映画コラム

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2017年11月29日

坂本龍一『CODA』、イエモン『オトトキ』は至極の音楽ドキュメンタリーだ!

坂本龍一『CODA』、イエモン『オトトキ』は至極の音楽ドキュメンタリーだ!

Ryuichi Sakamoto: CODA 仮メイン サブ1


(C)2017 SKMTDOC, LLC



ドキュメンタリー映画のなかでも、アーティストや音楽家の日々を追う音楽ドキュメンタリー。

ドキュメンタリーである以上、その内容に興味のある方にこそ響く作品かといえば、そうでもありません。アーティストの事が好きな方はもちろん、そうでない方も、あるいはアーティスト自身を知らない方も楽しめる作品が多いです。普段想いをはせることのない”裏側”を堪能できる贅沢な時間でもあります。

今回は、現在上映中の坂本龍一さんを追った『Ryuichi Sakamoto: CODA』、THE YELLOW MONKEYの2016年再集結から現在までを追った『オトトキ』をご紹介します。

『Ryuichi Sakamoto: CODA』上映中


2012年から約5年半の密着取材を行った様子がまとめられたドキュメンタリーです。

Ryuichi Sakamoto: CODA メイン


(C)2017 SKMTDOC, LLC




坂本龍一さんといえば、大島渚監督『戦場のメリークリスマス』で映画音楽を担当したことにはじまり、『ラストエンペラー』や、最近では『母と暮せば』、『レヴェナント:蘇りし者』、『怒り』などで音楽を担当してきました。

『戦場のメリークリスマス』は多くの人が一度は耳にしたことのある楽曲でしょう。しかし、坂本龍一という人物について知っている人は少ないかもしれません。

劇中では、2012年に宮城県名取市を訪れ被災したピアノと出会いピアノに触れる様子や、自ら防護服を着用して帰還困難地域に足を踏み入れる場面もありました。さらに首相官邸前で行われた原発再稼働反対デモでスピーチを行い、社会的な一面も覗かせます。

Ryuichi Sakamoto: CODA サブ2


(C)2017 SKMTDOC, LLC




さらに2014年7月に公表した中咽頭ガンの闘病生活も一部映像として記録されています。フルーツ中心の食事風景や、数え切れないほどの薬を一粒ずつ飲み込む様子は、淡々としていながらも、それが非日常であるとはっきり伝わってきました。

ドキュメンタリーとはいえ、世界的な音楽家といわれる坂本龍一さん。音楽制作の現場が見たいと思って鑑賞を決める方もいらっしゃるでしょう。今年3月にリリースしたオリジナルアルバム『async』の制作現場に密着した場面があります。

筆者も、今作の映画ポスターを事前に見て「バケツを被ったこれは…誰?」と思いながら鑑賞しましたが、紛れも無く坂本さんでした。このポスターも、”音をつくる”ひとつの過程です。森林に足を運び、自ら音を立てて録音をする様子や、家で雨の音を記録する様子は「意外」という一言がぴったりでした。録音には大掛かりな機材を使用していたわけではなく、マイクを付けた状態のiPhoneだったのも驚いたことのひとつです。

音があるときも、ないときも、いつも一定のリズムが刻まれているような、それが坂本さんの人生そのもののような感じがして、映画を鑑賞しているということを忘れて不思議な感覚に浸ることができます。

劇中、何度か「いい音でしょ」と言いながらにんまりした笑顔を見せる坂本さんが忘れがたく、音が全身に染み渡った感覚が今にもよみがえりそうで、それだけ「音」は身近にあるものだと気づかされました。

『オトトキ』上映中


THE YELLOW MONKEYの1年間を追った、ドキュメンタリーです。

オトトキ


(C)2017映画「オトトキ」製作委員会



2001年に活動を休止し2004年に解散したロックバンドで、2016年に再集結、36万人を動員したツアーによって復活を遂げました。

松永大司監督のインタビューでも「ファンでない人、このバンドを知らない人が見ても、何かが伝わるものにしたい」という想いを話されていましたが、本当にその通りでした。
筆者も”イエモン”という名前は知っていましたし何曲か聴いたこともありましたが、正直ほとんど知識がないなかでの鑑賞でした。

この作品を観ることで”イエモン”を知ることができるようになっていて、丁寧な説明もあり、わかりやすい構成だったのが作品に親しみやすかった大きな理由ではないかと思います。

映画で描かれたのは「人」と「音楽」。そのなかでも大半は「人」に特化し、作品の中盤あたりに流れた楽曲「球根」とクライマックスの部分で、ライブに足を運んでいるような、音楽に浸る時間がありました。

死ぬほど練習をしているとか、打ち合わせで揉めているとか、誰かがピリピリしているというような場面は一切なく(もちろん、そういった雰囲気のバンドではないというのが大きいですが)、メンバーが寄り添いあい、スタッフと共に支え合っているひとつのチーム感が、常に漂っていました。

かといって、良い面ばかりが切り取られていたわけではありません。吉井さんの体調不良や喉の不調、メンバーの父親の死、インタビューを通して語られた空白の15年間など再集結直後だからこその様子も映し出されていました。

さらには、ライブ後にマッサージを受ける様子や、それぞれに久しぶりのメイクに挑戦する、完全な裏側までいろんな顔を見ることができましたし、「よくわからないけれど、喉に良いらしい」と熱湯に浸したタオルの湯気を吸ったり、はじめて2日だというトランペットを吹いたりする吉井さんの一面が見られたのも貴重だったのではないでしょうか。

これを観てイエモンを好きにならない人はいないだろうと確信した鑑賞後の多幸感は、他では味わうことができない気がします。

まとめ


どちらの作品も、身体に音や音楽が染み渡る感覚を味わうことができる、上質な空間が漂う音楽ドキュメンタリーでした。鑑賞するときっと、音に浸され、満ち足りる時間になるでしょう。

音楽ドキュメンタリーと言っても、切り取り方や描き方は様々ですが、坂本龍一さんやTHE YELLOW MONKEYが好きな人も、そうでない人もぜひ観て欲しいドキュメンタリーになっています。

『Ryuichi Sakamoto: CODA』、『オトトキ』ともに現在、劇場公開中です。

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