『彼女がその名を知らない鳥たち』松坂桃李の愛撫は最高、それ以外は最低最悪(※褒め言葉)の傑作を見逃すな!
まとめ:キャッチコピーを打ち出した人にも拍手を!
『凶悪』の猟奇的すぎる殺人者の告白、『日本で一番悪い奴ら』の冗談のような警察の汚職など、白石和彌監督作品は良い意味での極端さ、どこまでも人間の“業”が深くなるかのような、ある種の“エクストリームさ”にこそ魅力があると、筆者は考えます。『彼女がその名を知らない鳥たち』も同じように、そのエクストリームさが、“不快さ”という一点に突き抜けていると言ってよいでしょう。
それでいて、『凶悪』の殺人者たちが喜々として殺人を行う一方で自身の家族を大切にしていたり、『日本で一番悪い奴ら』の主人公が次々に汚職に手を染める一方でマジメかつ勤勉であったりと、白石監督作品には“最低なヤツらの印象が変わってしまう”という描写も少なからずありました。
そこで注目してもらいたいのが、本作『彼女がその名を知らない鳥たち』のキャッチコピーです。
「あなたはこれを愛と呼べるか」
「共感度ゼロの最低な女と男が辿りつく“究極の愛”とは—」
「このラストは、あなたの恋愛観を変える」
これまで語ってきた通り、登場人物のほとんどは“共感度ゼロ”という触れ込み通りの最低最悪の人間です。しかし、“究極の愛に辿りつく”と“ラストであなたの恋愛観が変わる”というのも、また事実なのです。ラストにおいて、筆者はボロボロと涙を流してしまいました。それは、今までに最低最悪だと思っていた、ある登場人物の印象が変わり、まさに究極の愛を目の当たりにしたからなのです。(共感度も、ゼロではなくなるかもしれません)
多くの恋愛映画が、「共感を呼ぶ」や「感情移入できる」などをセールスポイントにしている世の中で、あえてそれらと正反対の言葉を打ち出し、なおかつ映画の内容を完璧に表した、このキャッチコピーを作り上げた方も、最大限の賞賛に値します。
「あなたはこれを愛と呼べるか」という問いかけに対して、筆者は「愛と呼びたい」と考えます。この最悪で不快な人物たちが織りなす物語と、観る人それぞれで捉え方が異なるであろう、衝撃の結末を見逃さないでください。“普通”の甘ったるい恋愛映画では絶対にあり得ない、例えようもないほどの感動が、そこにはあるのですから。
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(文:ヒナタカ)
参考図書:彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)
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