映画『チア☆ダン』の魅力を徹底解剖!青春映画の新たな傑作誕生!

■「映画音楽の世界」


チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜 サブ1


(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会



高校チアダンス部が全米制覇を成し遂げた実話を映画化した『チア☆ダン ~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』が、3月11日より公開されています。

主演は競技かるたの世界を描いた『ちはやふる』などの好演がまだ記憶に新しい広瀬すず。共演には中条あやみ、山崎紘菜、福原遥、真剣佑らフレッシュな顔ぶれに、天海祐希、木下隆行(TKO)、きたろうら幅広いキャストが集合しています。青春×サクセスストーリーが見事に融合し、実に綿密に組み立てられたバランスの上に成り立った本作。さまざな角度から楽しむことが出来る魅力に満ちた映画であり、近年の高水準レベルの邦画の流れに新たに合流する1本ではないでしょうか。

今回の「映画音楽の世界」では、そんな『チア☆ダン ~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』を紹介します。

ドラマ×コメディの意表を突く展開もバランスの取れた演出力!


本作は王道のキラッキラ青春映画でありながら、常にその王道の中で「あえて」型枠から離れようとするような演出に舵を切っているのが面白いところ。言ってしまえばサブタイトルでネタバレをしているし(仮に伏せていても実話なので調べれば簡単に結果がわかってしまう)、女子高校生の輝かしい青春を切り取ればどうしても少女漫画映画のような汎用的なスタイルになってしまう。

ではその中で、「何ができるか」を突き詰めた結果が、本作の方向性を持たせています。まず主人公であるひかりがチアダンス部に入部する動機からしてカレシ(だと思い込んでいた)の孝介のサッカーの試合を応援したかったため。地獄先生の異名を持つ鬼顧問、早乙女のスパルタなコーチングが際立つスポ根映画でもありながら、定番シーンをことごとくギャグシーンに変えてしまうというコメディ路線にも振っているのが特徴です。

チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~ 天海祐希 広瀬すず


(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会




コメディエンヌを意識したような天海のスパルタ指導に加え、本職のお笑い芸人TKO・木下もまさかの中条あやみとのツーショットコントを披露しているのも面白い。

ギャグシーンがスベることなく見事に機能して、映画に活きてくるのも「最初から結末が解っている」映画だからこそ付加価値として描くことが出来たものだったと思います。これが結末の読めないオリジナル作品だと緊張感が勝ってしまいここまで余白を埋めることはできなかったでしょう。

では本作がまるきりコメディ映画になっているのかといえば、決してそうではありません。王道だからこそ外すことのできない、逃げ場のない「真摯に向き合う」瞬間が映画には必ずやって来ます。本作ではそれが「今まで一人で踊ってきたためにチアに必要な笑顔を見せることができない」唯や、家庭の事情を抱えながらダンスと真剣に向き合い続ける多恵子らのキャラクターのドラマ部分でしっかりと描かれています。これは地獄先生も例外ではなく、むしろ早乙女も本作のキーマンの一人として存在しています。

何より、青春の輝きだけで世界一になれるほど現実は甘くはないということにもしっかりとフォーカスし、それぞれの苦悩を浮き彫りにしていきます。負傷して前線から遅れを取ってしまう悔しさ。チームワークを必要としながら「嫌われ者」にならなければならない部長の苦悩。実話だからこそ軽々しく描くようなことはせず、このメンバーだからこそ勝ち得た「リアルさ」をとことん追求したドラマにもなっています。

チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜 サブ13


(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会




ベテランの天海祐希の演技もさることながら、広瀬すずら若手の演技にも注目。『ちはやふる』での瑞々しくも情熱的なキャラクターから一転して『怒り』ではシリアスな役に挑戦した広瀬が、再び笑顔満点の等身大の女子高生を好演しています。コメディセンスと、チアダンスの魅力に目覚めていく「ひたむきさ」の表現力はやはり同世代の女優陣の中でも随一。

中条あやみは抜群のスタイルを最大限に活かし、部長としてチームを牽引していく姿に静かなる情熱を注いでいます。それに加え本来ならマドンナ的立ち位置ながらすべてギャグシーンへと転がす河合勇人監督の要求にすんなりと応えているのも中条の新たな魅力です。

「笑顔をみせることができない」山崎紘菜が徐々に変化していく様子や、太っちょながらまさかのダンス技術を見せた富田望生が荒んだ母親と対峙するシーンは本作のドラマパートでも胸に迫るものがあります。

そしてスパルタコーチングの中にも芯の通った筋を見せ誰よりもチームのメンバーのことを考えている地獄先生を演じた天海はさすがの存在感。終盤で見せる本作のドラマパートを回収していく展開には思わず涙。演出面、演技面とバランスよく整った魅力が詰まった輝かしい青春映画に仕上がっています。

チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜 サブ2


(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会



ダンス×音楽が魅せる輝かしい青春力!


今回はチアダンスがメインとなるので音楽も演出面に直結しています。劇伴を担当したのは近年『デスノート Light up the NEW world』『一週間フレンズ。』やアニメ「東京喰種 トーキョーグール」シリーズなど活躍が目覚ましい若き才能やまだ豊。それに加え、ダンス場面が多いことからアリアナ・グランデの[PROBLEM]のカヴァーバージョンなど既存曲やグラミー賞受賞経験を持つゴードン・チェンバースがヴォーカルとして参加したオリジナルダンス曲なども使用しています。

劇伴ではコメディパート、ドラマパートの性格をメロディやオーケストレーションでしっかりと分け、それぞれのキャラクターが自身の感情と向かい合いながらダンスをする場面でもそのエモーションに合わせた曲を使用するなどの配慮がしっかりと取られ、音楽にも行き届いた采配が感じ取れます。とはいうものの、基本チアダンスとは「笑顔」がポイントとなるので、全体のトーンとしては観ているこちらまで足踏みでリズムを取りたくなるような高揚感を煽る楽曲ばかり。

ポンダンス、ジャズ、ヒップホップ、ラインダンスからなるチアダンスだけにもともと音の拡がりが広いところに「映画音楽」としての要素が加わるので、音楽映画としても豊饒なサウンドを楽しむことが出来ます。

チア☆ダン 〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜 サブ3


(C)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会




まとめ


正直を言えば筆者自身「キラキラ系少女漫画映画みたいな感じかしら」と鑑賞前に本作をチェックしていましたが、それが見当外れだったことを痛感しました。

その熱量は『ちはやふる』に全く引けを取らず、そのサクセスストーリーは『ピッチ・パーフェクト』に通じるものがあります。青春映画であり音楽映画でありスポ根映画でありコメディ映画であり。一見ごった煮のようにも聞こえますがそのどれもがきれいにまとまり各々のパートに邪魔することなく機能していくバランスの取れた作品に仕上がっています。

たとえ結果が解っていたとしても。キラキラ系映画はちょっと、という人も。それ以上の魅力がこれでもかと詰まった見逃すには本当に惜しい作品ですので、ぜひ劇場で堪能してください。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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(文:葦見川和哉)

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