妖怪ウォッチとクレヨンしんちゃん、大人も楽しめる“面白さ”を探る!

■「映画音楽の世界」

映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン! メイン


(C)LEVEL-5/映画『妖怪ウォッチ』プロジェクト 2016


昨年12月16日に『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』が、翌17日に『映画妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界で大冒険だニャン!』が公開され、期せずして2015年の『スターウォーズ フォースの覚醒』対『映画妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』の構図が再び展開されました。

結果、今回も観客動員数で妖怪ウォッチが上回り、公開週末成績は初登場1位に妖怪ウォッチ、2位がローグ・ワンという形に。この成績を見ると、多くの映画ファンが「外伝とはいえ人気シリーズのハリウッド大作を子ども向けアニメ映画が上回るなんて」、と思われるかもしれません。確かに妖怪ウォッチは一大ブームを巻き起こし、毎回子どもがこぞって劇場に詰めかけると思うと納得もできますが、実は映画妖怪ウォッチシリーズのポテンシャルはそれだけではないのです。

同シリーズは、子どもだけでなく「大人も楽しめるアニメ映画」だということを紹介したいと思います。

映画妖怪ウォッチシリーズの確かな脚本力


映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン! サブ1


(C)LEVEL-5/映画『妖怪ウォッチ』プロジェクト 2016


映画化第三弾である『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン』はオリジナルアニメシリーズ、映画シリーズを通して初めて実写パートが組み込まれたことが公開前から話題となりました。

主人公ケータ、ジバニャンたちが住むさくらニュータウンに突如空飛ぶ巨大なクジラが飛来。クジラが鳴き声を上げるとケータたちを含め街が実写化してしまう、という展開から始まります。時を同じくして、ケータたちの前に現れた「コアラニャン」が、実写からアニメの世界に戻すための鍵に。アニメと実写を行き来する中で、どうやら一人の少女の存在が「空飛ぶクジラ」の謎を握っていると解り……。

映画は目まぐるしく(思いのほか何度も)アニメと実写が交互に描かれます。この展開の早さに子どもたちはついてこれるのか心配にもなりますが、だからといって「大人は楽しめる」、という意味になるのでは決してありません。もちろん子どもが楽しめることしっかりと主眼を置きながら、純粋に「一つの映画」として成立しているのがこのシリーズの持ち味。子どもたちの視点を置き去りにするようなことはないのです。

アニメから実写に裾野を伸ばすだけで、不思議とリアリティが増しますよね。けれど脚本がそれにあぐらをかいていることはなく、実写だからこそ描けるポイントを逃さず果敢に攻める姿勢を見せています。大人になった今だからこそ「わかる」とつい頷きたくなる部分と、子どもたちにも伝わるように「実写だからこそ」「アニメだからこそ」のルールに踏み込んでいく。

その結果、「空飛ぶクジラとは何か」「なぜ実写化するのか」といった動機部分にしっかりと機能していくのだからやはりその綿密な設定には驚かされるばかりです。アニメーションから実写になってしまう動機を、アニメ側の世界にあるのではなく、実写側の少女に持たせることでドラマ部分により現実味を与えていた点も、従来の子ども向けアニメ映画よりも一歩踏み込んだ展開と言えるのではないでしょうか。

物語に必要なピースが出揃うと、後半から終盤にかけてはアニメパート実写パート入り乱れての激戦が展開されます。これも実写だからこその迫力、アニメだからこその構図をしっかりと見せてくれるので映画ファンをきっと唸らせてくれるはず。バトル映画として過去二作と同様のスペクタクルシーンに仕上がっています。

映画妖怪ウォッチの脚本力の高さは、実は本作だけにとどまらずシリーズを通して抜群に高いのがはっきりしています。ここでその過去二作も振り返ってみましょう。

シリーズ第一作『映画妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』。


映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!



こちらはタイムスリップをメインに据えていますが、過去が現在に及ぼす影響、ケータたちが過去で起こした行動による未来改変などタイムパラドックスをしっかりと描き、伏線を回収していくなど綿密に組み立てられた物語となっています。ボスキャラ、ウバウネの設定も妖怪としての意味付け、行動にシリアスなほろ苦さがあります。そして、とにかく徹底的にパロディで遊ぶ! バットマンに半沢直樹、くまモンがいじられたかと思えば、マスター・ニャーダなどスター・ウォーズすらもやり玉に上げながら、正直子どもにまでは伝わらないであろう、その親世代に向けてギャグ路線の方向性を示して見せました。

シリーズ第ニ作『映画妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』


映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!



この二作目では、さっそく『世にも奇妙な物語』を模したストーリーテリングで幕を開けます。タイトル通り5つの独立した短編で構成されていますが、実はそれらが全て最終話で収束するという形を見せます。そしてそれぞれの短編も、人と妖怪の繋がり、絆を描くなど、前作よりもドラマパートに重点を置き、各話それぞれのキャラクターにしっかりと感情移入させるのだから、凄いとしか言いようがありません。内容、構成ともに子どもが楽しめると同時に、大人の心情にもしっかりと訴えかけてくるのです。そういった意味では前作以上に、子どもを連れて来る親、あるいは前作の評判を聞きつけて来た映画ファンに、より向かい合った作品に仕上がったと言えます。親をただの子どもの付き添いとして捉えるのではなく、一人の観客として見据えた制作陣の熱意がほとばしっていました。

映画クレヨンしんちゃんシリーズがもたらした功績


映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミ―ワールド大突撃


(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2016


「子ども向けアニメ映画」だからといって「子どものためだけの映画」ではない、と観客に認識を改めさせた転換点は、やはり2001年に公開された『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』ではないでしょうか。

監督・脚本を務めた原恵一は、映画にノスタルジーを持ち込みました。これが昭和世代の心を掴み、観客層を拡げると同時に高評価を得る結果となりました。以降、映画クレヨンしんちゃんシリーズはおろか他の「子ども向けアニメ映画」のスタンスさえ変えてしまったのです(このノスタルジー色は『映画妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』にも受け継がれています)。

考えてみるまでもなく、「子ども向けアニメ映画」の主要層はもちろん子どもになりますが、その子どもを連れて来るのが親であり、以降大人も楽しむことが出来る作品へとシフトしていったのは至極当然の流れだったと言えます。

『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん』


映画 クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん [DVD]



例えば『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん』では、家庭内の父親の悲哀と復権を描くだけでなく、ロボットつながりで『ターミネーター』や『パシフィック・リム』といった、映画もしくはタイトルを知らなければ気付かないようなロボット映画のタイトルを随所に潜り込ませていました(ご覧になった方、いくつ気付かれましたか?)。ラストバトルでは声優を担当したコロッケの「真剣な遊び心」が炸裂する‟ひろし五木ロボ“が登場。コロッケの繰り出すものまねネタが大好きな筆者は腹がよじれるほど笑ったわけですが、子どもからしたら「きっと笑える場面なんだろうな」とは解りつつも、「でもロボットひろし五木ってなに?」となる場面なのです。

『映画クレヨンしんちゃん 爆睡! ユメミーワールド大突撃』


映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミ―ワールド大突撃


(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2016



また、『映画クレヨンしんちゃん 爆睡! ユメミーワールド大突撃』では脚本に劇団ひとりを起用したのも実に興味深い点。映画では子どもからすればトラウマ的な悪夢シーンの連続、大人からすれば「子どもの頃に見た悪夢あるある」といった展開の連続で、そもそも悪夢の根源として、子ども向け映画ではタブーとも言える「キャラクターの明確な死」を描いています。また、ロボとーちゃんではひろしがメインで活躍したように、ユメミーワールドではみさえが母としての強さを見せ、子を持つ親の涙を誘いました。

まとめ


映画妖怪ウォッチシリーズ。映画クレヨンしんちゃんシリーズ。どちらの作品も子どもに向けた部分と大人に向けた部分がバランス良く成立していて、それを丁寧に一つの作品のトーンとして整えているので、「子ども向け映画なんて」と言わずに、ぜひ目を向けて欲しいと筆者は強く思います。

そしてこの二つのシリーズに限らず、声優を一新して以降の映画ドラえもんシリーズも旧映画シリーズをリメイクしながら大人になった旧世代を取り込み、評価、興行収入ともに伸ばしてきています。どの作品も主に主客層である子どもの冬休み、春休みの公開が多く、それぞれ新作が待機しています。もちろん、『映画妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン』も現在大ヒット公開中。先入観に囚われず、ぜひとも「一つの映画作品」として鑑賞リストに入れてみてはいかがでしょうか。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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(文:葦見川和哉)

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