「THIS IS ME=これが私」という自己肯定と、仲間という家族とサーカスという自分の居場所を見つけたレティの魂のシャウトは、セトル本人の感情も交じり合いながら神懸かったパワーから導き出されたもの。ゴールデン・グローブ賞主題歌賞を獲得するといった評価も頷ける名曲中の名曲ではないだろうか。製作のゴーサインが出ていないワークショップの段階で、セトルが自分の殻を破りながら熱唱するようすも公開されているので、そちらも合わせて観るとセトルや制作チームがどれだけ「THIS IS ME」にその思いを託してきたのかが一層理解できるはず。つまりこの場面こそ現代に向けた作品の「メッセージ性」が際立つところで、バーナムがショービジネスに先見の目を向けていたように、「今の自分の、さらにその先にあるもの」へと踏み出す背中を押してくれるような力強さが、本作から、そして同曲から漲ってきているのではないだろうか。
(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
揺れる思い
そして本作の中で最もポップス性を意識して作られた楽曲が、エフロンとゼンデイヤが歌う「REWRITE THE STARS」ではないだろうか。
若き男女を投影したかのような先鋭的なサウンドに乗せたフィリップとアンのテーマソングは、2人の華麗なロープパフォーマンスもあって一際美しさが目立つ。だからこそアンが立ち止まってしまう姿が、「差別」という拭い去れない理不尽さを改めて観客の胸に問いかけることになる。「THIS IS ME」と同じ“決意の歌”でありながら、立ち上がった者と立ち止まってしまった者の、対になった関係性をこの2曲は示す形になった。
純粋に「幸せであること」を望み続けたチャリティにとって、夫が徐々に遠い存在になってしまう寂しさを表現した同曲は「NEVER ENOUGH」や「THIS IS ME」、「REWRITE THE STARS」とはまた別の趣がある。それはチャリティの、夫を愛しながら不安でたまらない心の叫びがあえて明朗なメロディとテンポで紡がれていく。
ウィリアムズが落ち着いた雰囲気を出せば出すほど、その歌声はチャリティの苦悩を内包した響きを丁寧に表現。手にいっぱいの幸せを手にしながらも、指の隙間からこぼれる砂のようにその幸せが抜け落ちていく焦りがしっかりと歌詞にも現れている。同曲は序盤の「A MILLION DREAMS」と対にして捉えると、尚のことバーナムの人間性と彼を支えるチャリティの胸の内が垣間見えるかもしれない。