつら結婚してしまえばいいと思います。

8.ニックのサングラスの意味とは?

大好きだったのが、ニックがサングラスをかけているシーンです。

彼は肉食動物たちが見つかったとき「俺は警官じゃないし、関係ないからね」と訴えているかのように、サングラスをかけて、ひょうひょうとしていました。

肉食動物が危険視されるようになったとき、詐欺仲間のフィニックは車にバットを持って隠れていましたが、ニックはサングラスをかけてドリンクをチューチュー吸ってくつろいでいました(笑)。
だけど、ニックはジュディがやってきたのを見て、すぐにサングラスを外していました(ここでのトンネルの“影”の表現も素晴らしすぎる!)。

このニックのサングラスは、彼自身の“皮肉屋な性格”そのもののようです。それが外されるということには、彼の“本質”があらわれる、ということを示しているのではないでしょうか。

この後にジュディは自分の過ちを認めて泣いてしまうのですが……ニックはやさしく抱き寄せてくれました。
この前にサングラスを外していたということは、もうすでにジュディはニックに許された、とも考えられるのです。

また、ニックが警察に就任したとき、ここでも彼はサングラスをしていましたが、ちょっとだけサングラスをずらして、壇上にいたジュディを見るというシーンもあったりします。
ニックは皮肉屋だけど、ちゃんとジュディのことを見てあげているのですね。

9.ふたりをつなげる“にんじん型のペン”

録音機能つきの“にんじん型のペン”が示しているものも、じつに奥深いですね。その使いかたが、どんどん変化していっているのですから。

  • (1)ジュディがニックの脱税の証拠を録音して、捜査に無理やり協力させる
  • (2)ジュディがツンドラタウンの私有地の柵の中にペンを投げて、それを取りに行ったニックについていくことで、“許可がなくても入れる状態”をつくってしまう
  • (3)捜査を協力してくれたニックにペンを渡す。しかも警察の応募書類といっしょに!
  • (4)ニックは、ジュディの“私は間抜けなウサギよ”というセリフを録音して、ジュディと同じように「ちゃんと消してやるよ、48時間後にな」と皮肉を言う
  • (5)ニックとジュディはベルウェザーの思惑を録音して証拠にする!

(1)と(2)ではただの“捜査に協力するための道具”だったけど、(3)では信頼する友だちへの贈り物となり、(4)ではふたりの仲直りを示し、(5)では相性抜群の彼らが巨悪を倒すための道具へと変わる!

この脚本の素晴らしさは、もう「ブラボー!」と言うほかないです。

10.博物館には、“隠された歴史”があった。

終盤にジュディとニックが逃げていた博物館には、“大きな槍を持って佇むマンモスの銅像”がありました。

しかも、ジュディがベルウェザーに見つからないようにするための“身代わり”にしたのは、“槍を持った凶暴な顔をしたウサギの銅像”でした。

これは何を意味しているのか……といえば「たとえ草食動物であっても、武器(槍)を持てば凶暴となりうる」ということだと思います。

作中では、肉食動物には凶暴な野性が残っていること以外にも、ベルウェザーが肉食動物を凶暴化させる植物という“武器”を利用していたことも告げられています。

武器を持った草食動物が博物館に展示されていたということは、彼らが武器を持ったために進化をしたこと、もしくは過去のズートピアにも今回の事件と同じような、草食動物たちの攻撃(反乱)があった歴史を示していたのかもしれません。

これは、アメリカの銃社会をも暗に批判していたのかもしれませんね。人々の力はほぼ変わらないけれど、武器(銃)はその力関係を変えてしまうかもしれないのですから。

また、ニックとジュディがベルウェザーと対峙したときの大きな壁画には、木の上にいるサーベルタイガー(ライオン?)と、それを槍で狙う、おそらくは草食動物と思しき二足歩行の動物たちが描かれていました。

この壁画もまた、はるか昔に草食動物たちの攻撃(反乱)があった歴史を示しているのでしょう。

11.「トライ・エブリシング」も違った意味になる!

主題歌「トライ・エブリシング」が使われるのは、ジュディが初めてズートピアに訪れたときと、エンドロールの2回あります。

歌詞が同じだとしても、そのときに“作中で描かれたもの”に照らし合わせると、さらに奥深いものになっているのが素敵です。





ジュディは希望に胸がいっぱいのままズートピアに訪れるため「どんなことでもやってみよう」という歌詞が、彼女のチャレンジ精神と、期待を表しています。

そしてエンドロールのときは、作中で“チャレンジした結果による失敗”も描かれているため「いつだって新しいミスをしてしまう」「だけどまた挑戦する」という歌詞が、まさにテーマにぴったり合致していることがわかるのです。

12.何度観ても飽きない大傑作だ!

最後に、『ズートピア』をリピートする方への本作のおすすめポイントをひとつ。それは“ジュディの耳に注目する”ことです。

ジュディは警官をやめて故郷に帰ってきたとき、自身は「(調子は)いいわよ」と言っていましたが、母親から「耳が垂れているわよ」と元気がないことを見抜かれていましたね。
ジュディは何かを聞くときのほか、元気があるときに耳がピーン!となっていて、それがすごくカワイイのです。

たとえば、記者発表の前に緊張して耳が垂れ下がっているけど、ニックに「にんじん、そういうときだはなあ……」と言われたとき、ジュディの耳はピーン!と立っていました。ああもうカワイイ!たまらん!

自分は『ズートピア』を4回観たおかげでこれらのことに気づけましたが、まだまだ知らない魅力がたっぷりあるはず。ぜひ、新しい発見をしてみてください。

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