映画コラム
「死んだ目をした」ベン・アフレックがハマり役! 最新主演作『ザ・コンサルタント』で見せる、驚異的な強さを見届けよ!
「死んだ目をした」ベン・アフレックがハマり役! 最新主演作『ザ・コンサルタント』で見せる、驚異的な強さを見届けよ!
(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
みなさん、こんにちは。1月21日より、全国劇場でベン・アフレック主演の『ザ・コンサルタント』が公開されました。
監督は、総合格闘技での兄弟対決を描いた『ウォーリアー』で高い評価を得たギャビン・オコナー。共演にアナ・ケンドリック、J・K・シモンズら。表の顔は有能な会計士、しかしその裏の顔は高度な戦闘術を持つ暗殺者というクリスチャン・ウルフをベン・アフレックが好演しています。
今回の「映画音楽の世界」では、そんな『ザ・コンサルタント』をご紹介します。
安心&安定のギャビン・オコナー監督節×最強の男、ベン・アフレック
映画はオープニングから幼少期のウルフの性格を巧みに切り取っていきます。ウルフは自閉症と診断されながらも天才的な能力を発揮するというサヴァン症候群の様子を見せますが、ある歌を口ずさみながらパズルをやすやすと組み上げていき、それだけでも凄いのに実はそのパズルは──と、いきなり畳みかけるような演出を見せ、観客の目を一気にウルフに釘付けにします。
そうして大人になったウルフをベン・アフレックが演じ、幼少期同様、大人になってもドライビングテクニックや常に遠隔監視を怠らないといった細かすぎる性格をしっかりと上乗せしていき、ウルフという人間性を確実に肉付けしていきます。
そこから、徐々にウルフの格闘・射撃スキルを見せていく焦らしの演出。オコナー監督、じっくりと物語を展開していきます。すぐに派手なドンパチは用意せず、まずは丹念にウルフを追っていくと。
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中盤、ウルフの会計士としての類い稀な数値認識力を見せることで彼の能力を決定付けると同時に、アナ・ケンドリック演じるデイナとウルフの信頼関係を築くのも手堅く見せることに成功しています。全く繋がりのなかったキャラクターを結びつかせることで、後々のウルフの行動に意味を持たせているのでこの辺りも脚本の運びが上手いところ。
そして、ある程度この映画のキーとなるキャラや流れが出揃ったところで物語はいよいよウルフの裏の顔を本格的に覚醒させます。その間にJ・K・シモンズも負けじと渋い演技を見せてくれるので、『セッション』で見せたような、立っているだけで不気味な圧力を感じさせるシモンズを再び見ることができます。
映画後半は完全にウルフ=ベン・アフレックの独壇場と化すので、「何食わぬ顔をして実は凄腕の暗殺者だった」系の映画が好きな方にはオススメの展開になります。
さて、特異な才能を見せるサヴァン症候群を取り入れた物語というのは『レインマン』などでもありましたが、戦闘スキルや闘いの場に身を置く主人公にその条件を与えたというのは、ほとんど聞いたことがない設定です。
けれど、それで遊ぶようなことはなく、しっかりとウルフというキャラクターに落とし込み、対人関係が極端に苦手だったり物事は完結させないと気が済まないといった、ウルフの性格であり悩みの根本も描いているのはオコナー監督らのビジョンがしっかりとキャラ作りにまで及んだ証拠と言えるでしょう。
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また本作の見どころは、ウルフを演じたベン・アフレックの「なりきり度」にあります。ときおり実生活においてですら「何をしていても目が死んでる」と揶揄されてしまいがちなアフレックの眼差しが、今回ばかりは自身の殻に閉じこもり億劫そうに普段の生活を送るウルフという人間にはぴったり。
それでいて、ひとたび敵を前にすればその表情を崩すことなく遠方狙撃を確実にこなし、接近戦ではヘッドショット、トライアングルショットなどの射撃スキルやシラットといった格闘術を繰り出すのだから全く油断ができません。
アフレックはタイトルロールを演じた『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』でも(意外なほど)華麗なアクションを決めており、役者としてもその幅の広さに驚かされます。
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それから、概ね肯定的な意見の多いドラマパートに対し、ラストに関しては賛否両論があるようですね。
確かに、「拍子抜け」という意見も解りますが、あえて定石のバトルを選ばず意表を突いた展開にオコナー監督の心意気を見たような気がします。
そもそもオコナー監督は『ウォーリアー』でも、あるいはナタリー・ポートマン、ジョエル・エガ―トンを迎えた前作の『ジェーン』でも、どこかで歯車は違えどやがて回転を取り戻す「家族愛」をモチーフの一つとして見せているので、伏線の回収としても“あり”だと思います。そして最後にはもう一つオチがつくので、それも楽しめるかどうかで評が分かれるのかも知れません。
静かながら的確にキャラクターを補助する音楽
本作の音楽を担当したのは、オコナー監督とは『ミラクル』『プライド&グローリー』『ウォーリアー』に続いて4度目のタッグとなるマーク・アイシャム。
『ウォーリアー』では第九を大胆にスコアに取り込み、試合の場面では緊迫感に満ちながらも燃えたぎるような熱い音楽を披露していたアイシャムですが、本作はどちらかというと冷静に映像をサポートするようなサウンドが目立ちます。『ウォーリアー』と似た燃え曲のようなテイストをイメージしていると面食らってしまうかも。
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近作の『メカニック:ワールドミッション』は電子楽器を重ねた派手なアクションスコアだったこととも対照的な作り。一通り映画を観て、おそらく一番エモーショナルな音楽を披露したのはウルフが調査を依頼されたロボット会社の一室で膨大な数値をアウトプットしロジックを組み上げていく場面だったような気がします。
終盤で展開するジョン・リスゴー演じるブラックバーン邸での攻防も抑え気味。けれど全編を通して聴くと、派手には鳴らさず抑揚を効かせることでクリスチャン・ウルフの冷静沈着な性格を(戦闘場面も含めて)より顕著に表しているようにも思えました。エンタメとして盛り上げるのではなく、ウルフというキャラクターに沿った作曲スタンスになっているわけですね。
この辺りは、『バトルフロント』や『メカニック』シリーズでソリッドな電子音楽でアクションを盛り上げつつも『リバー・ランズ・スルー・イット』や『遠い空の向こうに』『クラッシュ』など人間ドラマにも定評のある、さすがアイシャムらしいベテランの采配といったところ。
まとめ
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ベン・アフレックと言えば近年では監督としての活躍も目覚ましく、『アルゴ』はアカデミー賞作品賞を獲得し、監督・主演最新作『LIVE BY NIGHT』が控え、バットマン単独作も控えるというまさに絶好調の流れ。
俳優としても確かな演技力に加え、ハードアクションもこなしてしまうなどマルチな面を見せてくれていて、『ザ・コンサルタント』もアフレックにとって当たり役だったのではないでしょうか。アクションドラマの演出に定評のあるオコナー監督とアフレックががっぷりよつに組んで、「つまらない」などということはあるはずがないのです。
みなさんも、「死んだ目をした」ウルフの見せる表と裏の顔をぜひとも劇場で堪能してください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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(文:葦見川和哉)
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