『ピンカートンに会いにいく』元アイドル、今オバサンたちの痛く笑える快作人間讃歌



(C)松竹ブロードキャスティング



若かった頃に夢中になっていたアイドルが時を経てTVなどに登場したりするのを目の当たりにしますと、懐かしさであったり、お互いトシとったなあなどと感慨深くなったり、まあ、いろいろな気持ちが心の中を錯綜してしまうものではあります。

しかしながら、ファンの立場からではなく、元アイドルの立場からすると、彼女らの本音って一体どういうものなのだろうか……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.282》

『ピンカートンに会いにいく』は、伝説(?)のアイドル・ユニットが20年のときを経て再結成するさまを、見事なまでにイタくも笑える哀愁に満ちたヒューマン群像劇として屹立させた快作です!

2018年の日本映画は、まずはこれを見なければ!

伝説のアイドルが20年のときを経て再結成……できるのか!?


映画『ピンカートンに会いにいく』の“ピンカートン”とは、かつてブレイク寸前で突如解散してしまった5人組のアイドル・ユニットの名前です。

それから20年のときが過ぎ、リーダーの優子は今も売れない女優を続けています。そんなある日、彼女のもとに松本という若いレコード会社の男が訪れ、“ピンカートン”再結成の話を持ち掛けてきました。

今や人生の崖っぷちにある優子は再起をかけてこの話に乗り、元メンバーの3人に会いに行くのですが、既に引退して結婚し、子どもまでいる彼女らの反応は冷ややか。
しかも、一番人気だった葵の行方がわかりません。

果たして、優子らは“ピンカートン”を再結成させることができるのか?

そして、20年前、一体なぜ“ピンカートン”は解散してしまったのか?

やがてすべてが明らかになっていくのです……!



(C)松竹ブロードキャスティング



理想と現実のギャップが醸し出すシニカルな人生の悲哀と笑い、温かさ


これは見る世代によってかなり印象が異なる作品ではあるでしょう。

それこそある程度年齢を重ねた世代は、かつてのアイドル(しかも当時、特に売れていたわけではない)の今をリアルに覗き見る興味やら、どこか切ない想いに囚われていくこと必至。

若い世代は、今自分たちが夢中になっているアイドルの20年後を(そして自分らの20年後も)想像しながら見てみると楽しいかと思われます。

いずれにしましても、人生20年も経ちますと、理想と現実の違いが如実に表れてくるものです。

「こんなはずじゃなかった……⁉」

「いや、でも私はまだまだこんなもんじゃない!」

こういった想いが次々と交錯してはカッカとなり、ときにため息をついて落ち込んで、しかしながらそれを他人に見破られないよう気丈にふるまったり……。
本作の主人公となる優子は、まさにそんな女性です。

正直に申して、今の彼女にアイドル時代の面影はまったくありません。はっきり言いますと、ただのオバハンと化しています。そのオバハン度は、かつて“ピンカートン”のファンだった人の夢を壊しかねないほどのものがあります。

そんな優子のイタさやら、悲哀やら、まだ人生あきらめていないたくましさやらを、内田慈が見事に演じています。
(一応アイドル時代の彼女は、若手女優の小川あんちゃんが演じています。この子は可愛いです)

ほかのメンバーも、もう主婦感たっぷりで、特に子どもらの養育に頭を抱えているさまなど、同世代にはたまらないものがあることでしょう。

ただ、唯一、葵を演じる松本若菜だけは、どこかしらアイドル時代の華やかな名残を感じさせます。
(『仮面ライダー電王』の主演・佐藤健のお姉さん役のころから、子どもたちのマドンナ的存在でしたものね)

やがて彼女に引き寄せられていくかのように他の4人も、過去のわだかまりを捨てながら往年の輝き(?)を取り戻していくあたり、実に気持ちのいいものがあります。
(本当に取り戻せているかはまた別問題として⁉)

そしてクライマックス、ついに“ピンカートン”再結成ライヴは実現する……のか?



(C)松竹ブロードキャスティング



崖っぷちに追いやられた人間の悪戦苦闘を慈愛豊かに描出


抱腹絶倒というよりも、クスックスッといった笑いを積み重ねていきながら、優子や葵ら5人のことがどんどん好きになっていく『ピンカートンに会いにいく』。

監督は数々の自主映画で注目を集め、本作が商業映画3作目となる坂下雄一郎。商業映画デビュー作『東京ウィンドオーケストラ』(17)では誤ってアマチュア楽団を島に招いてしまった役場職員らが織りなす騒動を、第2作『エキストランド』(17)では悪徳映画プロデューサーと地方フィルムコミッションの丁々発止の駆け引きを、それぞれユニークに描いた若き才人です。

彼の作品は、ふとしたことで思わぬ失敗をしでかしたり、崖っぷちに追いやられた人々の悪戦苦闘の日々を、微笑ましくもシニカルに、しかしどこか温かく見据えたキャメラ・アイの心地よさが最大の特徴でしょう。

もちろん『ピンカートンに会いにいく』もそのラインにあり、総じてキャラクター個々に対する慈愛の念が画面から気持ちよく伝わってくるのです。

また本作を製作した松竹ブロードキャスティングですが、これまで『滝を見に行く』『恋人たち』『東京ウィンドオーケストラ』『心に吹く風』と、既成のメジャーでは扱いづらい小品的ながらも良心的な企画を積極的に救い上げ、現在の日本映画界に一石を投じ続けている頼もしい存在でもあります。
(『恋人たち』はキネマ旬報ベスト1をはじめ、その年の映画賞を独占しました)

『ピンカートンに会いにいく』も、見る人を笑わせ、ほっこりさせながら、いつのまにか“映画”そのものを好きにさせてくれる作品です。

2018年の日本映画を語る上で絶対に外せない快作が、1月にして早くも登場! 
見逃し厳禁の面白さです!

(文:増當竜也)

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