『無限の住人』で世界を席巻する、木村拓哉の不死身のスターパワー
(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
先日ラインナップが発表された第70回カンヌ国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門に、三池崇史監督×木村拓也主演の『無限の住人』が選出された。三池監督の作品としては『藁の楯』がコンペティション部門に出品されて以来4年ぶりのカンヌ国際映画祭出品となる。
コンペティション部門とは異なり、娯楽性の高い作品が映画祭を彩るために選ばれるアウト・オブ・コンペティション部門。世界三大映画祭のひとつ、カンヌ国際映画祭の70回目という節目の年に、その大役を任された『無限の住人』は、今年の映画界を代表する娯楽作の一本というお墨付きを得たわけだ。
〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.28:『無限の住人』で世界を席巻する、木村拓哉の不死身のスターパワー
目の前で妹を殺められた〝100人斬り〟の異名を持つ男・万次は、瀕死に陥っていたところで謎の老婆に助けられ、不死身の体を得てしまう。それから時を経て、町外れでひっそりと暮らしていた万次の前に、父を殺されたという少女が仇討ちの手助けを求めにやってくる。その少女、凛は万次の亡くなった妹に瓜二つであった。万次は渋々ながらも、凛の用心棒を引き受け、凄腕の剣士・天津影久の行方を追い始めるのであった。
いわゆるチャンバラ時代劇で、141分という尺の長さは、決して観やすい長さとは言い難い。それでも、次から次へと現れる敵との戦いで、一切物語が緩むことなく〝見せ場〟のラッシュが続く。無駄な部分がワンカットもないまま、クライマックスまで駆け抜けていくのだから、息をつく暇もないとはまさにこのことであろう。
その敵となる役者陣が実に一癖も二癖もあるキャラクター造形をしており、その辺りは如何にも漫画的な部分といえよう。出で立ちで個性を放つ満島真之介や北村一輝、武器やアクションで魅せる市原隼人や戸田恵梨香ら、若手スターから脱し始めた中堅役者が、主人公・万次を演じる一世一代のスター役者・木村拓哉の演技に華を添える。
すっかりおなじみとなっている、〝キムタク〟としての存在感は相変わらずで、たしかに批判的な視点を向けられてしまうのも頷ける。しかし、映画の歴史を辿っていけば、〝スター役者〟というのは得てしてそういうものだ。何をやらせても〝キムタク〟でなければ、意味がないのである。
そんな木村拓哉と、時代劇という組み合わせは、90年代のアイドル全盛期にトレンディドラマを数多く駆け抜けてきた姿から考えると、少々アンバランスにも映る。しかし、そのアンバランスさを払拭させたのは、紛れもなく2006年の『武士の一分』に他ならない。
山田洋次監督による藤沢周平時代劇3部作の3作目に当たる本作で、彼が演じたのは幕末の下級武士、三村新之丞という男。藩主の毒味役を務める傍ら、家族とのささやかな暮らしを夢見ていた彼は、ある日毒に当たり、一命は取り留めるものの失明をしてしまう。武士としての務めを果たせなくなり路頭に迷った新之丞を助けるため、妻の加世は顔なじみであった藩の上級武士・島田に相談を持ちかけるが、それがさらなる悲劇を招くのである。
今回の『無限の住人』が大立ち回りを見せ場にした〝時代劇アクション〟のくくりになるならば、この『武士の一分』はひとりの武士のプライドをかけた〝時代劇ドラマ〟というくくりになるだろう。クライマックスに仇を討つという点は時代劇の定番なだけに共通していても、そこに至るまでのプロセスや、主人公の設定、何より映画自体の外見そのものが正反対の位置にある両作だ。
しかし、どちらの役柄も彼は、遺憾無く演じきっている。文学的な武士である新之丞と、漫画的な武士である万次。このどちらかひとつを演じるだけでも、簡単な役柄ではない。まして両方を演じるとなれば、彼以上に相応しい役者は他にいないのではないだろうか。
前述したように、傑出した個性派俳優が敵として立ちはだかる『無限の住人』において、木村拓哉に匹敵するスターパワーを持ち合わせた役者が登場する。『喰女』以来の映画出演となる市川海老蔵だ。この二人のツーショットの贅沢さたるや、そう簡単にお目にかかることはできまい。日本の伝統芸能のプリンスと、国民的アイドルから個性ひとつでのし上がったスター俳優の共演は、世界に送り出すに相応しい。二人が見せる壮絶な立ち回りは、間違いなくこの映画のハイライトのひとつであろう(如何せん見事なアクションシーンが多すぎるからハイライトも多数存在するわけだが)。そのわずか数分の場面だけでも、一見の価値がある作品だと、堂々と宣言できる。
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(文:久保田和馬)
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