『ザ・サークル』両親の夜の営みがネットに拡散、これは最高に気まずい!
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ツイッターやFacebookを始め、我々の生活にもはや無くてはならない物、それがSNS。そんなネット社会への警鐘と危険性を扱った話題作が、この『ザ・サークル』だ。
「インスタ映え」が今年の流行語大賞候補に選ばれる現在、果たしてSNSの問題点や恐怖がどう描かれるのか?非常に興味の引かれる本作を、今回は公開二日目夜の回で鑑賞してきた。
予告編の印象からは、SNSが持つ恐怖を描いた社会派サスペンス、と言った本作だが、果たしてその出来はどうだったのか?
ストーリー
憧れの超巨大SNS企業〈サークル〉社に採用されたメイ(エマ・ワトソン)は、ある事件をきっかけに創始者でカリスマ経営者のベイリー(トム・ハンクス)の目に留まり、新サービス〈シーチェンジ〉の実験モデルに大抜擢される。至るところに設置された超小型カメラで自らの24時間を全て公開したメイは、一瞬にして一千万人を超えるフォロワーを獲得、一躍ネットの有名人となる。ベイリーの理想「全人類の透明化」を実現するため、更なる新サービス〈ソウルサーチ〉の公開実験に臨むメイ。だがそこには思わぬ悲劇が待ち受けていた。あまりにも膨大な善意の渦に隠された<サークル>の重大な欠陥に気付き始めるメイだったが・・・。
予告編
皆さんが想像するのは、恐らくこんな内容では?
どうしても予告編の印象からは、SNS上でスターに祭り上げられた女性が次第に危険な状況になり、隠された巨大な陰謀に立ち向かう!といった内容を期待させる本作。
[ヒロインのメイが就職した憧れの企業「サークル」。会社に言われるまま、自分の私生活を24時間ネットで公開し続ける彼女。そのお陰でネットの人気者となるが、人間関係が崩壊!隠された会社の恐るべき陰謀に気付いた彼女は、やがて社内の協力者と一緒にこの陰謀を探っていく。]
多分皆さんが想像するのは、以上の様な内容ではないだろうか。そう、確かに映画の30%位はこんな展開です。
しかし、ちょっと待った!
実はこの映画、先日公開された『シンクロナイズドモンスター』と同様に、事前の観客の予想とはかなり違った展開を見せる作品であり、話はそう単純には進まない。そう、「巨大な陰謀を暴くサスペンス」には発展して行かないのだ。
実際は、SNSと言う得体の知れない巨大な化け物に飲み込まれて行く不気味さと、その流れには逆らえない人々の姿が描かれる本作。その予想外の展開のためか、鑑賞後の観客のネットでのレビューや感想も、低評価の物が多くなっている様だ。
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成る程、確かに魅力的な実力派俳優を脇役に迎えながら、キャラクターの描き込みが足らないお蔭で、「え、この人はこれだけで退場しちゃうの?」と思ってしまうし、正直ラストの決着の付け方も、これで事態が解決したとは到底思えず、更にそのエンディングには、思わず「えっ、そうなの?」と感じたのも事実。
では、この作品が評判通りの出来なのか?というと、いやいや、実はこれがかなり面白く、しかも観客によって様々な受け取り方が出来る、非常に深みのある作品に仕上がっているのだ。
そもそも、本作には明確な「悪役」という物が存在しない。しかも後述する様にSNSやネットでさえも、それが絶対悪だとは描かれてはいないのだ。一応今回の悪役?とされるのは、サークル社の創始者であるベイリーと側近の重役の二人。
ただ、具体的に彼らが直接悪事を働いているという描写が無い上に、ベイリーが何故「サークル社」を起業したか、その動機が語られるシーンを見て、観客は非常に判断に困ることになる。
せめて彼らの動機が、アメリカの政治を陰で操ろうとしているとか、情報を売って金儲けを企んでいるとか、007の悪役の様に判り易く単純な物であれば、観客の気持ちもスッキリしたに違い無いのだが、本編中では彼らが本当に悪者なのかさえ、はっきりとは描かれていないのだ。
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更に、個人的に非常に気になったのが、本来なら映画の中盤で起こる「ある事故」をきっかけに、サスペンスと恐怖が加速するはずなのだが、予想外にこの部分があっさり片づけられてしまっている点。結果的に「ネット民」の暴走により悲劇的な結末を迎えたとはいえ、その前には逃亡中の犯罪者を僅か10分で見つける!という、社会にとっての利益もちゃんと描いているこのシーン。
だがこの「ある事故」の後、実はサークル社のトップの2人が実際にメイを見舞うこともなく、単にメール1通送っただけで事態を済ませようとしていることの違和感と狂気に気づいた時、本作が描こうとしている部分が見えてくるはずだ。
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ここで興味深いのは、実際会議の席でもノリノリで発言し、サークル社のSNS戦略を更に発展させて事態を悪化させるのが、紛れもなくヒロインのメイだという点!将来的に監視社会へ繋がる危険性も描いているが、実は本作を通して問題にされているのは、ネットやシステムなどでは無く、あくまでもそれを使う人間の未熟さ・愚かさの方なのだ。
それ故、過去作の様に「やはりSNSよりも、人間同士の対話が一番!」と単純には行かない、あのラストシーンに繋がることになる。
果たして、行き過ぎたSNS社会の果てに待つ結末とは一体何なのか?それは是非劇場で!
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最後に
実は、人気海外ドラマの「パーソン・オブ・インタレスト」や、「ミスター・ロボット」に、テイストが近い本作。予告編からは、良くあるサスペンス物に思えるため、どうしても観客の評価が厳しい物になってしまうのは仕方が無いところ。
だが、本作の新しさと独自性は、過去の類似作品の様にネットやSNSを排除すべき敵や悪として描くのではなく、そのメリットと必要性をちゃんと描いた点にある。
そう、実は本作では、ネット社会やテクノロジーの進歩=非人間的・絶対悪とは描いていないのだ。
そもそも、メイが海の事故で助かったのも、「シーチェンジ」と呼ばれる監視カメラが設置されていたお陰だし、友人の炎上や例の事故も、実際はネットに先導されて祭りに参加し我を忘れた「ネット民」が原因として描かれている。
映画の冒頭で連続して描かれる二つのシーン。実はここにこそ、本作の持つ深い内容が象徴されていると言っていい。
一つはヒロインがカヤックに乗って海の上に一人きりでいる時、スマホに電話が掛かってくるという描写。もう一つは、やはりヒロインが車で移動中に故障してしまい、スマホで友人に助けを呼ぶ描写だ。
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一方では、どこにいようとその支配から逃れられない、ネット社会の負の面を。続くもう一方では、どこにいても必要な時に連絡が取れる、ネット社会の利点を描くこの冒頭を見れば、本作が「ネットは絶対悪!」的な物語には成り得ないことは一目瞭然。
更に、冒頭のカヤックのシーンに見事に繋がるのが今回のラストシーンなのだが、特に誤解を招きがちなのはそのラストの解釈だろう。
これも観客によって意見が分かれるところだが、メイの勇気ある行動によりサークル社は崩壊、ついに世界中が繋がり、争いや炎上などの無い完全な理想的ネット社会が実現したハッピーエンドと取るか、あるいは今度はメイがサークル社の責任者に祭り上げられ、「ソウルサーチ」による監視社会の中で人々が生きる様になってしまった、と取るか?それによって大幅に印象が違ってしまうからだ。
実際、メイがサークル社へ逆襲に転じるのも、実は周囲の人たちからの伝聞・情報をそのまま信じて行動したためであり、本当は何を目的に何が行われていたのかは、結局明らかにされないままなのだ。
不確かな情報や眼の前に提示された情報を鵜呑みにして、集団心理で常軌を逸した行動に出る人々の姿。実はここにこそ、本作が伝えようとするSNS社会への皮肉や警鐘が隠されている。
その観客に判断を委ねるラストや、物事の白黒や善悪を自分で読み取る努力が必要な内容のため、サスペンス映画やエンタメ作品を期待して行くと、どうしても低評価に成りかねない本作。
これから鑑賞される方は是非その本質に触れて、ご自分で判断を下して頂ければと思う。
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(文:滝口アキラ)
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