『借りぐらしのアリエッティ』徹底解説!わからなかったこと教えます。
(C)2010 Studio Ghibli GNDHDDTW
『借りぐらしのアリエッティ』は、小人の少女から見た美しい世界、病を抱えた少年との交流など、さまざまな要素が込められた優れたファンタジー作品ですが、登場人物のセリフや行動がやや極端なところがあるため、“ひっかかり”を覚えた方も多いのではないでしょうか。
ここでは、そのひっかかりを少しでも解消するために、“コミュニケーション”を主軸にして、作品を読み解いてみます。
※以下からは『借りぐらしのアリエッティ』のラストを含むネタバレに触れています。これから観ようと思っている方はご注意ください。
1:なぜ翔はアリエッティに「君たちは滅びゆく一族なんだよ」と言ったのか?
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病弱な少年の翔が、アリエッティに向かって言った「君たちは滅びゆく種族なんだよ」という強烈なセリフに、ぎょっとした方は多いのではないでしょうか。実は、宮崎駿ともに本作の脚本を手がけていた丹羽圭子は、このセリフについて「ちょっと唐突な印象があるので流れを作るのが難しかった」と語っているのです。
原作となる小説「床下の小人たち」にも似た意味合いのセリフがあり、宮崎駿と鈴木敏夫プロデューサーからもそれは入れて欲しいという注文もあったので、何とかして入れ込まなければならない……と、丹羽さんはおそらく熟考したのでしょう。結果的に、心臓の病を抱えている翔は「自分ももうすぐ死んでしまう」という絶望を抱えており、その思いがふと出てしまったという意図で、丹羽さんは一連のセリフを書き上げたのだそうです。
つまり、翔が言った「君たちは滅びゆく種族なんだよ」は、たくさんの人間がいる中で、自分だけが心臓の病で死んでしまうかもしれないという、自分の運命に対しての怒りそのものであり、それがアリエッティへの“当てつけ”のように出てしまったセリフなのです。翔がこの後に我に返ったかのように「ごめん、死ぬのは僕のほうだ」と言ったことも、その暗い感情があったことを裏付けています。
また、翔は「そのうち仲間は君だけになってしまうんだろう」「どんどん少なくなっているんでしょう」などと、まるでアリエッティが“ひとりぼっち”になることを願っているような物言いもしていました。おそらく、翔は母親が自分を置いて海外へ仕事に行ってしまったという事実が悲しかったがために、家族がいる(さらに他にも仲間がいるという希望を持っている)アリエッティへの嫉妬から、そのような言葉も口にしてしまったのではないでしょうか。
一連のシーンを振り返ると、翔がアリエッティに対して健全なコミュニケーションができていないのは明白です。アリエッティに何の許可も得ずに、彼女の家の天井を剥ぎ取り、ドールハウスの一部を勝手にそこに入れ込んでしまう、という翔の行為はその最たるものでしょう。そして、このまったく噛み合わないやり取りがあってこそ、翔とアリエッティが協力してホミリー(アリエッティのお母さん)を救い出すシーンや、ラストの“別れ”に感動できるようになっているのです。
なお、米林宏昌監督は「君たちは滅びゆく種族なんだよ」というセリフについて、「アリエッティへの愛情の裏返しで、翔はこんなひどいことを言ってしまった。このセリフには翔のいろいろな気持ちが込められていると思います」とも語っています。ひょっとすると、“好きな子だからでこそイジメてしまう”ような、男の子らしい気持ちも表れているのかもしれませんね。
2:なぜハルさんは執拗に小人を捕まえようとするのか?
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「小人たちは本当にいるのよ!」などと主張し、ホミリーをビンの中に閉じ込め、あまつさえハウスクリーニングの業者に捕獲を頼むハルさん……彼女がなぜそこまで小人に執着するのかと言えば、「その昔に小人を見たことがあったのに、誰も信じてくれなかった」ことに起因するのだそうです。
米林宏昌監督によると、ハルさんは屋敷に庭師やお手伝いさんがたくさんいた時、みんなに「小人を見たのよ」と言って回ったのに、誰も信じてくれなかった。その悔しい思いがずっと残っていて、「いつか自分の手で証明してやるわ」と思うようになったのだとか。ハルさんは小人を見つけてお金儲けをしようなどとはまったく考えてはおらず、あくまで自分の信念のためにがんばっているのだそうです。
でも、自分の信念のためとはいえ、自分たちと同じ姿をした小人たちを勝手に捕らえるなんて、とんでもないことですよね。ハルさんは、映画の冒頭でも中途半端な位置にクルマを止めたために邪魔になっていたこともありましたし、周りや相手の気持ちを考えていないようなフシもありました。
興味深いのは、アリエッティの家族が引っ越しを決意する“最後のひと押し”になったのが、そのハルさんではなく、翔が“良かれと思って”ドールハウスの一部をその家に無理やり入れ込んだことであったことです。悪意がある、ないに関わらず、その者の生活を脅かしてしまう行動や発言をしてしまうかもしれない……そんなコミュニケーションの危険性を、本作は示していたのかもしれません。
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