『未来を花束にして』と、差別の歴史とともに歩く社会派映画のありかた
さる1月20日、ついにアメリカに新しい大統領が誕生した。共和党のドナルド・トランプ氏。その過激な言動で大きな話題をさらい、大統領選を勝ち進んだのだ。政治的な言及はできるだけ控えたいと思っているが、正直なところ、大統領選のときには、ヒラリー・クリントン氏の当選を願っていた。それは、アメリカの歴史上、初めての女性大統領の誕生をこの目で見たかったからに他ならない。
今では日本の小池百合子東京都知事をはじめ、イギリスのメイ首相、ドイツのメルケル首相ら、女性がトップに立つことも決して珍しい話ではなかったが、つい100年前までは、選挙に行くことさえ許されなかったなんて、なんて閉塞的な世界だったのだろうか。
27日から公開された、『未来を花束にして』は、そんな時代のイギリス社会を変えた、女性たちの勇気の物語だ。
<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.16:『未来を花束にして』と、差別の歴史とともに歩く社会派映画のありかた>
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幼い頃からロンドンの劣悪な環境の洗濯工場で働いていた主人公のモードは、配達の途中でWSPU(女性社会政治同盟)による活動の現場に直面する。その同盟に参加している同僚の代わりに公聴会に出席し、自身の置かれた環境を認識したモードは、法改正を求めるデモに参加。しかしその場で逮捕されてしまったことにより、夫からは家を追い出され、息子とも離れ離れになってしまうのであった。
本作の原題〝Suffragette〟は、女性参政権活動家を指した言葉である。19世紀後半、多くのイギリス女性たちが、参政権を求め活動を行い、家族を失い、投獄され、それでも自分たちの次の世代、さらにその次の世代のために力を注いできたのである。その点では、原題からかけ離れたこの邦題も決して悪いものではない。
何より興味深いことは、監督のサラ・ガヴロンを始め、主要スタッフがすべて女性で構成されていることだ。そこには、男性中心の社会である映画業界への強いメッセージ性も垣間見ることができよう。先日のゴールデン・グローブ賞での印象的なスピーチが記憶に新しいメリル・ストリープも、出番は多くないが重要なキャラクターで出演。その貫禄を示している。
本作のように、社会を変えるために活躍した女性を描く映画は、これまでにも数多く作られてきた。セクシャルハラスメントが蔓延する炭鉱で働く女性をシャーリーズ・セロンが熱演した『スタンドアップ』、ジュリア・ロバーツがアカデミー賞に輝いた『エリン・ブロコビッチ』など、そのどれもが実話なのである。このような実録社会派映画の存在は、それだけ偉大な人物がいたということを指し示す反面、社会の悪しき習慣が浮き彫りになるということでもあるのが実情だ。
遡ってみれば、すでに70年代からその片鱗は窺うことができた。それは、貧困によって社会的弱者として扱われる人々を救うために立ち上がる女性を描いた、マーティン・リット監督の名作『ノーマ・レイ』の存在にほかならない。
アメリカ南部の紡績工場で働くシングルマザーのノーマ。労働組合の無いこの工場で、工員たちは搾取され続けていた。ある時、この工場にルーベンという男が現れる。彼はニューヨークから、この工場に組合を作るために雇われたのであった。ルーベンを信頼するようになったノーマだったが、組合を作ることに反対する工場側は、ノーマを買収しようと試みる。それでも、同じ工場で働いていた父の死をきっかけに、彼女は組合運動に没頭していくのだ。
「UNION」と掲げるサリー・フィールドの姿があまりにも印象深いこの作品。最近では『アメイジング・スパイダーマン』でのメイおばさん役や、ハジけた老齢の女性を演じた『ドリスの恋愛適齢期』など、再びその輝きを取り戻している彼女が、オスカーに輝き、世界的な名声を獲得した作品でもある。
貧富の格差や、労働のあり方が取り沙汰される昨今だからこそ、立ち上がることの重要さを説く映画の存在は忘れてはならない。まして、わずかな違いだけで酷い扱いを受けてきた人々がいたという歴史は、もう映画の中だけで充分なのである。それは性別だけではなく、人種や国籍、宗教なども同様だ。
こういった社会派作品が作られ続ける以上は、その問題が何も解決していないということを、我々は心に刻まなければならないだろう。人間としてそれぞれに与えられるべき当然の権利や主張が受け入れられる世界が訪れれば、映画ももっと純粋になれるのだろう。
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(文:久保田和馬)
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