『幼な子われらに生まれ』三島有紀子監督インタビュー、役者に問われるのは個人がどれだけキャラクターが掘り下げられているか
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
8月26日(土)から三島有紀子監督の最新作『幼な子われらに生まれ』が公開されます。同作は、重松清が1996年に発表した傑作小説を映画化したもの。バツイチ再婚し、父親をうまく演じているつもりが、実際の妻の連れ子と上手くいっておらず、連れ子が本当の父親と言い始めたため、妻の前夫と会う決心をする、家族の絆、関係性を描いたヒューマンドラマです。
今回シネマズでは、三島有紀子監督に映画化したいと思ったきっかけや、原作のアレンジ部分、子役さんのオーディションなどについてお話を伺ってきました。
──間もなく公開となりますが、完成披露試写会を経ての今の率直な気持ちを伺えますでしょうか。
三島有紀子監督(以下 三島):たくさんの方に見ていただきたいなと思っています。6年くらい前から企画が始まって、長きに渡って作ってきた作品なので、早く生まれてきてくれたらいいなと思っていました。
──荒井晴彦さんと新宿で飲んでいて、そこで脚本を渡されたと伺いました。脚本を読まれてこれを撮りたいと思ったのはなぜでしょうか。
三島:登場人物全員が傷だらけで、正解を見つけたつもりなのにそれは正解ではなくて、そんな傷だらけの人たちが正解を求め続ける姿に寄り添いたいなと思いました。それからいろいろな人間が異物に出会うことで、本心がむき出しになっていくのが面白いと思いました。
人と人が異物に会ったときに、いろいろな化学反応が起きるところを繊細に描きたいと思って撮りました。
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
──田中麗奈さんが演じた役を掘り下げていかれたと聞きました。当初の脚本よりも女性のキャラクター像をより掘り下げたいと思った理由は何でしょうか。また、実際どのあたりをアレンジしていかれましたか。
三島:原作では、浅野忠信さん演じる信さんはイメクラの赤ちゃんプレイの風俗に通っています。原作は風俗の部分を細かく描かれているから成立するのですが、映画で描くと家族の部分が薄くなるので、イメクラに通うという部分はカットして、信さんが父親としてどういう仕事の仕方をしているか、仕事の向き合い方に力を入れました。
また、田中麗奈さん演じる奈苗については彼女なりにも考えたり悩んだりしていたことや思ったことがわかるシーンを入れたいと思いアレンジしました。寺島しのぶさん演じる友佳についても、キャリアがあってああいう生き方をしてるけど後悔してないわけでもないし、後悔だらけの人生と言ってしまう弱い部分を入れたいなと思いました。
自分が女性だからかどうかはわからないですが、自分の中にいろいろな感情や面が住んでる気がしています。一人の人間を多面的に描きたいと思ったその気持ちを追加の部分として入れさせて頂きました。
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──演出していくにあたって、監督自身が経験してきたことなどを投影した部分はありますでしょうか。
三島:信さんのキャラクターは私の父親に近いです。私の父は帰ってすぐ私服に着替える人で、きっちりしていました。信さんは子供との距離があるように見えるといいますか、膝に乗せてあやしてやっていても、どこか距離を感じるように見せたかったのです。
距離感は近いのに、そう見せないようにするには、うちの父親の距離感が一番参考になりました。父と私は先生と生徒というか師匠と弟子というか、全然甘えさせてくれなかったので、そういうところを入れていくと、その距離感を感じてもらえるのではないかと思いました。
帰ってきたらきちっと服をきて、同じ印象を持つような服を着る。それは一つの指針を持っていて、自分の服を着る時も、自分の選ぶもの、選ばないものが決まって見えたらいいなと思って反映させました。
指針や尺度を提示できるのが父性なのかなと思っているんです。信さんは父性を得たいと思いながら、型から入ってしまい、自分のスタイル・尺度を持っていると見せている。でも実際は揺らいでいる。というのがお客さんに伝わるベースができたらと思いました。
最後に尺度が一瞬見つかるシーンがありますね。
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
──映画の中で理想の父親と思われるものを演じていたところから、父親になるところでハッとさせられました。
三島:そこがゴールに見えてそこからが本当のスタートですね。お父さんみたいじゃんって言われたときから、自分って父親できてないの?と思い始め父性について考え始めますので。で、正解を見つけたと思ってまた探し続ける・・・エンドレスにその繰り返しかなと。
──監督としては“真の父親”とはどんなものでしょうか。母親についても教えてください。
三島:性別の役割とは思わないので父親というより父性ですが、それでいうと、自分の尺度を提示できることかなと思います。母親母性でいうと、見返りを求めない無償の愛かなと思います。
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──登場する4人の父母はそれぞれが親だけれど、観客に見えるような見えないようなモヤモヤを抱えている人物だと思いました。役を作っていくにあたり、どのような演出指示ややり取りをされましたか。
三島:浅野さんの役については砂漠とオアシスを行き来している目でと伝えました。とにかく正解を見つけたと思っていたけど、永遠に正解を見つけられない人、最初の方はライトなお芝居でというようなことを手紙で書きました。そのあとはやってみるという感じでした。
あとは、台本のセリフを一度忘れてもらって、きっかけを作ってみて、演じてもらうというのもやりました。特に夫婦喧嘩のシーンで、繊細な感情をよりリアルにするために、そういったアプローチを取りました。
俳優さんの中にちゃんとそのキャラクターが入っていたからできたことです。例えば、宮藤官九郎さんのシーンで、宮藤さんが立っているところに偶然風が吹いて、セットしていた前髪が落ちてしまったシーンがあります。
そこで髪が落ちたときに直したらキャラクターとしてはアウトだと思いました。あのキャラクターはああいう時、髪を直さないキャラクターなのだろうと。それを戻さないという選択ができるかどうかっていうのが役者さんに問われているような気がします。風が吹いたときに、そのチャンスを活かすことができるかどうかは、キャラクターが掘り下げられているかどうかにかかっているんです。
彼の髪が落ちたときにそのままにしていたのがとても切なくて、それでいいシーンになりました。もしそこで髪を直したら「もう一度」と言っていたと思います。でも次に風が吹くかどうかはわかりません。個人でどれだけキャラクターが掘り下げられているか。そこの調整が大事です。私の仕事は、お芝居で言うと、キャラクターがぶれていないかどうか、全体の流れの中でその人のその感情が合ってるか、それが伝わるか、を見ているという感じです。もちろん繊細な部分でということですけどね。
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──子役さんがオーディションでキャスティングされたそうですが、「この子だ!」と思った瞬間などはありましたか。
三島:子役さんたちの反応力を注視していました。例えば背中をとんと叩かれたときに怖がるのか、にらみつけるのか、言葉を投げかけてくるのか、を見ています。台本にはない形でやったのですが、演出部が出したことに対して「薫ちゃんはこういう子だよね」と子役さんたちに話しあってから、オーディションで突然背中に軽く手をあてたら、睨んできました。にこやかに肩に手をおいてほめてあげると、すごくはにかんだ笑顔が広がりました。なんらかの反応をしっかりと出していく、それはなかなかできないことです。日本人は特に感情を抑えて生きていることが多いですし、普段の慣れ親しんだ生活ではできるかもしれませんが、オーディションでできる人は少ないです。何か言葉や台詞を投げかけても自分の感じたこと、思ったことを返せる。動物的な感じです。
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──最後のシーンを見て、登場人物たちはどういう風に未来を見据えているのだろうと考えました。
三島:それを想像してほしいがために、あのエンドロールが存在していると思います。だからタイトルを最後に出し音楽を流れ、彼にこれからがどんなことが起こるか想像してもらいたいですね。
──本編に感情移入しすぎ、幸せになればいいなと思いながら、ここからもっと大変なことが起こるかもだけど頑張ってほしいと個人的には思いました。
三島:それぞれですが、そう考えてくれたらいいですね。ラストシーンが答えというわけではないですから。
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映画『幼な子われらに生まれ』は8月26日(土)より公開です。
(取材・文:柳下修平)
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