『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』ITの単語に隠された意外な意味とは?

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。


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90年にテレビドラマ化された、スティーブン・キングの長編小説「IT」。本作はそのリブート作品であり、公開前からファンの間で話題になっていた作品だ。前作をリアルタイムでレンタルして見ていた世代なので、今回のリブート版には期待半分・不安半分で鑑賞に臨んだわけだが、果たしてその内容とはどんな物だったのか?

ストーリー


平和で静かな田舎町を襲った、連続児童失踪事件。内気な少年ビルの弟も、ある大雨の日に外出し通りに大量の血痕を残して消息を絶った。救えなかった自分を責めるビルの前に、突如“それ”。“それ”を目撃して以来、恐怖にとり憑かれるビル。彼だけでは無く、友人たちや不良少年たちにイジメの標的にされている子どもたちも“それ”に遭遇していた。彼らはビルの弟の行方と事件を止めるために立ち向かうのだが。




タイトルの「IT」、この単語に込められた意外な意味とは?


本作のタイトルの「IT(それ)」。実にシンプルなこの単語だが、そこには様々な意味が込められている。

既にメディアでの評論や解説でも語られている様に、「IT」が持つもう一つの大きな意味は、鬼ごっこの「オニ」。つまり、「それ」に捕まったら終わり!という、子供時代の遊びに引っ掛けた秀逸なタイトルであり、今回の邦題もその辺の意味合いを上手く含んで付けられている。

更には、1950年代のSF映画やモンスターが登場する映画のタイトルには、モンスターや宇宙人を指した抽象的で単純な単語、例えば「It」や「Them」「Thing」など、観客の想像力を刺激しつつモンスターの正体を隠す手法が使われており、本作のタイトル『IT』も悪役ペニーワイズの得体の知れない不気味さを上手く表現したタイトルだと言える。



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余談だが、1964年の東宝怪獣映画『モスラ対ゴジラ』のアメリカ公開時のタイトルも、『Godzilla vs. the Thing』とモスラをシークレット扱いにしたタイトルに変更されており、この辺を考えても原作者キングの少年時代へのオマージュをも含む見事なタイトルだと言えるだろう。

しかし、この「IT」という単語、物語の設定を踏まえて考えると、実はもう一つの重要な意味が隠されていることに気づく。

それは、本作の主人公たち仲間の中の紅一点である、ベバリーの設定だ。父親から性的虐待を受けていて、学校の中でも「遊んでる女の子」「人の男に色目を使う女の子」と思われている彼女。いったい何で、唯一の女性キャラをこんな重い設定にする必要があったのか?そう、実はこの部分にこそ、「It」という単語に込められた重要な意味へのヒントが隠されているのだ。

今から90年前、1920年代の映画界で活躍した「クララ・ボウ」という女優がいた。彼女は当時としては珍しい、性的魅力を全面に出した役柄を演じて人気となり、その主演作のタイトル「IT」をもじって、クララ・ボウ自身が「イット・ガール」と呼ばれる様になり、そこから転じて彼女の映画の役柄の様に性的に自由で奔放な女性のことを、「イット・ガール」と呼ぶ様になった。

そう、実はこの頃から「IT」という単語自体にも、性的魅力やSEXの暗喩の意味が加わる様になる。

つまり、本作のタイトルの「IT」には、ビバリーが持つ性的な魅力の意味合いも強く含まれており、実際本作でのベバリーの設定や家庭の描き方も、クララ・ボウの実際の生い立ちや過去を連想させる物となっているのだ。

突然男の子だけのチームに現れたベバリーという女の子。皆の前でも平気で下着姿になる彼女の魅力に、ドギマギする思春期特有の気持ちをも表現したのが、本作の「IT」というタイトルということになる。

ちなみにクララ・ボウの出世作である映画「IT(あれ)」の冒頭部分では、「IT」という単語の説明は次の様になっている。

「心の底から染み出る美しさと性的な魅力」、或いは「男は女に対して、そして女は男に対して持っている磁石のようなもの」。

いかがだろうか、「IT」という抽象的で単純なタイトルに秘められた、これら数々の意味。是非ご鑑賞後に、ご自分でもお考えになって頂ければと思う。



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最後に


過去に映像化された際には前編後編で制作され、主人公たちの子供時代と大人になって最終決戦に臨むまでが描かれた本作。

実は今回公開されるのは、子供時代のみを描いた「第一部」。そのため、悪役であるペニーワイズの本当の正体が分からないままで、ラストを迎えてしまうのが非常に残念!サブカル系の細かなネタや、登場人物に関する脇道のエピソードの積み重ねがキング作品の持ち味だけに、どうしても上映時間が長くなることを考えれば、これも仕方の無いことなのかも知れない。

当然本作の上映時間も長めだが、それでも余りに多い登場人物を描くのに手一杯であり、説明不足過ぎる登場人物が多いのも事実。

おそらくは続編で重要な役割を持つ人なんだろうな、と思わせるだけで、あまり活躍しない登場人物も目立つだけに、一日も早い続編の公開が待たれるところだ。

二度と取り戻せない、貴重な思春期の夏の冒険物語としてまとめた、今回の「第一部」。

続編では、成長した子供たちが再び蘇ったペニーワイズと戦い、自身の幼少時のトラウマと向き合い克服するという展開をみせるはず。

ヒット作の続編を二部・三部と連続公開する手法もあるが、それも一作目の大ヒットの実績があればこそ。果たして彼らがこの体験を経てどう成長したのか?それが明らかになる第二部への予習としても、まずは本作を是非劇場で!

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(文:滝口アキラ)

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