『伊藤くんA to E』を見ながら思った。「こんなゲス極男がなぜモテる!?」
©「伊藤くん A to E」製作委員会
長年モテない人生を送り続けていますと、理不尽なまでにモテまくる男のことを逆恨みしたくなってしまうことがよくあるものですが、まあそんなことを表に出すのは野暮にしても、正直どーしてこんなゲスい男にこんな綺麗なカノジョがいるの? とわが目を疑いたくなることも多々あります。
そしてこの映画『伊藤くんAtoE』もまた、5人の美女にモテモテの男=伊藤くんが主人公ではあるのですが……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.281》
この伊藤くん、もう不愉快さを通り越して笑ってしまうほどに痛いゲスの極みなのでした!
痛い男=伊藤くんとA~D
+Eの女たちの恋の駆け引き
映画『伊藤君AtoE』のお話は、かつて一世を風靡しながらも、とある事情で今は新作を書けずに落ち目気味の脚本家・矢崎莉桜(木村文乃)が、自身の講演会に参加した4人の女性の切実な恋愛相談をネタに新作を書こうと目論みます。
A:島原智美(佐々木希)=都合のいい女
B:野瀬修子(志田未来)=自己防衛女
C:相田総子(池田エライザ)=愛されたい女
D:神保実希(夏帆)=ヘビー級処女
ところがA~Dの4人を悩ませている相手の名前はみんな“伊藤”くんで、しかも何となく似たような自己チューで痛い性格みたい。
やがてA~Dの取材を進めていくうちに、莉桜は彼女たちを振り回す“伊藤”くんと、自分が講師を務めるシナリオスクールの生徒で28歳フリーターの伊藤誠二郎(岡田将生)が同一人物なのではないかと勘繰るようになります。
この伊藤誠二郎、容姿端麗ながらも自意識過剰で口先ばかり達者な、痛男なのでありました……。
©「伊藤くん A to E」製作委員会
柚木麻子の同名小説を原作に繰り広げられる、赤裸々なまでのゲス男とA~D+Eの女性たちの恋の駆け引きは実にミステリアスで謎深いものがありますが、それを見事に実践してくれているのが主演の岡田将生でしょう。
若手実力派男優の筆頭でもある岡田将生ではありますが、そんな彼がもしさわやかなイケメンのままに痛さ極まるゲス男だったとしたら……。
想像するだに恐ろしいキャラクター“伊藤”くんを、彼は実に楽し気に怪、いや快演してくれています。
そのゲスっぷりは正直画面を見ながらひとつひとつ突っ込みたくなるほどですが、とにもかくにも根拠のない自信だけを武器に数々の美女を翻弄していくその天然なテクニックは、ある意味あっぱれ!?
また一方で、佐々木希、志田未来、池田エライザ、夏帆、そして木村文乃と今の日本映画界を代表する美人女優たちが、痛男にとことん振り回されながら、それぞれが心の奥に見え隠れする“毒”を露にしていくあたりが実にリアルで、少なくとも男性観客はたじたじになってしまうこと必至!
©「伊藤くん A to E」製作委員会
イケメン&美女キャスト陣を鋭く見据えた
才人・廣木隆一監督のキャメラ・アイ
言ってみれば本作はラブストーリーであり、コメディであり、ミステリでもあり、そして男女の心の内面を鋭くえぐった人間ドラマでもあります。
監督は昨年『PとJK』をヒットさせると同時に、『彼女の人生は間違いじゃない』をキネマ旬報ベスト・テン第7位にランクインさせた廣木隆一。キラキラ映画からシックな人間ドラマにヒューマン感動作、はたまたSMや同性愛などアヴァンギャルドな恋愛映画まで手掛けつつ、どの作品もそこはかとないストイシズムとスタイリッシュな映像美を両立させていく才人です。
そんな廣木監督だからこそ、痛い男と毒を潜ませた女たちの駆け引きをスリリングなサスペンスとしてオシャレに、そして奥深くもさりげないリアリズムをもって描出することができたのでしょう。
©「伊藤くん A to E」製作委員会
また人間観察にも秀でた廣木監督のキャメラ・アイゆえに、今回もキャストの魅力を巧みに抽出し、それぞれの新たな魅力を大いに引き出してくれています。
ストーリー的な結末などはネタバレになるので書けませんが、クライマックスには堂々10分に及ぶ長回しシーンが登場します。そこでの岡田将生と相手の女優の演技合戦も大いに見ものです。
また、ここに至り、同性としてどことなく痛いゲス男=伊藤くんのことが嫌いになれなくなってしまった私なのでした……!?
ひとりで見るのも当然良しではありますが、デートで見たら鑑賞後のティータイムが男女の恋の意識の違いをめぐる大激論になってしまうかもしれませんので、ご注意のほどを⁉(でも、見終わると本当に異性と何かしゃべりたくなる映画です!)
(文:増當竜也)
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