『モアナと伝説の海』も作曲したマーク・マンシーナの魅力全開!ディザスター映画の最高峰『ツイスター』!!
みなさん、こんにちは。
先日、俳優であり映画監督でもあるビル・パクストンが亡くなりました。61歳という若さで、盟友ジェームズ・キャメロンやシュワルツェネッガーら多くの著名人が哀悼の意を表明しました。パクストンといえばエイリアン、プレデターという2大モンスターに殺されてしまうという珍しい脇役ぶりから『ターミネーター』や『エイリアン2』『トゥルーライズ』『タイタニック』などキャメロン監督との名コンビでも知られています。今回の「映画音楽の世界」では、そんな名優ビル・パクストンがヘレン・ハントとともに主演を果たした竜巻映画『ツイスター』を紹介したいと思います。
全てを吹き飛ばす「竜巻映画」の醍醐味!
『ツイスター』は1996年公開のデザスター(災害)映画。アメリカ中西部を舞台に竜巻を追う観測者を描いた作品で、アメリカ本国では2億4,000万ドルの興収を挙げる大ヒットとなりました。
監督はキアヌ・リーブスが主演した『スピード』がスマッシュヒットを記録したヤン・デ・ボン。『ブラック・レイン』や『ダイ・ハード』、『リーサル・ウェポン3』の撮影監督でもあります。そしてスティーヴン・スピルバーグがプロデュースを担当し、脚本には『ジュラシック・パーク』「ER 緊急救命室」の原作者でもあるマイケル・クライトンと妻のアン・マリー=マーティン。竜巻による破壊描写をスクリーンに再現してみせたのは『スター・ウォーズ』シリーズなどのILM。これだけのメンツが集っているのだからツマラナイはずがない!
本作の特徴はとにかく竜巻による徹底した破壊描写。
オープニングからのちにストームチェイサーとなるジョーの父親が竜巻に巻き込まれ、サイロやドライブイン・シアター、町そのものを破壊していきます(劇中、竜巻が通過し破壊された町のオープンセットをたまたま見掛けた人物が本当に竜巻の被害に遭ったと勘違いしたエピソードも残っているほど)。的確なアクション演出をこなすデ・ボンとエンタメを知り尽くすスピルバーグが手を組んでいるのだから、その描写はまさに見せ場の連続。吹き飛んだ屋根が疾走する車の真横に落下しモーターボートが、カメラの頭上を掠めていきます。
牛が飛ばされときに荒れ狂う竜巻そのものの中に突入すれば、有名俳優が映し出されたスクリーンが吹き飛び、家が丸ごと転がりトレーラーが頭上から雨のように“降って”くる。実写にこだわったデ・ボン監督は実際にトラクターやタンクローリーをヘリで吊るし、地面に落とすというアプローチを見せているのでとにかく臨場感が半端ない映像がこれでもかと続き、今なら間違いなくIMAX3D、4DXで掛けられていたであろう映画なのです。
破壊描写に限らず穀倉地帯を疾駆するチェイサーの隊列を捉えた空撮による遠景や大スケールの竜巻など画角や奥行きも堪能できるはず。うーん、本当にどこかで復活上映してくれないでしょうか。
ストームチェイサーの面々も基本「普通なら竜巻から逃げていくのに俺たちは嬉々として突っ込んでいく」連中なのでノリが良いのも魅力です。その行動力から「過激先生」の異名を持つビル(ビル・パクストン)に「彼女ほどではないよ」と言わしめるジョー(ヘレン・ハント)、改造車で爆音を鳴らすダスティ(演じるのはフィリップ・シーモア・ホフマン!)など全員が竜巻狂。
そして彼らが憩いの場とするジョーの叔母、メグの家で提供されるビッグサイズのステーキにマッシュポテトと目玉焼きの美味しそうなこと。「よくこんなに肉があるね」と聞かれ「あら。うちの庭の牛、見かけなかった?」と答えるメグ叔母さん、素敵です。これだけでも濃いキャラが集っていますが、映画はそこにライバルの研究者との衝突も描きビルとジョーの離婚問題(ビルの現在の婚約者付き)もあったりと詰め込み放題。
さすがマイケル・クライトン。直感で竜巻の進路を予測するビルと体当たり的に挑むジョーのスタイルの差も命がけの現場で運命を左右することになるハラハラ感も胸を高揚させます。
ちなみに劇中でも触れられていますが、竜巻の強さを表す世界基準のFスケール(F0~5の6段階表記。0は枝が折れる程度、5は家が土台だけ残して消失する)の考案者は日本人気象研究家の藤田哲也氏。
映画ではセオリー宜しく小規模から始まり、ラストのF5クラスの巨大竜巻はもはや美しさすら感じさせる規模に。これは余談ですが、そんな竜巻が巻き上げたものがポイポイと眼前に降ってくることに、公開当時「いかにもイベント的」なんて評を目にもしましたが、以前筆者は旋風に巻き上げられたテントが頭上に“降って来た”経験を持つので本作の持つ迫力は「本物」と断言させていただきましょう。
ヴァン・ヘイレンの主題歌を筆頭とした豪華な音楽
『ツイスター』のサウンドトラックに集まった面々もまた現在のヒット作以上の豪華さがあります。まず主題歌を担当したのはヴァン・ヘイレン。[Humans Being]はロックバンドらしい彼らのサウンドとプレイが惚れ惚れするほどのカッコ良さ。しかも劇中での使用のタイミングも、主人公チームが竜巻の追跡を開始するタイミングで流れ始めるのでボルテージを一気に煽りに来ます。
ちなみにエンドロールで流れる[Respect The Wind]はエドワード&アレックス・ヴァン・ヘイレンによるインストゥルメンタル曲。ギターサウンドが静かに唸る印象的な一曲に仕上がっています。他にもレッド・ホット・チリ・ペッパーズの[Melancholy Mechanics]やグー・グー・ドールズの[Long Way Down]などロック好きにはたまらないチョイスからカントリーまで幅広く収録。未収録音源としてもエリック・クラプトン[Motherless Child]、ディープ・パープルの[Child In Time]など本編では使用されています。
劇伴を担当したのは現在公開中の『モアナと伝説の海』を担当したマーク・マンシーナ。
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ヤン・デ・ボン監督とは『スピード』に続いてのタッグとなりました。『スピード』が電子楽器を多用していたのに対し本作では正統派オーケストラ曲。序盤からこれから始まる映画的冒険を予感させてくれるエッセンスの効いた[Wheatfield]、本編では主題歌へとなだれこむ[Walk In The Woods]の高揚感、そしてラストのF5とのバトルサウンドとなる最高にヒロイックなメロデイとリズムの[Mobile Home]と名曲揃い。ギターに元イエスのトレヴァー・ラビンを招いているのも聴きどころの一つ。
先日、スコア拡張盤サウンドトラックが発売されましたが限定品のため現在ごく一部店舗でしか取り扱いがないようですが、見かけた際にはぜひ購入をお勧めします。旧盤ももともと流通の少ない輸入盤のみの扱いでしたが、こちらには劇中でチェイサーが口ずさむ[William Tell Overture/Oklahoma Medley]を収録した遊び心も。
まとめ
ビル・パクストンの知性と野生味を合わせた魅力が『ツイスター』にはあり、これも今ではパクストンだからこそ出せた佇まい・雰囲気だったのかな、と思います。
共演のヘレン・ハント、フィリップ・シーモア・ホフマンは本作出演ののちアカデミー賞受賞俳優となり、パクストンは賞レースには届かなかったものの映画監督として評価をさらに高めました。今ではヤン・デ・ボン監督も一線から退き、ホフマンに続いてパクストンも旅立ち新作を観ることは叶わなくなりましたが、公開から20年を経てなおこの作品にはそんな寂しさを木っ端微塵に“吹き飛ばす”魅力が詰まっています。
映画が再び観客のものとして楽しむ機会が増えてきた今だからこそ、改めて観なおしたい1本です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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(文:葦見川和哉)
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