映画コラム

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2018年03月23日

『シェイプ・オブ・ウォーター』のルーツ、『大アマゾンの半魚人』を大いに語る!

『シェイプ・オブ・ウォーター』のルーツ、『大アマゾンの半魚人』を大いに語る!



(C)2017 Twentieth Century Fox



先日発表された第90回アカデミー賞。今回、見事最優秀作品賞に輝いたのは、半魚人と人間の女性との恋愛を描いた映画『シェイプ・オブ・ウォーター』だった。現在日本でも絶賛公開中の本作だが、今回はその大ヒットを記念して、本作の元になった1954年のモノクロ映画、『大アマゾンの半魚人』を取り上げてみたいと思う。当時から既に単なるモンスター映画では無い、との評価を受けていた本作。かと言ってモンスターと美女の恋愛物語だけでもない、その隠された真のテーマとは?

ストーリー


アマゾン奥地の地中から発見された、謎の生物の片腕。その調査と生物の捕獲のため、アマゾンの秘境に向かった3人の男女。しかし、突然水中から現れた謎の生物「半魚人」に探検隊の男性一人が殺され、その婚約者の女性がさらわれてしまう。救出に向かった探検隊と「半魚人」の対決の結果は果たして?


予告編


なぜ年代を超えて、この映画が評価されるのか?


実はこの『大アマゾンの半魚人』、『シェイプ・オブ・ウォーター』の元となっているだけに、人間に危害を加えて暴れ回るモンスターを倒してハッピーエンド、という単純な内容には、なっていない。

当時3D映画として製作され、表面上はモンスター映画として宣伝・公開された本作だが、そこに込められた痛烈な文明批判や環境破壊への警鐘、そして半魚人が憧れるヒロインの意外な一面を描写したシーンなど、半魚人の立場から見れば、もはや彼の方が被害者では?とも取れる内容になっているのだ。

まるで『オペラ座の怪人』をも思わせるその悲劇的内容とは、いったいどんな物だったのだろうか?

本作の深いテーマと半魚人のキャラクターに注目!


太古からの生き残りである未確認生物がアマゾンの奥地に生息する、との情報と証拠を得た探検隊。彼らが遂にその生物である半魚人と遭遇し、隊員の女性を狙って現れる半魚人と戦い、多くの犠牲を出しながらも遂に半魚人を倒す。

こうして本作のストーリーを要約すると、非常にストレートなモンスター映画の様に思えるのだが・・・。

本作の映像ソフト収録の音声解説にもある通り、実は初期の段階では半魚人のキャラクターが、もっと人間に近い感情を持つ存在として描かれており、本来はより『シェイプ・オブ・ウォーター』の世界観に近い内容だったことが分かる。

アマゾンの奥地に生息する太古の生物である半魚人。彼の孤独な生活と、生まれて初めて遭遇した白人の美女に心奪われる心情が、そのマスクやスーツを通しても観客に伝わってくるのは、今見ても実に見事!

現在のCGとは違い、本作で使用されたのは頭からスッポリ被るゴム製のマスク。見開いたままの両目や常に開いたままの口元など、現在の目から見ればあまりに安っぽく見えるかも知れないその外見だが、逆にそれだからこそ、まるで日本の能面の様に照明や顔の角度によって本作の半魚人は様々な表情を見せてくれる。その結果、彼の内面に秘めた感情や悲しみが観客に伝わってくるという、まさに奇跡の様な効果を生んでいるのだ。

実は1954年という製作時期にも関わらず、かなり挑戦的な表現や内容が描かれている本作。中でも映画で披露するヒロインの水着姿は、今見てもかなりの露出度!半魚人で無くとも、これでは確かに彼女の虜になるのも無理はない。

ところが、外見の美しさ通りではないヒロインの意外な内面が、彼女がアマゾンの川に無意識にタバコの吸い殻を投げ捨てる行為で表現されていたり、そこから吸い殻が沈む様子を川の中から半魚人がじっと見ている!という描写に繋がるなど、決して人間側が正義だと描いていない内容は、今見ても十分驚かされる。

更には、半魚人捕獲のために川に毒薬を流す探検隊の行動や、強力な水中銃の威力の前にやられる一方の半魚人の描写など、次第に観客の心の中にも人間側の身勝手さへの反感や、半魚人への共感が生まれていく演出も実に上手いのだ。

実際、本作でも半魚人が人々を襲う理由が、人間達の敵意や攻撃に対しての反応や防衛のためだったり、前述した様な人間側の自然破壊に対する意識の低さや傍若無人なふるまいも描かれているため、観客が半魚人の方に自然と同情・感情移入してしまう!ということになる。

こうした細かい描写の積み重ねにより、モンスター映画目当てで劇場に足を運んだ観客の心にも、何かしらの問題意識や疑問を投げかけた本作だからこそ、こうして未だに人々に支持され続けているのだろう。

最後に


実は映画の終盤、観客の記憶に強く残る名シーンがある。

探検隊の船に姿を現した半魚人が、甲板にいるヒロインにゆっくりと近付いて行くシーンがそれだ。

半魚人の方はヒロインをまっすぐ凝視したまま、ゆっくりと彼女に近付いて行く。やがて彼の顔がアップになるほど近付くのだが、ヒロインの方は全く半魚人には気づかず、彼の顔すら見ないのだ。そして手が触れる距離まで近付いた時、半魚人に初めて気付いたヒロインは悲鳴をあげるのだが、そのまま半魚人に抱き抱えられて二人とも海中に飛び込んで姿を消す。実際このシーン、「えっ、そんなに近くまで近付いても気付かないの?」と思えるほど不自然で、どうかすると笑ってしまうくらいなのだが、実はこのシーンにこそ後の『シェイプ・オブ・ウオーター』製作に繋がる重要な要素が込められている。

人間の美女をまっすぐに見つめる半魚人の視線と、全くそれに気付かないままのヒロインを交互に延々映すこのシーン。実はこの両者の対比には、半魚人の絶対に報われない憧れと悲しい恋の結末、更にヒロインの残酷さまでが見事に表現されているのだ。こうした「報われない悲恋」への想いが、後の「シェイプ・オブ・ウォーター」製作への原動力となっているのは間違いない。

こうした「美女と野獣」的要素からも、本作が『キングコング』からの影響を強く受けていることが分かるが、確かに今観てもこの『大アマゾンの半魚人』は、単なるモンスター映画のジャンルには収まらない深いテーマと魅力に満ちている。

豊かな暮らしの代償に自然破壊へと突き進む、当時の社会への警鐘を含んだ本作のテーマは、現代の観客にも十分通じる物。時代を超えて観客に支持され、その評価を高めていく本作の様な作品こそ、文字通りの「名作映画」と呼ぶべきだろう。

『シェイプ・オブ・ウオーター』鑑賞後の補足作品として、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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