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2019-08-31

コラム

『やっぱり契約破棄していいですか!?』は絶望人生の人必見のダークコメディ!

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(C)2018 GUILD OF ASSASSINS LTD



正直、ずっとこの世に生きていると死にたくなることがあって当然で、特にこのようなご時世では人生に絶望することも多々あることでしょう。

でも、人って意外になかなか死ねないものでもありまして、神様というものはちゃんとそのあたりの配分を図っているのかいないのか?

『やっぱり契約破棄していいですか!?』の主人公もまた「死にたいのに死ねない男」と「殺したいのに殺せない男」のふたりなのですが、そんな彼らが交わした「契約」とは……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街403》

ご想像通り「殺し」の契約であり、しかしそれを破棄しようとしたことから始まる捧腹絶倒のダークでブラックなコメディなのでした!

死にたい男と殺したい殺し屋が
交わした契約は破棄できる?


『やっぱり契約破棄していいですか!?』の主人公、ウィリアム(アナイリン・バーナード)は小説家を目指しつつ全然芽が出ない青年です。

ナイーヴな彼はこれまで幾度も人生に絶望しては自殺を試みてきました(中止も含めると10回はやってるようです)。

でもなぜかそのたびに何かトラブルが起こり、いつも失敗ばかりしてしまいます。

一方、長年プロの殺し屋として生きてきたレスリー(トム・ウィルキンソン)は、トシのせいか英国暗殺者組合(そんなものがあるのかい!)の毎月の暗殺ノルマを達成できなくなってきていて、引退に追い込まれようとしていました。

かくしてウィリアムは、7回目の自殺未遂(暗闇の橋から飛び降りたものの、そこを観光船が通過し……)のときに現れた謎の男からもらった名刺を頼りに、一週間以内に自分を暗殺してもらうよう依頼しました。
(謎の男の正体はもちろんレスリーで、最近の彼は自殺スポットに出向いて自殺志願者を見つけては契約を交わし、何とかノルマを稼ごうとしていたのでした……)

ところが、そんなときに限って幸せなことが起きてしまうのもまた人生の皮肉ではありまして、死を決意したばかりのウィリアムに、突如自作小説の出版のオファーが舞い込んだ!

しかもその担当者はキュートな美女エリー(フレイア・メイヴァー)で、ウィリアムは一気に生きる希望が湧いてきてしまう!

そんな彼をめがけて撃ち出された、無慈悲なる一発の銃弾!

……が、外れた!?

何と、寄る年波には勝てないとでもいいましょうか、レスリーの殺しの腕は全盛期の頃に比べて衰え始めていたのです。

かくして契約を破棄して生き延びようとするウィリアムと、契約を遂行してノルマを達成しようとするレスリー、がけっぷちに立たされたふたりの男のシーソーゲームが始まるのでした!



絶望を描きながら
観客に希望を与える快作



この作品、自殺や老い、ツキのなさ、などなど人生の絶望的シリアスな問題を扱いつつ、それらを一気に描出してみるとかくも笑えてしまえるものかという究極のブラックコメディとして屹立していますが、このあたりはシニカルな風刺をきかせた笑いに長けたイギリス映画ならではの賜物でしょう。

MVを経て本作が長編映画デビューとなったトム・エドモンズ監督は奇を衒った演出よりもかっちり組み立てられた脚本に基づいてキャラクター個々の人間性を描出させることにこそ腐心しているようで、だからこそ殺伐としたドラマであるにも関わらず、全体的に温かみが感じられ、ひいては人間讃歌といったポジティヴなところへ観客の気持ちを導いてくれています。

笑いをとろうという演出は一切されてませんが、だからこそ笑えるし、絶望をベースに配しながらも観る側は希望を見出せる! それが本作の最大の本領ともいえるかもしれません。

出色なのはキャスティングで、『ダンケルク』で注目されたアナイリン・バーナードと『アナザー』のフレイア・メイヴァーの軽やかで若々しくも災難続きの悲哀を絶妙のコンビネーションで演じています。

特筆すべきはやはり『フル・モンティ』(97)などの名優トム・ウィルキンソンで、枯れた男の魅力を醸し出す存在感にはさすがベテランの味わい! 加えて『ターナー、光に愛を求めて』(14)などで知られるマリオン・ベイリーが彼の妻に扮していますが、彼女もまた映画に不思議な温かみをもたらしてくれています(しかも殺し屋の妻といった貫禄も十分!)。暗殺者組合のハーヴェイ役、クリストファー・エクルストンもいい味出しています。

いずれにしましても「悲劇こそ人生最大の喜劇」とはよく言われることではありますが、そのことを改めて痛感させられるとともに、今まさに人生に絶望している人にこそ見ていただきたくなるような快作であり、一方ではこういった作品に着目してこその映画ファンであろうとも納得させられる通好みの面も持ち合わせています。

小品ながらも見逃し厳禁とはこういった作品のことを指すのだなと、改めて確信させられてしまいました。

(文:増當竜也)

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