初音映莉子×高良健吾×草刈民代、これが“普通”の生活『月と雷』



©2012 角田光代/中央公論新社 ©2017「月と雷」製作委員会


こんにちは、八雲ふみねです。
今回ご紹介するのは、現在公開中の『月と雷』。
ある日突然、他人があなたの家に居座ったら…。どうします???

八雲ふみねの What a Fantastics! ~映画にまつわるアレコレ~ vol.126



幼い頃に母親が家を出て行って以来、ごく普通の家庭を知らずに育った泰子。スーパーのレジ係として働きながら、亡き父が遺してくれた家と職場を往復するという平凡な日々でありながらも、結婚を控え小さな幸せを実感しながら暮らしていた。しかしある日、かつて半年間だけ一緒に暮らしていた父の愛人の息子・智が突然現れて…。



©2012 角田光代/中央公論新社 ©2017「月と雷」製作委員会



「親と子」「家族」「生活」の意味を根源から問いかける、
角田光代の傑作小説を映画化。


一カ所に定住出来ない“根無し草”のような生活を送る母親とその息子が現れることで、ひとりの女性の静かな日常が揺らいでいくさまを描いた『月と雷』。刺激のある生活を求めているわけではなく「あたしはこれから普通の家庭を築き、まっとうな人生を送っていく」と考えていた矢先、平板な生活がたちどころに変化していくワケですから、一見すると迷惑なハナシです。

しかし単純に“迷惑”という言葉では片付けられない感情がうごめいているのが、本作の魅力。

原作は、直木賞作家の角田光代が2012年に発表した同名小説。角田作品と言えば、登場人物の繊細な心理をリアルに描き出すのが特徴で、これまでにも『八日目の蟬』や『紙の月』が映像化され、大ヒットを記録しています。

その作風は「月と雷」でも健在。普通の人間関係を築けない大人たちが続ける孤独な旅を描くと同時に、「親と子」「家族」「生活」の意味を根源から問いかける鋭さは、まさに角田文学の真骨頂とも言えるでしょう。

メガホンを取ったのは、安藤尋監督。風の吹くまま気の向くまま、成すがままの人生を不器用に歩む登場人物たちをアンニュイに、しかし力強く描き出しています。



©2012 角田光代/中央公論新社 ©2017「月と雷」製作委員会



彼らがともに暮らすなかで追い求めた、普通の生活とは。
…そもそも“普通”の生活って、ナニ???


登場するキャラクターの持つ空気感を映し出す…といった印象の本作。それだけに演じる俳優の力量が問われるなか、実に面白いアンサンブルを見せています。

大好きな父親を失い清算しきれない過去を抱えながらも普通の生活を追い求める泰子役に、初音映莉子。屈託のない笑顔でスルスルッと他人の家に転がり込んできては相手の人生を無邪気にかき乱す智役に、高良健吾。男から男へと渡り歩き荒んだ生活を送る智の母親・直子役に、草刈民代。

まぁ言ってみれば、どの人物もみんな、ちょっぴり“ダメな人”たち。なのに、どこかしら愛嬌があるキャラクターたちを、三者三様、情感豊かに演じることで、観客をスクリーンに惹き付けます。

中でも驚きなのが、直子役の草刈民代。エレガントな印象が強い彼女が初めての“汚れ役”に挑戦。ほぼスッピンに猫背で、昼間から酒を飲みスナックで上機嫌でカラオケが歌う姿は、言われなければ草刈民代だと気付かないほどの変貌ぶり。“化ける”とは、まさにこのコトですね。

まるで波間を漂うような人生を重ねる彼らに、観る人は千差万別の感情を抱くことでしょう。

しかし「いやぁ、この人たち“普通”じゃないよなぁ〜」と感じた瞬間、ほぼ同時に「では、“普通”ってナニ?」という疑問が頭をもたげるのも、これまた事実。観る人の解釈によってどんどん世界観が広がっていく、そんな可能性を秘めた映画に触れてみるのも、これまた一興かもしれません。



©2012 角田光代/中央公論新社 ©2017「月と雷」製作委員会



キャストから監督へのプレゼントは、なんと…。


公開初日の舞台挨拶には、初音映莉子、高良健吾、草刈民代、安藤尋監督が登壇しました。



©2012 角田光代/中央公論新社 ©2017「月と雷」製作委員会


安藤監督が手にしているのは、月の土地の権利書。映画のタイトル『月と雷』にちなんで、キャスト陣から監督にプレゼントされました。

「え、月って購入出来るんですか?」と司会を務める私もビックリしたのですが、月の土地って販売してるんですよ。

購入した土地の位置関係を示す写真には、ごま粒程度の点が記されているだけですが、その広さは1エーカー=約1200坪。サッカーグラウンド1つ分に相当するとのこと。ロマンと遊び心にあふれたプレゼントに登壇者の皆さんも笑顔の初日舞台挨拶でした。

作品情報


月と雷
2017年10月7日からテアトル新宿ほか全国ロードショー
監督:安藤尋
原作:角田光代(中公文庫)
出演:初音映莉子、高良健吾、藤井武美、黒田大輔、市川由衣、村上淳、木場勝己、草刈民代 ほか
©2012 角田光代/中央公論新社 ©2017「月と雷」製作委員会
公式サイト http://tsukitokaminari.com/

(文:八雲ふみね)

八雲ふみね fumine yakumo


八雲ふみね

大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。

八雲ふみね公式サイト yakumox.com

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