映画コラム

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2017年08月12日

『ラ・ラ・ランド』にも心意気は負けじ!青春反戦乙女ミュージカル映画『隣人のゆくえ』!

『ラ・ラ・ランド』にも心意気は負けじ!青春反戦乙女ミュージカル映画『隣人のゆくえ』!

■「キネマニア共和国」



(C)i SHIBAGUCHI FILM



今年は『ラ・ラ・ランド』や『美女と野獣』の大ヒットでミュージカル映画の楽しさに改めて注目されだ方も多いかと思われます。日本映画でも現在公開中の実写版『心が叫びたがってるんだ。』は、ミュージカルの舞台劇がクライマックスとなっていました。

そして今回ご紹介したいのは、何と山口県下関市梅光学院中学校&高等学校に在籍する40名の生徒がキャストとスタッフを兼ねて制作した画期的な作品……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街》

題して反戦乙女ミュージカル映画『隣人のゆくえ―あの夏の歌声―』、これは映画ファンのみならず必見! 

予算や時間は違えども、心意気は『ラ・ラ・ランド』にも『美女と野獣』にも負けてません!

ミュージカル部少女たちとの交流
その先に見えてくるものとは?



1872年に長崎の地で日本のミッションスクールとしては6番目に創設された聖書と英語の私塾が1890年に梅香崎女学校となり、1914年に山口県の光城女学院と合併し、下関梅光女学院が誕生しました(現在は男女共学の梅光学院として、幼稚園から中学、高校、大学、大学院と網羅)。

1945年、同学院は戦災により校舎のほとんどが焼失しましたが戦後に復興。そして戦後70周年を迎えて、同校の卒業生でもあるサラリーマンで、42歳から映画制作を始めた柴口勲監督が梅光の中高生40名とともに作りあげた作品、それが『隣人のゆくえ―あの夏の歌声―』なのです。

そのストーリーは、夏休みのある日、両親が離婚して母親に引き取られることになった高校生のカンナ(正司怜美)が、忘れ物を取りに学校へ戻ると、校内から聞こえる歌声に誘われるように、ミュージカル部の部室へたどり着きました。

ミュージカル部の少女たちは、カンナに「夏休みの間、私たちのたった一人の観客になってほしい」とお願いします。

その申し出に戸惑いつつも、どこか惹かれるようにカンナは部室に通い始めます……。

カンナとミュージカル部の少女たちの交流から、やがて何がもたらされるのか、その結末はネタバレになってしまうので避けたいところですが、シンプルながらもなかなか驚嘆させられる芳醇な内容の脚本展開と、それに即した現役中高生少女たちの素直な演技と歌と踊りに、一気に魅了されること必至です。

劇中で歌われる歌曲の作曲は主演の正司怜美(制作時は15歳)をはじめすべて生徒たちで(作詞は監督)、振り付けもミュージカル部長・田中絹代役の福田麗(16歳)などが担当。

そう、この映画の役名、田中絹代に小暮実千代(平良咲良/16歳)、林芙美子(江藤心愛/16歳)、金子みすゞ(吉田怜/13歳)、丸山小梅(岡元ゆうか/13歳)などなど、往年の昭和を代表する女性たちの名称から多くが採られているのですが、こんな一見お遊びっぽい要素も、実は作品の世界観に巧みに関わっていることはお伝えしておいていいでしょう。

また劇中、空襲で焼け野原となった下関市の惨状を命がけで撮影した上垣内茂夫さんの写真が使用され、その曾孫の上垣内愛佳(16歳)が本作の撮影(共同)を担当しているのも運命的なものが感じられます。



インディーズならではの意欲と熱意、初々しさ
そして伝えたいメッセージ!



映画を見て驚かされるのは、ミュージカルというある種さまざまな技巧が必須な難しいジャンルに対して、サラリーマンと学生たちが真摯に取り組み、その結果、商業映画館で入場料金を取るに足る仕上がりになっていることでしょう。

もちろん各技術方面でのプロフェッショナルの目から見れば、それぞれのパートのクオリティに対していろいろ意見は出てくることかと思われます。しかし、この作品には逆にインディーズだからこそ成し得た意欲や熱意、初々しさ、そして一体何を観客に伝えたいのか? といった、映画がもっとも持ち得るべき資質全てを備えているといっても過言ではありません(洋の東西を問わず、一体何のために作ったのかわからないような商業映画の多いことよ!)。

いわゆる自主映画制作は昭和の時代から行われてきていますが、やはり21世紀に入ってデジタル技術の発達に伴い、以前よりも映画を作りやすくなったことで、そこから新たな才能も出やすい状況になってきています。

その意味ではプロと名乗る映画人たちも、いつまでもそこに胡坐をかいている場合ではなくなってきている。そのことを深く痛感させてくれる作品です。

果たしてこの映画に関わった子たちの中から次代を担う存在が台頭してくるのか? また、本作の指揮を司った柴口勲監督の今後の展開なども含めて、やはり今の日本インディーズ映画界は実に面白くなってきた!

ホント、映画における可能性はまだまだ無限にあるものだなと、最近どこか映画を見続けることにスレてきているのではないかと自問自答しているこちら側も、目からウロコが落ちたような、そんな気分であります。

『隣人のゆくえ―あの夏の歌声―』は8月12日より東京・新宿ケイズシネマ、18日より横浜ジャック&ベティにて、そして26日より大阪シアターセブン、名古屋シネマテークにて上映。
ぜひ全国でも上映できるよう、当地の映画ファンは競って劇場に足を運んでいただきたいと切に願いますし、またそう願いたくなる作品です。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)


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