映画コラム

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2018年06月30日

転落人生マダオと謎の女子高生、ふたりの心の交流を描く『名前』

転落人生マダオと謎の女子高生、ふたりの心の交流を描く『名前』



 (C)2018映画「名前」製作委員会



たまたまなのか、いや世の中が深刻になってきている表れなのか、このところやたらマダオ(空知英秋の漫画『銀魂』に登場する「マ」るで「ダ」めな「オ」っさんキャラから採られたもの)が登場する日本映画が増えているような気がしています。

イカ天出身中年オヤジがバンド再結成する『馬の骨』(いや、もうマダオそのものです)。

自堕落元野球選手が競輪選手を目指す『ガチ星』(こちらも『馬の骨』とタメを張るマダオです)。

定年退職後のエリートサラリーマンの悲哀を描く『終わった人』(どんどんマダオになっていきます)。

そして女子高生がバツイチ子持ちファミレス店長に恋してしまう『恋は雨上がりのように』(上記に比べれば、小松菜奈に愛される分、マダオ度は低いほうかな?)などなど。

TVドラマでもおっさん同士のピュアな愛を描いた『おっさんずラブ』が話題を集めていましたね。

やはり今、おっさんは疲れているのか、どんどん立場をなくしてきているのか?

そう思っていた矢先、またもマダオが登場する新作日本映画があります。

今度は転落人生を歩むマダオが主人公なのですが、そのマダオの前に突然、謎の女子高生が現れるのです!
(でも『恋は雨上がりのように』みたいにはなりません!)

なら、いったいどうなる……?

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.316》

すべては映画『名前』を見ればわかります!



 (C)2018映画「名前」製作委員会




名前を変えて生きるマダオと
彼を父と呼ぶ女子高生



『名前』の主人公は、経営していた会社が倒産し、茨城の片田舎に身を寄せ、名前も身元もしょっちゅう偽りながら、自堕落に生きている男・正男(津田寛治)。

もう典型的なマダオですね。

そんなある日、彼のウソが周囲にばれそうになったとき、突如「お父さん!」と呼ぶ見知らぬ女子高生・笑子(駒井蓮)が現れ、難を逃れることができました。

しかし、それ以降、笑子は正男の家に勝手に出入りするようになります。

ふと笑子のケータイを見ると、正男の番号登録名が「お父さん」となっています。

笑子は自分の本当の娘なのか?

葛藤しつつも、正男は彼女に問い詰めることはしません。

彼女と一緒にいると、まるで親子のように心が穏やかになるからです。

しかし、果たしてそんな日々がいつまで続くのか……。



 (C)2018映画「名前」製作委員会




本作は直木賞作家・道尾秀介が書き下ろしたオリジナル原案を元に映画化されたミステリアスなヒューマン・ドラマです。

監督はプロデューサー、映画監督、劇作家、舞台演出など多彩な活動を繰り広げている戸田彬弘。

タイトルの『名前』とは、名を変えて生きる正男を表すだけでなく、なかなか本心を表に出せないまま生きざるを得ない現代社会の中、本当の自分とは何なのかを模索していく作品の本質をシンプルに象徴したものであることが、映画を見終わると即、理解できるようにもなっています。

ベテラン津田寛治と新人・駒井蓮
素晴らしきコンビネーション!



何はともあれ、素晴らしいのは主演のふたりです。

善人から悪人まで巧みに演じ分け、特に本作のような、あまり深くお付き合いしたくはないおっさんを演じさせたら右の出る者はいない津田寛治は、しかしながら名前を変えて己を偽る寂しさや虚しさなどを、ほんのさりげない仕草で見事に体現してくれています。



 (C)2018映画「名前」製作委員会




そして謎の女子高生・笑子を好演する駒井蓮の素朴な存在感は、まさに新人女優という冠にふさわしい初々しさで、おっさん世代なら競って娘にしたくなるほどの衝動(!)に駆られる魅力を放っていますが、その一方で同世代の友人たちとはどこか距離を置いたつきあいしかできない、つまりはなかなか本音を出せないいまどきの10代女子のリアリティも巧まずして発散してくれています。
(また、それが後半、彼女と演劇部先輩との確執エピソードへと上手くつながっていきますが、ここでの先輩役の子も怖い!)



 (C)2018映画「名前」製作委員会




名前を偽る正男と、心を偽る笑子。

本作はこのふたりのコンビネーションの妙で成り立っており、これ以上は語るも記すも野暮。

とにもかくにもふたりの好演がもたらす映画的化学反応を大いに堪能しつつ、人が生きていく上でのさまざまな心の葛藤や、その上での成長、逆にもはや変わることのない生きざまなどなど、何が起きてもおかしくない人生の機微を、マダオと少女から慈愛深く教えてもらえることでしょう。

夏に入り、派手な映画が多くなってはきますが、ちょっとさりげなくいい映画を見たいという方には、迷わずこの作品をお勧めします。

後でソフト化などされたとき、「映画館で見ておいて得した!」などとひそかに誇らしく思わせてくれそうな、そんな作品です。

(文:増當竜也)

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