遺品整理業の若者たちの心の傷、『アントキノイノチ』が伝えるメッセージとは?
(C)2011「アントキノイノチ」製作委員会
いよいよゴールデンウィーク到来! みなさまいろいろご予定もおありかと思われますが、「せっかくの連休だし、家でゴロゴロのんびり過ごしたい!」なんて方には、この機会にぜひじっくり映画でもいかがでしょう?
そこで今回紹介したいのは『アントキノイノチ』です。
一見コミカルなタイトルの響きではありますが、中身はかなり人生の哀しみや切なさを見据えた人間ドラマです。
遺品整理業に従事する
若者たちの心の傷
『アントキノイノチ』は、カリスマ的人気で知られるシンガー・ソング・ライター、さだまさしが2009年に発表した同名小説を2011年に映画化したものです。
主人公の杏平(岡田将生)は高校時代の同級生との人間関係に傷つき、そのトラウマから心が壊れた結果、躁うつ病に苦しんできましたが、長年の治療のかいあってようやく平穏を取り戻し、父が紹介する仕事に従事することになりました。
そこは“クーパーズ”という遺品整理業を営む会社でした。
つまりは孤独死などで亡くなった人たちの遺品を整理・回収する仕事です。
社長の古田(鶴見辰吾)やリーダーの佐相(原田泰造(ネプチューン))、そして先輩のゆき(榮倉奈々)の指導を仰ぎながら仕事を始める杏平。
しかし、人の生死と密接な関係になるデリケートな仕事と対峙していくうちに、ふと杏平は高校時代のおぞましき過去を思い起こしてしまいます。
一方、ゆきもまた人には言えないつらい過去を心に秘めながら、この仕事を続けてきていましたが……。
現在、孤独死の問題は他人事ではないほど深刻なものとなって久しいものがありますが、本作は実際に遺品整理業を営む“キーパーズ”をモデルにしたものとのことです。
また人の死にまつわる職業ということで、納棺夫を題材にしてアカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと』(08)を思い出す向きもあるのではないでしょうか。
いずれにしましても、哀しくも重く切なく、しかしながら人の命というものと真摯に対峙せざるをえない、またそのことから人の命のありがたみを痛感させられる仕事であり、またその世界に従事する人の息吹を描いた勇気ある作品ともいえるでしょう。
未来を予見したかのような
秀逸なキャスティング
本作には仕事を依頼するさまざまな遺族が登場しますが、それぞれ複雑な事情が絡み合いながら、人の生き死にというもののエゴやら愛憎やらを見せつけられたりもします。
若い主人公のふたりには、そういった人の業に対峙しきれるだけの人生のキャリアがない分傷つきやすく、しかしながら、これまで自分たちが十分傷ついてきている分、他人の心の痛みを理解する術も知っています。
主演の岡田将生と榮倉奈々、二人の繊細なる存在感は特筆すべきほどに素晴らしく、この作品をよりデリケートではかないものへと導いてくれています。
また、キャストに関して言うと、今年は『娼年』や『孤狼の血』などで大活躍の松坂桃季が杏平の悪意ある同級生を、日中合作映画『空海―KUKAI―美しき王妃の謎』で堂々主演を果たした染谷将太が杏平の親友を演じるなど、今の若手男優の未来を予見していたかのようなキャスティングがなされていたことも記しておくべきでしょう。
監督は、近未来SFパニック映画『感染列島』(09)や、未成年による殺人事件とその後の行方を4時間38分の長尺で堂々描いた大作『ヘブンズストーリー』(10)、昭和から平成に至る社会派映画『64―ロクヨン―』前後編(16)やAV女優のサガを題材にした『最低。』(17)、感動実話の映画化『8年越しの花嫁』(17)などどのようなジャンルでも人の生死がもたらす心の彷徨と真摯に向き合いながら作品を連打し、今年はかつて殺人を犯した少年Aと元ジャーナリストの邂逅と確執を描く『友罪』や、夏には女相撲を題材にした宿願の作品『菊とギロチン』が公開される瀬々敬久。
ここでもキャメラアイに一分の狂いなく、人の繊細で傷つきやすい若者たちの心をとらえていきます。
なお、タイトルからアントニオ猪木を思い出す方もきっと多いことでしょうけど、直接の関係はまったくありません。
ただし劇中、なるほどと唸らされるシーンがありますので、そこは実際にご覧になって確かめてみてください。
[2018年4月27日現在、配信中のサービス]
(文:増當竜也)
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