映画コラム
『デス・ウィッシュ』ブルース・ウィリス復活!医学知識が役立つ拷問シーンは必見!
『デス・ウィッシュ』ブルース・ウィリス復活!医学知識が役立つ拷問シーンは必見!
© 2018 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
70年代アクション映画を代表するスターと言えば、やはり連想するのはヒゲの名優チャールズ・ブロンソン! 未だに男の生き方の手本となっている彼の代表作にして、その後長年に渡ってシリーズ化されたのが、『狼よさらば』に始まる『デス・ウィッシュ』シリーズだった。この人気シリーズ誕生のきっかけとなった名作『狼よさらば』を、あの“世界一運の悪い男”ブルース・ウィリス主演でリメイクした新作映画『デス・ウィッシュ』が、日本でも19日から全国公開されている。
どちらも一時代を築いたアクションスターだけに、どうしても新旧の作品を比較したくなるのは仕方がないところだが、果たしてその出来と内容はどの様なものだったのか?
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ストーリー
犯罪が多発し、警察の手に負えない無法地帯と化した街、シカゴ。救急救命の患者を診る外科医ポール・カージー(ブルース・ウィリス)は、毎日犯罪に巻き込まれた患者の生死に立ち会っていた。裕福で幸せな家庭だけが彼の平穏の地だった。しかし、ポールが留守のうちに家族は何者かに襲われ、妻は死に、娘は昏睡状態になってしまう。ポールの願いも空しく警察の捜査は一向に進展をみせなかった。怒りの頂点に達したポールは、犯人を抹殺するべく自ら銃を手に取り、危険な街へと繰り出し始める―。(公式サイトより)
予告編
https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=o7z8jz3uSdE
人気シリーズが現代に復活!オリジナル版との変更点とは?
家族を暴漢に襲われた一般市民が、警察に頼らず自らの手で街のダニ共に制裁を加える!
この基本設定に変わりは無いが、オリジナル版の『狼よさらば』が既に40年以上前の作品だけに、現代社会を反映した様々な変更が成されている、今回のリメイク版。
後述する主人公の職業変更がその代表的な例だが、彼が復讐のために銃の扱いを学ぶのがネット動画だったり、初めての銃撃戦が録画されてネットに投稿されてしまう点など、今回のリメイク版は見事に現代のSNSやネット社会を反映した内容に生まれ変わっていた。
ただオリジナル版での重要な部分、自分の意思とは無関係に半ば運命的に主人公が銃を入手する展開は、今回もちゃんと踏襲されている。
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思えばオリジナル版の『狼よさらば』では、友人からのプレゼントとして護身用の銃が贈られる描写に、一般市民でも銃が買えるアメリカの銃社会の現実と、増加する凶悪犯罪に対する自衛の必要性が描かれていた。
それに対して今回のリメイク版では、救急患者が落とした銃を主人公が入手することで、ギャングの抗争に使用された銃が一般市民の人生を狂わせる、あるいは逆に犯罪者の銃が正義の行動のために使用されるとも取れる様に描かれており、銃に対する問題定義は更に踏み込んだものとなっているのだ。
実は今回のリメイク版で一番時代の移り変わりを感じたのは、主人公に対する警察の描き方が70年代とは大きく異なる点だった。
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凶悪化する犯罪に対してまだ法を守る番人として存在し、主人公を犯罪者として追い詰めるオリジナル版の警察に対して、壁に貼られた膨大な未解決事件のメモの前にもはや警察官としての限界と諦めを感じており、どこか気の抜けた存在として描かれるリメイク版の警察側のキャラクター。確かに犯罪の被害者である主人公への共感と、警察官としての使命感を持っているのは間違いないのだが、同時に警察の人手不足や予算削減で思うように事件が解決できない現実が、彼に主人公の自警団的行動を容認させることになる。
そのため、主人公の正体が警察にいつバレるか? のサスペンスや、警察と主人公のどちらが正義なのか? といった部分は、今回かなり薄められてしまったと言わざるを得ないのだが、その分、主人公の復讐に観客が集中出来て、派手な銃撃戦のおかげで非常に楽しめる内容になっているのも事実。
犯人を追い詰めるにつれて次第に激しさを増す銃撃シーンの果てに、主人公を待つ結末とは何か? 主人公の家族への愛が観客の共感を呼ぶ今回のリメイク版、オススメです!
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果たして今回の職業変更は成功だったのか?
オリジナル版の『狼よさらば』では建築士だった、主人公のポール・カージー。彼の家族を突然襲った街のダニ共の暴力により、暴力や死とは無縁の世界で生きて来た彼の人生は大きく変貌することになる。残酷な社会の現実に直面した彼は、ついに自身の心の闇と向き合うかのように、街のダニ退治のために銃を手に夜の街へと出て行くのだが…。
対して今回のリメイク版では、主人公の職業は優秀な外科医に大きく変更されている。
確かに常に死や流血と向き合っている外科医なら、主人公が警察に頼ることなく犯人の情報を入手して行動できるし、『狼よさらば』の様に自分が撃たれて病院に運ばれたことで警察に正体がバレることも無くなるので、今回のこの変更は実に懸命な選択だったと言えるだろう。
実際、映画後半の見せ場となる拷問シーンでは、外科医である主人公の医学知識? が見事に生かされる上に、その後の犯人との銃撃戦で受けた銃創を自分で治療出来るという、実に素晴らし過ぎる展開を見せてくれるのだ!
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更に、普段は善良な一般市民も銃による抗争で撃たれたギャングも平等に命を救っていた主人公が、自身の家族を襲った悲劇のためにその境界線が揺るがされ、遂に復讐のために一線を越えるという展開も実に見事!
これによって善と悪の定義や、主人公の行動の是非について更に考えさせられる内容に生まれ変わっている本作。もちろん、娘のサッカー試合の観戦で汚いヤジを飛ばしていたオヤジとの無駄な争いを避けていた主人公が、ラストで自信に満ちた姿へと変貌するなど、『狼よさらば』からシリーズを追いかけて来た世代に勇気を与えてくれる内容となっているのも、今回のリメイク版の大きな魅力と言える。
特に、あの『マッドマックス』一作目を思わせる拷問シーンは、必見です!
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最後に
本作鑑賞後に思い出したのが、オリジナル版『狼よさらば』での印象的なラストシーンだった。
警察に、この街を立ち去れば罪に問わないとされた主人公が、相変わらず一般市民に迷惑をかける街のダニを見て浮かべる笑顔とその意味深な仕草は、主人公がもはや銃による殺人の快楽から逃れられないことや、アメリカ全土に凶悪犯罪が蔓延していることを象徴する名シーンだったのだ。
もちろんこのリメイク版でも、『狼よさらば』にリスペクトを捧げたラストシーンが用意されているのだが、残念ながらその印象は大きく異なってしまったと言わざるを得ない。
家族を襲った犯人への直接の復讐が達成されない『狼よさらば』では、主人公の自警団的行動は自身が心に負ったトラウマへの治療であり、その決して終わりの無い行動が何とも言えない深い余韻を観客に残して終わる。
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それに対して犯人への復讐という目的が達成されてしまうリメイク版では、そこから更に自警団的行動を続ける動機が薄くなってしまい、一種の“ヒーロー誕生!”の様な結末になってしまっているのが非常に残念だ。
今回確かに観客の満足感と復讐の達成感は勝っているが、正直『狼よさらば』のファンには違和感を覚えた方も多かったのではないだろうか?
とは言え、往年の名作が新たな設定で再びスクリーンに帰ってきてくれたことは、観客にとって非常に喜ぶべきことだと言える。
新旧のアクションスターが演じ、これほど長期に渡って愛されて来た本作の主人公ポール・カージー。時代の変遷を経て見事に現代に蘇ったその姿は、是非劇場で見届けて頂ければと思う。
(文:滝口アキラ)
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