音楽
映画音楽事件史!降板騒動は監督・俳優だけじゃなかった!
映画音楽事件史!降板騒動は監督・俳優だけじゃなかった!
みなさん、こんにちは。
映画ニュースに目を通していると時折流れてくる、監督や俳優の降板情報。スタジオ側との創作的な意見の対立や他の作品とスケジュールが被ってしまった、など理由は様々。映画製作がスタートした段階での降板劇は公開日にまで影響を及ぼしかねない、配給会社だけでなく映画ファンをヤキモキさせるものでもあります。
当然、映画音楽というジャンルにおいても作曲家の降板、交代となる事態はほとんど話題にならないだけであって同じように起きてしまうこと。実は人気の作品、意外な作品でも作曲家と監督との対立、交代は起きているのです。
今回の「映画音楽の世界」では、そんな映画と映画音楽にまつわる「事件」を紹介したいと思います。
リドリー・スコット×ジェリー・ゴールドスミス、『エイリアン』激怒事件
リドリー・スコット監督のフィルモグラフィーだけでなくSF映画史に残る作品となった『エイリアン』。のちにシリーズ化され今なお新作の製作が続く作品ですが、その裏ではリドリー・スコットがジェリー・ゴールドスミス御大を激怒させたエピソードも有名な話。
事の発端は、リドリー・スコットがジェリー・ゴールドスミスの意に沿わない形で音楽を使用したこと。それもなんの相談もなしに独断で音楽を差し替えたというのだからゴールドスミスが激怒するのも無理はない話で、ゴールドスミスの降板は免れたものの、さすがにリドリー・スコット監督も映画音楽界の巨匠を怒らせたことを悔やみ、後年正式に謝罪を申し入れました。
しかしゴールドスミスはこれを拒否。結局、ゴールドスミスはリドリー・スコットの謝罪を受け入れないまま、亡くなってしまいました。
ちなみに、リドリー・スコット監督のその「悪いクセ」は『キングダム・オブ・ヘヴン』でも発揮されてしまい、知らないところで既成曲を使われていた担当作曲家のハリー・グレッグソン=ウィリアムズも困惑を隠せなかった様子。それでも幾つかの作品を経て、『プロメテウス』『エクソダス 神と王』で補作曲を担当し、二人は『オデッセイ』で再びタッグを組んだのだから喧嘩別れとまではならなかった様子。そして『プロメテウス』の続編にもハリ-・グレッグソン=ウィリアムズの登板が決まっています。
ティム・バートン×ダニーエルフマン、『エド・ウッド』降板事件
映画界でも最強クラスのコンビネーションを見せるこの二人にも衝突した過去が。
バートン監督が愛してやまないという「史上最低の映画監督」と呼ばれたエド・ウッドを描いた作品『エド・ウッド』で、当初はダニー・エルフマンが作曲を担当し、楽曲の制作も始まっていました。ところが、意見の相違からなんとダニー・エルフマンがまさかの降板! 『ピーウィーの大冒険』から始まり、ジョニー・デップ以上に女房役として『バットマン』や『シザー・ハンズ』など名作を送り出していたコンビが、この時ばかりは相容れなかった様子。この作品ではハワード・ショアが音楽を担当しました。
幸いなことにこの二人の仲たがいはクリエイティブ面のみの問題だったようで、続くバートン監督の『マーズ・アタック!』ですぐさまコンビ復活。これでもかと言うくらい、エルフマン節を炸裂させた音楽に仕上げていました。
ゴア・ヴァービンスキー×アラン・シリヴェストリ、『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』作曲家交代劇
今でこそ有名な映画音楽となったパイレーツ・オブ・カリビアンの音楽ですが、実は公開三ヶ月前にして作曲家が交代していたこと、ご存知でしたか?
当初作曲を担当していたのは『バック・トゥー・ザ・フューチャー』シリーズや『フォレスト・ガンプ 一期一会』などを担当してきたアラン・シリヴェストリ。ヴァービンスキー監督とシリヴェストリは『マウス・ハント』『ザ・メキシカン』で既にコンビを組んでいたのでその流れもあったのでしょう。ところが、音楽が映像と合わず楽曲制作がストップ。プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーがとうとうシリヴェストリを降板させ、ハンス・ジマーを呼び寄せます。
しかし、ジマーも他の映画の作曲の契約上登板することが出来ず、代わりにわずか二日間で映画のデモ音源を制作。
それを門下生のクラウス・バデルトに託し、また、タイトすぎる締め切りからジマーが主催するプロダクションから七人もの作曲家を補作曲として起用し、完成へと漕ぎ着けました。それが蓋を開けてみれば、まさに映画音楽界を席巻するサウンドトラックとなったわけですから、どう転ぶか解らないものです(ただしこの騒動でバデルトはプロダクションから離脱、以降ジマーが担当作曲家としてシリーズを手掛けています)。
クエンティン・タランティーノ×エンニオ・モリコーネ、『ジャンゴ 繋がれざる者』決別発言
過剰なリスペクトのあまり、映画公開後に映画音楽界のレジェンドにNOと言われてしまったのが『ジャンゴ 繋がれざる者』のクエンティン・タランティーノ監督。
西部劇の大ファンで、もともとモリコーネ好きを公言していたタランティーノは自身の監督作である『キル・ビル』『キル・ビルvol.2』や『デス・プルーフ』、『イングロリアス・バスターズ』でモリコーネの他作品音楽を使用していました(タランティーノはオリジナル作曲よりも既成曲で音楽を構成する珍しいタイプの監督)。当然、西部劇復讐映画『ジャンゴ 繋がれざる者』でもモリコーネの既成曲を使用したわけですが、これに対しモリコーネがインタビューで統一性がないと不快感を示し、今後タランティーノへの曲提供は行わないとまで伝えられました。
ただし、タランティーノが悪意を持って曲を流用しているわけではなく、また、モリコーネへ音楽担当の正式オファーを出すもモリコーネが多忙で断ったこともあり、モリコーネはタランティーノ監督の心情を理解していた様子。モリコーネがすぐに和解に転じました。この一件を経て二人が念願の初タッグとなったのが『ヘイトフル・エイト』であり、モリコーネがアカデミー作曲賞を受賞するという結果まで付いてきたのでした。
ポール・グリーングラス×ジョン・パウエル、『ジェイソン・ボーン』 祝コンビ復活!
最後にもう一作品。晴れて念願叶ったタランティーノ監督ですが、せっかくなので同じように監督の想いが作曲家に伝わった映画をご紹介。
外伝を含めれば、ボーンシリーズ五作目となる最新作。グリーングラス監督と主演のマット・デイモンがシリーズに復帰したことが話題となりましたが、同じようにシリーズに戻って来たのが音楽担当のジョン・パウエルです。
実はパウエルは2012年に映画音楽からの半引退を宣言し、実際に二年間の空白期間がありました。のちに『RIO2』、『ヒックとドラゴン2』を担当してファンを安心させましたが、それでも実写映画としてはグリーングラスが監督した『グリーン・ゾーン』の音楽を担当して以降、実に五年ぶりに担当したのが昨年の『PAN はじまりの冒険』だったのです。
この間に、パウエルにラブコールを送っていたのが『キャプテン・フィリップス』を手掛けたグリーングラスでした。グリーングラスは『ボーン・スプレマシー』以降『ボーン・ウルティメイタム』『ユナイテッド93』『グリーン・ゾーン』でパウエルを起用。当然のように『キャプテン・フィリップス』も依頼した筈ですが、パウエルは結局登板せず、ヘンリー・ジャックマンが起用されました。
ここでグリーングラス、自身の監督作であることをいいことになんとクライマックスで『ユナイテッド93』でのパウエルの楽曲をそのまま使用したのです。
さすがにジャックマンの心中を思えば複雑ですが、パウエルにとってみれば、グリーングラス監督からのこの上ないラブコール。パウエルは現在も仕事をセーブしている状況ですが、監督からのラブコールに応える形で、『ジェイソン・ボーン』への復活となった印象です。
ただしデヴィッド・バックリーとの共作ではありますが、それでもボーンシリーズの音楽にジョン・パウエル以外の音楽が当てはまるとは思えず、ファンも安堵したのではないでしょうか。
『ジェイソン・ボーン』は10月7日公開予定となっています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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(文:葦見川和哉)
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