イギリスで世界一になった東京のあるものとは!?
知っていましたか?イギリスで世界一になった日本映画
(C) 1953/2011 松竹株式会社
「東京の名物ってなんですか?」と言われてもうまく説明できません。
東京バナナ?東京タワー?TOKYO、トウキョウ…。
そんな中、私はひとつの映画があることに気づきます。それは「東京物語」です。
小津安二郎の映画「東京物語」は、英国映画協会(BFI)の2012年「映画監督が選ぶベスト映画」部門で1位に輝きました。ウディ・アレン、マーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノなど、そうそうたる映画監督が投票しています。
さらには批評家部門でも3位になっています。10年に一度、投票は「映画監督」358人と「批評家」846人によってベスト作品が選ばれます。
映画「東京物語」を新東京名物に!
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1953年に制作された日本の映画が、世界一。さらに世界の最たる映画監督が選んでいます。
これは言ってみれば、プロの料理人が認めた料理と変わらないと思います。
それがしかも日本人が作ったもので、そんな料理が身近にあるのに食べていないのはもったいない。明日からお店の前に行列ができていても不思議ではありません。
世界が認めた映画「東京物語」、タイトルもさることながら、新東京名物といえば「東京物語」でいいのではないでしょうか。
ひとつの映画の中に3世代を観る
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物語は尾道(広島)で暮らす老父婦が、東京に住む成人した子供たちを訪ねるところから始まります。日本は高度経済成長期の真っ只中、老父婦はとにかく不慣れな東京に困惑します。子供たちは東京の慌ただしい生活の中で仕事に追われており、親が訪ねてきて少し面倒くさそうにします。
さらに思春期の孫からも冷たくされて、老父婦は隅に追いやられるように東京で過ごします。そんな中、戦死した次男の未亡人だけが老父婦を優しく迎え入れるのでした・・・。
「東京物語」は生涯に3回程、楽しむことができます。この映画は3世代が一つの画面の中に集合します。一つ目が配偶者をもたない世代(子供)。二つ目は夫婦、または子供を持つ親。三つ目は孫をもつ祖父母です。
誰もが歳を取り、それぞれの世代を通り過ぎます。それぞれの役割、立場にならなければわからない想いや葛藤が常にあります。親の立場になってはじめてわかること、孫ができてはじめてわかること、子供のとき誰もが感じる悩み。そういった壮大な人生の物語が「東京物語」には詰まっています。
世界の名だたる映画監督たちも
「東京物語」にオマージュを捧げています
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「東京物語」は国境越え、世界の映画監督に愛されています。
例えば、ジム・ジャームッシュ(アメリカ)は映画「ストレンジャー・ザン・パラダイス」の劇中で、競走馬に「トウキョウ・ストーリー」と名付けています。さらにヴィム・ヴェンダース(ドイツ)は小津安二郎を敬愛するあまり、「東京画」という小津安二郎についてのドキュメンタリー映画を製作しています。
「東京画」には「東京物語」に出演している笠智衆へのインタビューも記録されています。さらにさらに台湾の映画監督のホウ・シャオシェンも「珈琲時光」という映画で・・・。あげていったらキリがありません。彼らは「東京物語」をまるで聖書のように崇めます。
彼らを魅了し、影響を与え続けている理由は一体何なのでしょうか?それは、「変わらないもの」です。それはどれだけ時間が経っても、時代が移り変わり、流行が何回繰り返されようとも「東京物語」は風化されず変わらないと考えているのです。私たちの子供や孫も、その次の世代が見ても変わらない、普遍的な物語が存在するということです。それは言い換えるなら、信じられるもの、精神的支柱と呼べるのではないでしょうか。
当たり前すぎて、忘れていることを再認識
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それは映画のようで、映画ではない。誰かの人生を垣間見ているような気さえしてきます。当たり前のことすぎて普段のわれわれが忘れがちな、祖先がいなければ今の自分はいないということ、子供もいずれ親になるということ。
そうやって数珠繋ぎにわれわれ人類はこれからも歩んでいきます。非現実を見せる映画もいいですが、改めてゆっくり自分の存在について考えてみる時間もとても贅沢な時間です。おそらく映画を見終わると、誰かの物語が自分の物語にすり替わっているという不思議な体験ができると思います。
東京物語」は恋人や夫婦、家族と一緒に観てもよし、ひとりで観るのもよし、国境さえ越えて、私たちにこの地球で生きることの奇跡を教えてくれます。もしかしたら誰にでもある、ありきたりな物語こそ未だ誰も見たことがない非現実の世界なのかもしれません。
[この映画を見れる動画配信サイト](2016年12月9日現在配信中)
(文:内田俊太郎)
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