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2020-07-25

コラム

『追龍』レビュー:60年前の黒社会と警察の癒着から香港の“今”を見る

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(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.



現在の香港の情勢をニュースなどで見聞きするたびに、暗澹たる気持ちにさせられます。

特に警官や機動隊による民衆への非道な暴力など、顔を隠して体制の衣をまとう側の横暴さや傲慢さなどがあまりにも顕著に顕れすぎていて、忸怩たる想いに囚われてしまうことしばし。

そういった中で、現在の香港と中国のシビアな関係性が、かつて香港を占領していたイギリスとの関係性ともさほど変わってないことを教えてくれる1本の香港映画があります……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街488》

7月24日より公開の香港ノワール『追龍』。

ドニー・イェンとアンソニー・ウォン、香港映画界を代表する二大スターが1960年代の黒社会と香港警察の癒着を体現していく中から醸し出されていく血と暴力凄まじいヴァイオレンス映画でありつつ、奇しくも2020年の香港とも共通する「支配する側とされる側」の関係性までも露にしていく社会派エンタテインメント快作なのでした!

1960年代の香港黒歴史を背景に
描かれるワル同士の友情と確執




(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.




1960年代香港の闇を描く『追龍』は、二人の男の友情と確執を軸に進行していきます。

ひとりは中国・潮州から仕事を求めて仲間とともに香港へ入り込んできた不法移民のン・シーホー(ドニー・イエン)。

彼らは当時“悪の巣窟”とも恐れられていた九龍城砦に身を寄せていましたが、あるときヤクザ同士の争いに助っ人として参加したことで警察に逮捕され、その際に現場を指揮していたイギリス人警官ヘンダー(ブライアン・アーキン)がシーホーに怪我させられたことを逆恨みし、警察署内でリンチを受けます。

そのときホーを助けてくれたのが、同郷の警官ロック(アンディ・ラウ)でした。

シーホーはロックに恩義を感じるとともに、まもなくして仲間のカジノでの不手際の落とし前をつけるために、黒社会の世界へ身を寄せることに。

そして数年後、ロックは常日頃から対立する警察幹部トン・ガン(ケント・トン)とマフィアの陰謀で追い詰められていたところをシーホウに助けられます。

しかしその際、シーホウは裏切りの制裁として親分チウ(ベン・ウ)に片足を砕かれてしまいました。

これを機に両者の間に友情が芽生え、以後、共闘しながら、シーホーは麻薬王として、ロックは警察上層部に出世しつつ権力を手中に収めていくのですが……。

支配する側とされる側の
関係性がもたらす歪み




(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.



本作は実在のキャラクターをモデルにした実録犯罪映画で、荒々しくも激しいリアルな熱気が画面からひしひしと感じられる快作です。

最近の香港映画はスタイリッシュな描写で迫るものも多く見受けられますが、本作は一昔前の、それこそ舞台となる1960年代から70年代にかけての猥雑で直情的だった香港ヴァイオレンス映画の気風を彷彿させられるものがあり、一方ではどことなく昭和日本の東映実録映画路線を思い起こしてしまう向きもあることでしょう。

その中でドニー・イェンとアンディ・ラウ。意外にも共演するのはこれが初めてという、アジア映画界の二大スターのピカレスク・ロマンあふれる友情と確執は、時間を追うごとにスリリングに映えわたっていきます。

また、彼らが暗躍していた1960年代の香港はイギリスに占領されていた時期で、香港人のイギリス人に対する遠慮であったり、イギリス人の香港人に対する差別的振る舞いであったり、いずれにしても双方の力関係がもたらす社会の歪みみたいなものまで露になっていくのでした。

(このイギリスを中国に置き替えてみたら、現代の香港が置かれた苦渋のスタンスも改めて見えてくること必至!)

『ゴッドギャンブラー』シリーズのバリー・ウォンと『プロジェクト・グーテンベルグ贋札王』のジェイソン・クワンの共同監督。

当時の香港を象徴するかのようなアジアン・カオスたるスラム街“九龍城砦”を再現し、その生々しくも入り組んだ複雑な作りを立体的に活かした撮影(ジェイソン・クワン監督が兼任)も見事です。

スターの魅力や秀逸なスタッフ・ワークを信条とするエンタテインメントこそが描ける人と社会、そして歴史や思想との関わりを熱く物語る快作であり、少なくも今この作品に接する世界中の観客は今の香港の実情にまで想いを馳せずには入れらなくなるでしょう。

(文:増當竜也)