『仕掛人・藤枝梅安2』ハードボイルドな“3つ”の魅力

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スクリーンに藤枝梅安が帰ってきた(2回目)。

普段は腕も良く人望もある鍼医者である藤枝梅安(豊川悦司)。だが実は、金で殺しを請け負う“仕掛人”という裏の顔があった……。

前編において“悲しい仕掛”を手掛けた梅安は、慰労と恩人の墓参りを兼ねて、相棒・彦次郎(片岡愛之助)と共に京へ向かう。ところが、お互いの因縁の相手と出会うこととなり、慰労どころではなくなる……。

ひとりは井坂惣市(椎名桔平)。かつて彦次郎の妻に暴行を働き、自殺に追い込んだ男である。
もうひとりは井上半十郎(佐藤浩市)。こちらは、かつて梅安が殺した女性の夫であり、梅安を仇とつけ狙う。

この作品は、ただの時代劇ではない。“ジャパニーズ・ハードボイルド”の傑作だ。かっこいい男たちが見たければ、今いちばんお勧めしたいのが、この作品だ。その理由を、解説していきたい。

※本記事では、『仕掛人・藤枝梅安2』の一部ストーリーに触れています。未鑑賞の方はご注意ください。

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ハードボイルドその1「かっこいいおっさんたち」

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豊川悦司、61歳。
片岡愛之助、51歳。
佐藤浩市、62歳。
椎名桔平、58歳。

主要キャストの年齢である。筆者的には、トヨエツがすでに還暦を超えていることに驚いた。若いイメージのあった椎名桔平ですら、もうすぐ定年だ。

筆者は、年齢的に彼らが若い頃から見ている。繊細なトヨエツも、ワイルドな佐藤浩市も、野良犬のような椎名桔平も、みんなみんなかっこ良かった(愛之助のみ、若い頃は歌舞伎に専念していたので印象はない)。

では、老境に差し掛かった彼らはかっこ良くなくなったのか?とんでもない。数多の経験が、くぐり抜けてきた修羅場の数が、彼らを大変魅力的なイケオジに変えた。

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特に、井上半十郎を演じる佐藤浩市。80~00年代の佐藤浩市は、ワイルドだった。ギラギラしていた。そして、やたら黒々して量の多い髪質をしていた。『道頓堀川』('82)での賭けハスラー、『GONIN』('95)での組事務所への強盗犯、『壬生義士伝』('03)での新選組屈指の武闘派・斎藤一など、アウトローな役の印象が強い。そして、そんな役を演じる際には、匂い立つような色気を発していた。

近年の佐藤浩市は、その黒々とした髪も白髪となり(毛量は変わらず多いが)、全体的に枯れた印象を与えるだろう。だが見た目の変化に相反して、その“目”だけはいつまでもギラギラして殺気を放っており、全然丸くなってはいない。

昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」での上総広常は、そんな“老狼”だった。敵方になったとはいえかつては仲間だった男に「お前、老けたな~」と笑われただけで、即座に斬り殺すような男だった。

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『仕掛人・藤枝梅安2』の佐藤浩市は、上総介をさらにグレードアップさせた“老狼”だ。佐藤演じる井上半十郎は、かつて梅安に妻を殺されている。そのことをきっかけに、自身も仕掛人となる。梅安や彦次郎のように、“暗器”を使って隠密裏に殺すタイプではない(彦次郎の武器は毒の吹き矢)。刀で真っ向から叩き斬る殺しだ。仕掛人に身を落としても、「おのれは侍である」という矜持が感じられる。

他のおっさんたちも、もちろんかっこいい。梅安は相変わらずモテモテだし、彦次郎は粋でいなせだ。筆者的には、久しぶりに野良犬のような椎名桔平を観られたことが嬉しい。

ハードボイルドその2「死生観」

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この4人は皆、人殺しだ。「人殺しが長生きなんか出来ない」と思っているし、長生きしたいとも思っていない。それどころか、戦って誰かに殺されることをひそかに願っている節もある。

「誰を殺したいのか」と問われた井上半十郎は「おのれだ」と答える。無頼の限りを尽くし、享楽的に生きているように見える井坂惣市が「俺たちの目の前には、もう地獄の釜の蓋が開いているんだ……」と、ふとこぼす。敗れて死んだ井上半十郎を見て、梅安は「死ぬにはまたとない相手だと思ったんだがな……」と、寂しそうに呟く。

人殺しを稼業とするような人間は、重い重い“業”を背負うこととなる。死ぬまで、その“業”から逃げることはできない。だからこそ、誰かに殺されて楽になりたいのかもしれない。結果、井上半十郎と井坂惣市は、死ぬことによって救われた。梅安と彦次郎が救われる日は、まだまだ先のようだ。

※ちなみに、原作の「仕掛人・藤枝梅安」シリーズは、池波正太郎先生逝去により、未完に終わっている。梅安と彦次郎が救われる日は、永遠に来ない……。

ハードボイルドその3「男の友情」

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梅安と彦次郎は、ビジネス・パートナーであると同時に、お互いにとって唯一の親友でもある。ふたりの会話に、なんというか江戸っ子の“粋”みたいなものが感じられ、大阪人の筆者はうらやましく思う(だが、梅安と彦次郎の中の人は、ふたりとも大阪人である)。

井上半十郎を迎え撃つ際の、梅安と彦次郎のやりとり。

梅「アタシが殺られたら、逃げておくれ。いいかい?」
彦「ま、そういうことにしとこうや」

先述の、井上半十郎を屠った際のやりとり。

梅「死ぬにはまたとない相手だと思ったんだけどな……」
彦「それは俺でいいじゃねえか」

ふたりとも幼い頃に親に捨てられ、食うや食わずの生活の中で恩人に出会う。おかげで真人間としての幸せをつかみかけた矢先に、どうしようもない不幸に襲われ、仕掛人となった。

ふたりの境遇はよく似ている。お互いに強いシンパシーを抱き、他人とは思えないのだろう。だからこそ、梅安は彦次郎の敵討ちに仕掛の稼ぎを投げうって協力するし、彦次郎は狙われた梅安を守るために命を懸けるのだ。

ところで……

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肝心なことを忘れていた。『仕掛人・藤枝梅安』と言えば、美味そうなメシである。『仕掛人・藤枝梅安2』の“梅安メシ”は、梅安と彦次郎の“最後の晩餐”だ。

いよいよ井上半十郎が乗り込んで来そうな日。梅安は迎え撃つつもりで普通に生活しているが、彦次郎は天井裏に潜んで襲撃に備えている。井上半十郎は強敵である。梅安・彦次郎ともに殺されるかもしれない。だから、この日のふたりのメシは、死ぬ前にいちばん食べたいものだと思われる。この時の天井を挟んだふたりの会話が、筆者的にいちばん好きなシーンだ。

梅「それではアタシは、熱いメシに生卵をかけて食う。悪いね」
彦「俺には、醬油を塗って焼いただけの握り飯がある」
梅「醬油を塗って焼いただけの握り飯か。美味そうだな……」

死ぬかもしれない局面で、おのれの“最後の晩餐”を自慢し合うふたりが、かわいくて仕方がない。
そして、最後の晩餐が“米ベースの軽食”であるということに、筆者は強い強い共感を覚えた。日本人ならば、最後の晩餐は“米”である。決してステーキとかではない(異論は認める)。

池波正太郎の原作には、映像化してほしいエピソードがまだまだ無限にある。2部作で終わりなんてケチなことは言わないで、3、4、5、6……と続けてほしい心境だ。

この作品で描かれるところの、男の矜持、粋な友情、四季の風景、和食と酒……。すべて「日本って、いい国だったんだな」と思わせる光景ばかりである。

こんなに美しい時代劇なら、永遠に観ていたい。

(文:ハシマトシヒロ)

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