究極の邦画アクション『RE:BORN』誕生!下村勇二監督インタビュー

INTERVIEW

今年は間違いなく、「アクション映画」が飛躍を遂げた年だと言える。年始早々『ドラゴン×マッハ!!』が新次元のアクションを見せたと思えば『イップマン 継承』でドニー・イェンがこれまでにないドラマチックなカンフーを見せた。さらに『HiGH&LOW THE MOVIE2 END OF SKY』で邦画アクションも格段の進歩を遂げてきた。これだけでも十分だったところに、さらに別次元のアクションを見せる映画が誕生した。それが、下村勇二監督の『RE:BORN』だ。

©︎RE:BORN PARTNERS

それは衝撃的な戦技だった。すれ違いざまには、ほぼ勝敗がついている。何が起こったか分からない内に敵が倒されている。しかもラスト40分は、そんな戦技“ゼロ・レンジ・コンバット”がこれでもかというほど繰り広げられ、観客を主人公と同様の極限状態へと引き込んでいくのだ。それはもう、度肝を抜かれたというより「出会うべき作品に巡り会えた」という感動と興奮により近い。

ストーリーはシンプルだ。石川県の加賀でサチという少女の面倒を見ている敏郎は、最強の元傭兵部隊員。あることがきっかけで部隊を壊滅させた敏郎だったが、部隊を率いていたファントムから狙われてしまうことに。刺客が次々と送り込まれ、敏郎は体に染み込んだスキルを駆使してそれを返り討ちにしていく。そしてファントムの手はサチにまで及び──。

刺客の一人である“アビスウォーカー”は、かつて戦地で敏郎とパートナー的な関係にあった人物で、その戦闘術は驚異的。この役を演じている稲川義貴氏こそ本作の戦術&戦技アドバイザーを務めた人物であり、ゼロ・レンジ・コンバット(零距離戦闘術)の考案者でもある。

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稲川氏は特殊部隊の格闘技教官という経歴を持つ“プロ中のプロ”であり、敏郎とのバトルは圧巻という言葉ですら表現しきれないほどの、別次元の闘いになっている。アビスウォーカーと対峙する敏郎役のTAK∴こと坂口拓も、俳優であると同時に『リアル鬼ごっこ』や『HiGH&LOW THE RED RAIN』のアクション監督としても知られ、本作の撮影のために稲川氏のもとで修行を積んだ実績を持つ。そして下村監督自身もドニー・イェンのもとでアクションを学んだ経験を持ち、『図書館戦争』や『GANTZ』のアクション監督を務めている。『RE:BORN』とは、まさに“アクション&闘いのプロたち”が結集したアクション映画なのだ。

今回、幸運にも下村監督に作品についてお話をお聞きすることが出来たので、じっくりと『RE:BORN』という作品を紐解いていきたい。

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下村勇二監督インタビュー

──宜しくお願いします。まず、『RE:BORN』を制作したきっかけについて教えてください。

下村:俳優を引退していた坂口拓(TAK∴)が復帰する、という話が出てきたんです。彼とは自主制作活動をしたりして古くからの友人だったので、ここは僕が復帰作を監督して「今まで見たことのないようなアクション映画を撮ろう」と話しました。ただ彼の中では、自身が監督主演した『狂武蔵』でアクションの全てを出し切ったこともあり、何が出来るのか悩んでいたところもあったそうです。そんな時に坂口から稲川先生を紹介されて。坂口が「この人は本物だ」と認めていた方ですし、国内外で戦闘術を教えられている稲川先生の話をお聞きして「これを映画に取り入れられたら凄いよね、誰も見たことのない作品になるよ」という話になりました。それが3年くらい前でしょうか。

──企画協力として園子温監督の名前もありました。

下村:もともと坂口と園子温監督が仲が良くて、ある時会話の中で『ある街に元傭兵が住んでいて、誰も知らない間に任務を遂行して、次の朝には日常に戻っている』というアイデアが生まれたそうなんです。それを基にして坂口が叩き台となる脚本を書き起こしました。

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──共演に斎藤工さん、いしだ壱成さん、篠田麻里子さんら豪華キャストが集結しています。

下村:キャスティングに関しては坂口の交友関係が大きいですね。ロック役のいしださんは坂口が監督した『サムライゾンビ』からの付き合いがあり、ニュート役の篠田さんは『リアル鬼ごっこ』で坂口がアクション監督を務めて以降、坂口からアクションを学ぶなどして交流がありました。健二役の斎藤さんについては彼が有名になる前から坂口が気に掛けていたということもあって、皆さん快くオファーを引き受けてくれました。

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──意外なところでは、大塚明夫さんの名前も。

下村:僕が『メタルギア・ソリッドⅤ ファントムペイン』のアクション・コーディネーターを務めていたこともあり、最後のボス、ファントム役は大塚さんに演じてもらえないかと思ってオファーしました。大塚さんには、「目元に傷を入れますよ」と伝えたら「うん、いいよ」とも言ってもらえて(笑)。大塚さんの出演で違う層にもアピール出来るし、この役は今でも大塚さん以外に考えられないと思っています。

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–{「殺し合いを二回もできるか!」と怒鳴られた!?}–

──“ゼロ・レンジ・コンバット”という接近戦術を全編で描いた前例のない作品でありながら、各人物の戦闘状況や動作がしっかりとスクリーンから伝わってきました。撮影や編集にコツがあったのですか?

下村:実は、アクションシーンが上手くいかず後半の森の中のシーンから敏郎対アビスウォーカー戦まで、一度全部撮り直しをしているんです。撮っていて、何をやっているのか分からない。あまりにもリアルすぎて、動きが早すぎてそこからドラマ性を見い出せなかったんです。坂口と稲川先生が揃えば何かが生まれるのでは、と考えていましたが、あまりにも規格外すぎて、その枠に全く当てはまらなかった。それともう1つの理由として、撮影開始当初に僕と坂口、稲川先生の三者に距離感があったこともあります。こちらは映画の世界であり、稲川先生は戦いの世界に身を置かれてきた方。対敏郎戦でも、最初速すぎる動きに何をしているか分からず『もう一度お願いします』と伝えたら、『こっちは殺し合いをやってるんだ! 殺し合いを二回もできるか!』と怒鳴られました。

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あの闘いは坂口と稲川先生の案によるもので、それがどれだけ凄いのか二人にしか分からない。これでは映画にならないのでは、と考えて再撮をお願いしました。坂口の復帰作であり、ここで失敗しては坂口に申し訳ない。それにゼロ・レンジ・コンバットは戦場で使われる戦闘術であって本来表には出てこないものであり、もし実際に使われるとしたら有事が起きた時でそれは決して起きてはならないこと。“教えているのに使ってはいけない技”という、そんなジレンマが稲川先生の中にあった時に『映画の中でなら表現出来るのではないか、形として残せるのではないか』という、ゼロ・レンジ・コンバットや作品そのものに対する稲川先生の思いも背負っていたので、映画を成功させなければ稲川先生や関わってくださったお仲間の方達にも申し訳なかったんです。そんな経緯もあったので、追加撮影に半年時間を掛けたことで稲川先生と僕の距離感も近づいて考えがシンクロするようになったり、稲川先生も映画撮影の現場を理解されていって。そこから“戦技”というものが少しづつ“映画としてのアクション”に近づいていき、リアルとアクションの境い目を狙うことができるようになりました。

──細部まで行き届いた、リアルな演出が目を引きました。

下村:作品の中で描かれているのは稲川先生への取材の中でお聞きした、実際にあった会話や行動が基になっているので全てがリアルなんです。例えば劇中で敏郎が相手の目を見ようとしないのは、戦場から帰還した兵士の、どこか虚ろな目線を表現しています。戦闘中でも相手の目を見ようとしないのは、相手を人として認識しないためであり、常に周囲を意識している“イーグル・アイ”を表現したものなんです。僕たちが知らない世界を見てきた稲川先生だからこそ物語に組み込むことができた“リアル”であり、だからこそ敏郎が、ある場面でサチをしっかりと見るという、人間的な変化を描き出すこともできました。

それから、敏郎が砂浜を散歩するシーンがたびたび出てきますよね。敏郎にとってあの場所は戦場をイメージさせる場所なんです。荒波の音は戦地の轟音を思い出させ、砂浜のゴミは瓦礫を連想させる。平穏な暮らしの中でもどこか戦う居場所を求めていた敏郎は、だから砂浜を歩くたびに心が落ち着くんです。

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戦闘シーン一つを取っても意味があります。戦争には僕たちの目に“見える戦争”と“見えない戦争”というものがあって、兵士は常に戦っている。敏郎は身を投じた戦いを“根源”から根絶やしにしなければならないという使命があるので、敵の息の根を一人残らず止めるまでは死ぬことはできません。そのため森の中で敏郎は壮絶な戦いを繰り広げることになり、アビスウォーカーやファントムとの対決に突き進んで行く理由があるのです。

──たびたび映し出されたタンポポも印象的でしたが、どういった意味があるのでしょうか。

下村:観客側から見れば、敏郎が持つ治癒能力を端的に知ることになるモチーフになっていますよね。でも、それだけではない意味も込めています。例えば、タンポポの花言葉には『愛の神託』『幸福』『別離』といったものがあり、フランス語では葉の部分を指して『ライオンの歯』という意味もあります。映画を観ると分かりますが、それは敏郎とサチの関係性であり、サチの内側にある“普通ではない”部分も暗示しています。オープニングでサチが黄色の合羽を着て猫の亡骸を抱えているのも、そんなタンポポをイメージしたものなんです。そういった、タンポポが持つさまざまなイメージを意識した上で、ラストシーンでタンポポがどういった状態になっているかにも注目してみてください。あの海岸が戦場というイメージならば、最後に映るタンポポの状態が示す意味から、目には見えていなかった物語のイメージが生まれてくるかもしれませんよ。

──小説家の佐伯紅緒さんが脚本を担当されていますね。

下村:坂口が書いた叩き台の脚本では男たちだけの目線になっていたので、女性から見た“外側”の視点も欲しかったんです。それで、もともと稲川先生と面識のあった佐伯先生ならそういった戦いの世界を理解もされているので、脚本の執筆をお願いしました。出来上がった脚本には当初恋愛要素が入っていて、坂口が「この映画に恋愛要素はいらない」と突っぱねたこともありましたが、佐伯先生の脚本のおかげで観客と同じ視点で物語を俯瞰する目線が生まれたり、サチによる冒頭と最後のモノローグをより良い形に仕上げることができました

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──ほかにも音楽の川井憲次さんなど、スタッフにも邦画界を代表する方々の名前が並んでいますね。

下村:自主映画体制ではあるものの、これまでに一緒にお仕事をさせて頂いたことのある“気持ちで動いてくれる”人たちに協力してもらいました。ガンエフェクトの第一人者である納富貴久男さんもその1人で、撮影が延びて迷惑をかけてしまったにも関わらず、小道具の銃器を返却した際に『お金はいらないから、またいっしょに仕事しよう』と声をかけてくださって。

音楽に関しては、最初から川井さんにお願い出来たらと考えていました。川井さんと親交のあった佐伯先生が間を取り持ってくれて、作品について川井さんに説明して「低予算ですがお願いできませんか」とお話ししたところ、快諾して頂けました。今回の作品は台詞が少なく、その代わりに音楽でキャラクターの心情の機微を引き出して、作品にドラマチックな厚みを出してもらえました。また敏郎とアビスウォーカーの戦いでは、頂点に達した者同士にしか出せない崇高なイメージ、神々しさを川井さんはしっかりと音楽で表現されていて、やはり川井さんは凄いなと思いました。

この作品は音にもこだわりがあって、オープニングとラストカットでタイトルが出る瞬間の金属音にも拘りました。それは、効果音では日本でトップクラスの柴崎憲治さんが緻密に作り上げた“陰”と“陽”の繊細な差。金属音の僅かな差にも、よくよく聞いていれば表裏一体である敏郎とアビスウォーカーの関係性を感じられるはずです。

──下村監督の次回作のご予定は?

下村:坂口と侍映画を撮ります。いま、日本で時代劇ってないじゃないですか。海外に向けて日本が誇れるものを作りたいんです。稲川先生はもともと剣術家でもあるので、稲川先生となら殺陣だけでなくもっと精神的なものも含めた、本物の侍映画が作れるのではないかと。坂口が現在修行を重ねているので、それをマスターした時に撮影に入ります。今の坂口の段階でも凄いですよ、あまりの早さに残像が見えるくらいで、これをどうやって撮ればいいんだろうと悩むくらいです(笑)。とにかく、ただのチャンバラ映画にはしませんし、どこかで『RE:BORN』に通じるものがあるかもしれません。敏郎は髪を束ねていたり、銃を使ったりしませんよね? まずはその侍映画を完成させてから、『RE:BORN』ゼロ、もしくは2に入りたいと思っています。

──稲川先生が「『RE:BORN』ゼロは10倍凄いものを見せる」と仰っていました。

下村:本来ならすぐ続編に着手するところですが、今は侍映画を進行しています。今の時代だからこそ、やらなければいけない作品だと思っています。続編はしっかりストーリーにもアクションにも時間と予算をかけて挑みます。アクションが進化する、と言うより本来のゼロ・レンジ・コンバットに近づくものになるはずです。

前日譚となるゼロでは、敏郎とアビスウォーカー、健二、さらにもう一人の“レジェンドキャラクター”によるフォーマンセルや、1で語られなかった健二が顔に傷を負ったエピソードを描く構想があります。2で敏郎はもっと形の違う敵と戦うことになるので、少し先になりますが期待して待っていてください。

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──最後に、これから『RE:BORN』を観る人に向けてメッセージをお願いします。

下村:初めて作品をご覧になる方は、とにかくゼロ・レンジ・コンバットに注目してください。おそらく日本で初めてのミリタリーアクションではありますが、剣術や日本の古武道・古武術がベースになっていて、侍映画に通じる“日本人にしか出来ない”身体操作のアクションになっています。海外アクションに影響されたものではない、日本が誇れるものを作りたかったという思いを感じてほしいです。

二度、三度と観てくださる方は作品の持つ表と裏のストーリーを感じ取ってほしいですね。裏のストーリーに関しては僕たちも作品の中では語っていないので見た目には分からないと思うんですけど、一つ一つの意図を感じてほしいです。僕たちは説明過多な映画は作りたくなかった。観客に委ねる映画を作りたかったので、ぜひ『RE:BORN』が持つ、目には見えていない物語を想像してほしいと思います。

──ありがとうございました!

まとめ

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『RE:BORN』は今後も、10月21日の京都をはじまりに再び各地での上映がスタートする。本来ならばこんな作品こそ全国公開されるべきだと思うが、まずはお近くの劇場で上映があるのならば、絶対に見逃さないようにしてほしい。これまでにないアクション映画を、体感することができるはずだ。

(取材・文:葦見川和哉)

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