『検察側の罪人』木村拓哉、二宮和也以上に印象に残るあの怪人物の正体とは?



(C)2018 TOHO/JStorm 


木村拓哉と"嵐"の二宮和也、雫井脩介の同名人気ミステリー小説を、この二人の豪華競演により映像化した話題の映画、『検察側の罪人』。今回はこの話題作を、公開初日の夜の回で鑑賞して来た。主演二人の演技対決や、魅力的な共演陣の顔ぶれ、更に映画の1カットを丸々使った緊張感溢れる予告編など、鑑賞前からその内容への期待と感心は高まるばかり。果たして、その内容と出来はどの様なものだったのか?

ストーリー


都内で発生した殺人事件。犯人は不明。事件を担当する検察官は、東京地検刑事部のエリート検事・最上(木村拓哉)と、刑事部に配属されてきた駆け出しの検事・沖野(二宮和也)。

最上は複数いる被疑者の中から、一人の男に狙いを定め、執拗に追い詰めていく。その男・松倉(酒向芳)は、過去に時効を迎えてしまった未解決殺人事件の重要参考人であった人物だ。最上を師と仰ぐ沖野は、被疑者に自白させるべく取り調べに力を入れるのだが、松倉は犯行を否認し続け、一向に手応えが得られない。

やがて沖野は、最上の捜査方針に疑問を持ち始める。

「最上さんは、松倉を、犯人に仕立て上げようとしているのではないか?」

互いの正義を賭けて対立する二人の検事。彼らの戦いに待ち受けていた決着とはーー。(公式サイトより)

主演の二人はもちろん、共演キャスト陣の演技が素晴らし過ぎる!


やはり本作の最大の見所と魅力は、刑事部きってのエリート検事である最上と、若手検事の沖野を演じる主演の二人、木村拓哉と二宮和也の夢の競演にある。自然体の二宮和也に対して貫禄と存在感で迫る木村拓哉の対決は、正に原作のキャラクターの関係性そのままであり、この二人がスクリーンに映るだけで観客はそこから眼が離せなくなってしまうのはさすが!

もちろん、他の出演キャストも素晴らしい演技を披露してくれるのだが、後述する松倉役の酒向芳の怪演の前には、残念ながら全てが霞んでしまった感が強い本作。

ただ、原作とは異なる設定を見事に演じた吉高由里子や、原作の描写からはイメージ出来なかった、小田嶋弁護士事務所の開放的で自由過ぎるその内装など、映画でなければ表現出来ない部分が楽しめるのも事実。

とにかく、全編見所満載の作品となっているのは間違いないので、ここは迷わず是非劇場へ!


原作小説からの大幅な改変は、果たして成功だったのか?


今回原作となった同名小説は、実に上下二巻に渡る長編ミステリー。到底2時間の上映時間には収まるはずもなく、原作小説をどう省略しアレンジするかが、今回の映画版の成功を左右する重要な部分と言えるのだが・・・。

結論から言おう、もしも原作小説を読んでからの鑑賞を考えているのなら、今すぐ止めて映画版を先に見ることを強くオススメする。

なぜなら、今回の映画版と原作小説は実は全くの別物であり、登場人物の設定やラストの展開まで、かなりの改変が加えられているからだ。

事実、映画版を観て「何これ、意味が判らない!?」と思われた方も多いと思われるが、実は原作小説はもっとストレートなミステリー物であり、映画版で異彩を放っていた"前衛舞踊"や”泣き女”、"戦争責任"に関する要素は全く登場しない。

そう、あくまでも本作に対してネットのレビューや感想でも多く見られる"難解さ"や"違和感"は、全て映画版独自のアレンジによるものなのだ。

実際今回の映画版では、登場人物の関係性や設定にも大幅な改変が加えられており、吉高由里子演じる沙穂の設定に至っては、全くの別人と言っていいほどの改変が加えられている。



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同様に、最上の学生時代の友人であり、収賄事件の参考人として最上の行動にも大きな影響を与える丹野などは、原作では最上と実際に再会することは無いし、もちろん彼の妻も登場する事は無い。最も残念だったのは、原作終盤での重要なキャラクターとなる人権派の大物弁護士、白川遊馬の扱いに関してだ。実は映画の終盤のあるパーティーに登場する、山崎努が演じる和服の男が白川弁護士なのだが、映画版では殆ど何の説明も無く、いきなりこのシーンだけの登場となるため、原作未読で鑑賞される方には「誰、この人?」と成りかねないのが非常に残念!

せっかく上映時間内に収めるために登場人物を整理しているのであれば、ここは最後まで白川弁護士を出さない方が、観客の混乱を招かずに済んだのでは?原作ファンとしては、どうしてもそう思わずにはいられなかった。

同様に、映画独自のキャラクターとして登場する、殺害された老夫婦の息子であるヤクザも登場しないし、そもそも拳銃の密売屋が女性では無いので、ラストのあの展開も小説版では起こり得ないのだ。

ざっと上げただけでも、これだけの改変が行われているだけに、原作ファンの方にはかなりの違和感を与えかねない本作。

こうした大きな違和感を避け、映画版単体として楽しむためにも、原作を未読の方は是非そのままでご鑑賞されることを、強くオススメする。

実は、陰の主役はこの怪人物だった!


既に映画をご覧になった方なら、本作で最も強烈な印象を残すキャラクターである容疑者、松倉の姿が頭から離れないはずだ。



(C)2018 TOHO/JStorm 


予告編でも印象的に1カット登場するこの松倉という男を見て、「何、こいつ?」そう思われた方も多かったのでは?

今回様々な改変・省略が加えられているこの映画版だが、その中でも大成功しているのが、この松倉という強烈なキャラクターを生み出した点だ。実は今回の映画化において、原作小説に登場するキャラクターの中で最も改変を加えられたのが、この松倉だと言ったら驚かれるだろうか?

実際、原作小説に登場する松倉は小柄で良く喋る初老の男であり、映画版に登場する様なコミュニケーション不全のモンスターとしては描かれていないのだ。正に観客にとっては予想もしない衝撃と、ある種の嫌悪感を抱かせる存在であるこの松倉。果たして誰が演じているのだろうか?

本作で松倉を演じている俳優の名前は、酒向芳(さこう よし)。実はNHKの朝ドラの『まれ』『ひよっこ』『半分、青い』と、連続して出演している俳優なので、恐らく一度は目にしている方も多いのではないだろうか。

ちなみに彼が朝ドラで演じた役は、『まれ』で輪島市の市長、『ひよっこ』では出稼ぎの労働者、そして『半分、青い』では農協の職員と、非常に幅広い役柄を演じていることがお分かり頂けると思う。

本作での松倉の強烈なキャラクターは、実は演じる酒向芳本人が一から作り上げたもの。例えば、本作で松倉が披露するタップダンスは、演じる酒向芳の特技を生かした映画独自のアレンジであり、当然ながら原作小説に登場する松倉は、タップダンスなど披露していない。更には、本作で観客に強烈な印象を残す、松倉が口で「パッ!」と大きな音を立てる独特のクセも、演じる酒向芳が考えたもの。もちろん、これも原作には登場しないのだが、映画を見た後では、もはやこのクセ無しに松倉というキャラクターは考えられないほどハマっているのが見事!

正直、演じる役者の名前も顔も一致しないこのキャラクターが、その登場シーンで主役の二人を差し置いて完全にその場を支配してしまうとは、いったい誰が予想できただろうか?

こうした新たな名優の出現を見逃さないためにも、是非劇場へ足を運んで頂ければと思う。


最後に


予告編やポスターのイメージから想像する様なミステリーや法廷劇とは違って、主演二人の演技対決が存分に楽しめる緊張感に溢れた内容の作品に仕上がっていた本作。更には、前述した松倉という強烈なキャラクターを得て、正に全編が見所の作品となっているのは、さすがとしか言い様が無い。

本作で全編に持続する緊張感は、実は原田正人監督の独特の演出によるもの。セリフを間違えてもNGにせず、そのまま演技を続行させるその演出は、実際に二宮和也がセリフを噛んだテイクを本編に使っていることからも確認出来る。それに加えて原田遊人の編集のテンポの良さ!特に沖野と松倉の尋問シーンは、演出と編集の息がバッチリ合った名シーンとなっているので、ここは是非お見逃し無く!

ただその反面、突然スクリーンに登場する"前衛舞踏"や、"泣き女"、特に葬儀場のシーンにおける異様なメイクや役者の芝居のテンションなど、観客によってはかなりのノイズとなる要素が後半多くなっていくのも事実。しかも、それらはすべて原作には登場しないものであり、正直ストーリーを追ったり登場人物に感情移入して鑑賞する上では、若干邪魔になると言わざるを得ない。

特に多くの観客にとって理解しにくかった、戦争に関しての部分は完全に映画独自のアレンジであり、最上の祖父と情報屋の諏訪部の関係も、実は原作小説には登場しないもの。

本作での重要なテーマは”時効廃止法”の是非であり、検事としての一線を越えた最上の行動は、単なる私怨の域を超えて文字通り"時効廃止"という日本の司法制度に向けられた、一種の挑戦と取ることが出来るだろう。

同時に本作での最上の姿は、そのまま"終戦"という一種の時効を迎え、戦争の犠牲者への記憶が薄れていく一方の日本への鋭い問題定義とも取れる。そう考えれば、今回原田正人監督のアレンジがこの様な方向にシフトしたのも、充分納得出来るのではないだろうか。

実は、本作のラストにも賛否両論の意見がネットに上がっているのだが、意図的に結論やカタルシスを排除したその結末の付け方は、文字通り観客に突きつけられた"正義の刃"と取ることが出来る。

自身の地位や家族を捨てても行動に移さねばならなかった最上の想いを、正義と取るか、それとも罪人として裁くのか?その判断を観客に委ねる様な本作の結末は、是非劇場でご確認頂ければと思う。

出演キャスト陣の素晴らしい演技と、全編に緊張感が持続する見事な演出は絶対に観る価値アリなので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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