映画コラム

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2017年06月16日

『インサイド・ヘッド』から読み解く「リーダー論」とは?もっと面白くなる5つのポイント!

『インサイド・ヘッド』から読み解く「リーダー論」とは?もっと面白くなる5つのポイント!


4:字幕版で初めて気づくこともたくさんあった!


本作の吹替版は、竹内結子や大竹しのぶや佐藤二朗の声の演技がぴったり!で素晴らしいクオリティなのですが、実は吹替版では簡略化されていて、詳細な情報が伝わっていないところもありました(子ども向けとしてわかりやすいので、間違ったことではありません)。

たとえば、吹替版でヨロコビがライリーの睡眠を確認した時、吹替版の「ようし、寝たみたいね」というセリフは、字幕版では「レム睡眠に入ったわ」になっています。レム睡眠とは脳が半覚醒している“浅い眠り”の状態のこと。完全に脳がリラックス状態になるノンレム睡眠になると、人は夢を見なくなるのです。

吹替版で「思い出の保管場所」と呼ばれる場所は、字幕版では「長期貯蔵庫(Long Term Memory)」と呼ばれていました。同じくピクサー作品である『ファインディング・ニモ』では、魚のドリーが自身の忘れっぽさを「短期記憶(Short Term Memory)」と言うシーンがあり、この呼び名はそれの対比ともいえるでしょう

また、途中で登場するビンボンというキャラクターは“想像の友達”と呼ばれていました。実はImaginary Friendは心理学・精神医学の用語でもあり、1人っ子によくみられます。そのイマジナリーフレンドは幼少時に自然と“いなくなる”ことがほとんどであり、忘れてしまうことは健全に成長するための通過儀礼のようにも捉えられています。

ちなみに、本作の原題は「Inside Out」となっており、その意味は“裏返し”です。ヨロコビが気づいた、アイスホッケーの試合後のライリーの気持ちを考えれば、この原題の意味がはっきりするでしょう。ヨロコビとカナシミの感情は、この原題通り“表裏一体”のものといえるかもしれませんね。



(C)2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.



5.実は複雑な感情を表していた!


本作の否定的な意見には「感情はそんなに単純ではないのでは?」というものが多く見受けられました。人間の複雑な感情を、5人のキャラクターに置き換えるという語り口に違和感を覚えた方が多いようです。事実、初期段階の脚本ではオドロキ(Surprise)、ホコリ(Pride)、シンライ(Trust)、アンニュイなどの27のも感情のキャラクターが考えられていたそうですし、それはスタッフも懸念していた要素なのかもしれません。

個人的には、本作はたった5人のキャラクターであっても、人間の複雑な感情を見事に表わしていたと考えます。
例えば、ライリーが友だちとスカイプで会話をしていた時、ビビリが「もう新しい友達ができたの!?」と驚き、ムカムカが「ちょっとちょっと怒らない!これ以上島がなくなったら困るでしょう?」と告げ、ビビリも止めようとするものの、イカリがレバーを押してしまう、というシーンがあります。

このシーンでライリーが抱いた感情は“嫉妬”です。このほんのわずかなシーンであっても、“友だちが友だちでなくなってしまうことをビビリが恐れ、ムカムカもガマンできても、イカリの感情が爆発してしまう”という、嫉妬の複雑な感情がコミカルに表現されているのです。

他のシーンのライリーの行動をみても、きっと彼女の感情が論理的に構築されていることに気づけるでしょう。



(C)2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.



おまけ:『脳内ポイズンベリー』とは似て非なる内容?


『インサイド・ヘッド』が公開された2015年には、偶然にも“5人の頭の中のキャラクターが話し合う”というコンセプトがそっくりな『脳内ポイズンベリー』が公開されていました。

『脳内ポイズンベリー』の脳内のキャラクターは、理性、ポジティブ、ネガティブ、衝動、記憶を司っており、それぞれ“行動の原動力”になっているところがポイントです。『インサイド・ヘッド』が行動の前または後の頭の中の感情を表現していた一方、こちらはとことん「幸福のためにはどう行動すればいいのか?」を議論しまくるという内容でした。似ているようで、やはりその方向性は少し違うのです。

『脳内ポイズンベリー』では「頭の中で考えているだけでは何も解決できないのでは?」「好きな人との結婚のために必要なことはなにか?」という、『インサイド・ヘッド』にないメッセージも掲げられていました。主人公の女性と同じアラサー世代であると、良い意味で胸がイタくなる内容かもしれませんね。主演の真木よう子や古川雄輝が魅力的なのはもちろん、とことん前向きな神木隆之介、ネガティブだけでなくツンデレ成分を匂わせる吉田羊を見ているだけで楽しいので、キャストのファンには大プッシュでおすすめしますよ。

まとめ:まだまだ気付けることがたくさんある!


『インサイド・ヘッド』を観て改めて感じたのは、「子どもは単純にワクワクしながら楽しめて、大人には“気づき”を与えるピクサー作品ってすごい!」ということでした。

子どもには頭の中の大冒険がただただ楽しく、大人は前述した通りのリーダー論や、“子どもの成長を見守る親のあり方”についても学べるところが多いのですから。「ガムのCMの曲が耳から離れない!」「事実と意見って見分けがつかないよね」「結婚後もイケメンのパイロットの思い出にひたってしまう」など、大人がドキッとしてしまう風刺も効いていますよね。

さらに、劇中でライリーが見た夢で“歯が抜け落ちてしまう”というのは本人が不安を抱えていること、“ズボンが脱げてしまっている”というのは本当の自分の姿を隠し切れていないということの表れといった“夢分析”をすることもできます。このように、『インサイド・ヘッド』はいろいろと考察しがいのある作品なので、2回、3回と見直すごとに、新たな発見があるはずですよ!

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(文:ヒナタカ)

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