国際映画祭の審査員をやってみた! [一歩踏み込んだ映画との関わり方Vol.2]
過去の記事やプロフィール欄にもある通り、東日本大震災の年までは映画業界でそれなりに働けていた自分だが、大病を患い普通の社会生活が行えないような状況になってしまった。
それでも、ただの映画ファンには戻りたくないし、一応10年以上の業界経験もあるので、何とかこれを活かして映画の側の末席ぐらいには居場所を確保したいという思いもあって、それが“一歩踏み込んだ映画との付き合い方VOL.1”としてご紹介した“スカパー!映画部” への参加だったりする。
そんな、居場所探しのかなり極端な例が二つの国際映画祭の審査員としての参加だった。
かなり極端な話だが、実はこれいくつかの条件をクリアすれば、普通の民間人が参加できるもの。実際に自分も普通にWEBでの公募を見つけて応募し、WEB上の書類審査と都内某所での面接を受けたうえで採用された。
一つ目は12年の第4回沖縄国際映画祭の民間審査員、もう一つが15年の第28回東京国際映画祭WOWOW賞審査員。ちなみに似たようなことで言えば、やはり民間参加で日本アカデミー賞の民間会員にも採用された。一年間活動して春の授賞式にも参加して目の前で「桐島、部活やめるってよ」の最優秀作品賞受賞の偉業の瞬間を見ることができた。
最高の一本を選ぶか?可能性を発見するか?
沖縄国際映画祭、当時はコンペティション部門がLaughとPeaceの2部門に分かれていて、民間審査員は、関東・関西・開催地沖縄の3か所から選ばれた14名で構成されていた。これが二組に分かれて、各部門の審査をした。この審査はグランプリ大賞作品の選考の一環なので、素直にベストを選ぶことが命題だった。
一方、15年の東京国際映画祭ではWOWOW賞は……というと、コンペティション部門から選考であることは同じものの、“その映画の感動を世界中の映画ファンと共有したいと考える1作品を選ぶ”というコンセプトのもので。わかりやすく言えば、新規開拓の意味合いの強い賞、選んだ映画やそのスタッフのその後に期待を込めて選ぶことを求められる賞だった。
最良の一本を選ぶ。
こう書くと沖縄の方は楽だったように思われるかもしれないが、実はとても大変だった。というのも13本のエントリー作品の中に、 “あの”「アーティスト」がいたのだ。日本公開前だったが、すでにオスカー5部門を制していて、いわば圧倒的な本命を意識しながら他の12本と同列に見なくてはいけなかった。前評判や、スタッフ・キャストのネームバリューに引っ張られるのはあまりいいことではないものの、さすがに「アーティスト」程の作品になると作品を取り囲む事柄を完全に無視することはできなかった。
選考は4日間で13本、1日で3本以上を見たうえで、そのあと会議室に移動して当日のそして2日目以降は、前日のものを含めた(仮の)順位をつけるミーティングをするというものを繰り返した。「アーティスト」の存在感を常に感じながら、最後に選ばれたのはアンディ・ラウ主演の「桃さんのしあわせ」だった。ギリギリまで「アーティスト」と競ったものの最後は一本締めで終わる、満場一致の結果だった。ちなみに最後は三本の映画が大接戦となったが、それは初日の1本目と、全体のちょうど3日目の7本目(「アーティスト」)と、疲労困憊の中で見た最後の13本目(「桃さんのしあわせ」)であり、しかも初日は会議室のプロジェクター投影(2日目は大型テレビ)、3日目・4日目は劇場でのフィルム上映と日々蓄積される疲労と鑑賞条件が違う中、それらはあくまでも間接的だということがよく分かった。ちなみに3番手だった「飲食男女」という台湾映画はアン・リー監督の「恋人たちの食卓」の姉妹編ながらPeace部門唯一の日本未公開のままだ。
可能性を見つける。
昨年の東京国際映画祭のWOWOW賞は、6人体制でコンペティション部門の16作品が対象となった。沖縄での選考は映画祭開催前に作品を見て結果を出したのに対して、こちらは開催期間中に、劇場に入り一般観客と一緒に映画を見て、大半の対象作品を見終えた上で、まとめミーティングで作品選考を始めることになった。
最終的にトルコ=ハンガリー合作映画「カランダールの雪」に決定したが、これはかなり難産だった。まずWOWOW賞の定義の解釈に悩まされた。
映画ファンと共有したいこととは何なのか?
新しい賞ならではの求められる“新しさ” “新鮮さ”とはどういうものなのか?
プロ中のプロの審査員団(委員長はブライアン・シンガー)の選考とも、(すべての映画を見なくてもよくて)見た一本の映画を、どう思ったかの投票で決まる観客賞とも違う独自性も求められたりもした。
もちろん審査員六者六様で、使える時間を本当にギリギリフルに使って最終的に “新たな映画体験”という視点から、一発逆転のような形で「カランダールの雪」に決定した。
20時間を超えるミーティングの中、最終的に一本にまとまった流れが各作品のマイナス面を挙げていったり、作品ごとを競合させて競り落としていったりする形ではなく、全体を見通して、これという視点を見つけて選ぶことができたので、達成感のある選考だったと思う。最終的に「カランダールの雪」は監督のムスタファ・カラ監督が最優秀監督賞も受賞して、個人的には自分たちの選考に自信をもらった気がした。
第28回東京国際映画祭WOWOW賞受賞作スペシャル上映会にて記念撮影。
中央の4人が映画「カランダールの雪」の監督・主演俳優・スタッフ。両端WOWOW賞審査員団、右端杖の男が私。)
※第28回東京国際映画祭「WOWOW賞」プレスリリースはこちら
審査員をやってみて
やはり国際映画祭の審査員ともなると、実に華やかな場の中に身を置き続けることができるので、この経験は何事にも代えがたい。
見渡せば国内外の映画人で溢れ、公式な立場で参加ということで、少し恥ずかしい思いをしつつも、レッドカーペットも歩かせてもらった。
一方で、きついのはやはり体力面。メモを取りながら連日何本も映画を見続けるのはなかなかしんどい。そのあとのミーティングはもっとしんどい。さらに遠隔地から参加組は期間中の食・住の確保も問題になる。
ただし、やれる機会があるならやらないという選択肢は個人的にはない。
(文:村松健太郎 撮影:白戸洋行)
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