映画コラム
“兼業”でも大ヒット! ジョン・ファヴローからウー・ジンまで、監督もこなすマルチ俳優5選
“兼業”でも大ヒット! ジョン・ファヴローからウー・ジンまで、監督もこなすマルチ俳優5選
『クワイエット・プレイス』 (C) 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
“音を立てたら、即死。”というコンセプトで全米でスマッシュヒットを記録し、日本でもいよいよ9月28日に公開を迎えるジョン・クラシンスキー監督のサバイバルホラー『クワイエット・プレイス』。そして少し先だが、12月21日にはレディー・ガガを主演に起用したブラッドリー・クーパー監督の『アリー/ スター誕生』が公開となる。
『アリー/ スター誕生』 (C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
この2作品に共通しているのが、どちらも俳優が監督を兼任しているということ。クラシンスキーは主人公エヴリンの夫役(ちなみにエヴリン役のエミリー・ブラントとは実生活でも夫婦)で、クーパーはアリーを見いだす世界的シンガー、ジャクソンを演じている。そういった、“俳優兼監督”というマルチな活躍で成功を収めた俳優といえばクリント・イーストウッドやシルベスター・スタローン、メル・ギブソンといった面々が有名だ。そこで今回は、俳優から監督業までこなす5人の作品を紹介していきたい。
ジョン・ファヴロー
まさに現在のアベンジャーズブームの礎を作った人物といっても過言ではないのが、ジョン・ファヴロー。ロバート・ダウニー・Jr.を主演に起用した『アイアンマン』が予想を上回るヒットを記録し、ファヴローはのちに『アイアンマン2』も監督している。その一方で自身も運転手ハッピー・ホーガン役でMCU作品に顔を出すなど、名バイプレーヤーとしての存在感をいまも光らせている。MCU作品に携わる前には、目立つ役ではないものの俳優として彗星衝突パニックを描いた『ディープ・インパクト』やジャック・ニコルソン主演のラブコメディ『恋愛適齢期』などに出演してきた。
ふっくら体形に愛嬌のある表情をたたえたファヴローの俳優としての魅力と、ストーリーテラーとしての監督の魅力がぎっしり詰まっているのが、主演を務めた『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』だ。ファヴローといえば『アイアンマン』シリーズや『カウボーイ&エイリアン』、実写版『ジャングル・ブック』といった大作系監督のイメージが強いが、本作のような派手なアクションシーンも一切ない小品のコメディドラマも手堅くまとめている。この作品でファヴローが演じているのは、一流の腕を持ちながらオーナーや評論家と対立してしまい有名レストランをクビになってしまったカール・キャスパー。そんな彼がフードトラックで移動販売を始めることになり、友人や家族との関係性をユーモアあふれる会話劇で描きながらロードムービーとしての味わいも醸し出されている。この作品、小腹が空いたときに鑑賞するにはあまりにもリスキーな“キューバサンド”による“飯テロ映画”であり、劇中に流れる楽曲の選曲センスも抜群。さらにダウニー・Jr.やスカーレット・ヨハンソン、ダスティン・ホフマンといった名優の出演も楽しめる、ファヴローらしい賑やかな作品となった。ちなみに、ファヴローの監督最新作として2019年に実写版『ライオン・キング』が公開予定だ。
ケネス・ブラナー
渋みのあふれた表情で魅せる演技で、『ワルキューレ』や『ダンケルク』などの軍人役でも独特な存在感を光らせているケネス・ブラナー。“シェイクスピア俳優”の異名を持ち、『ヘンリー五世』『ハムレット』などのシェイクスピア作品で監督・主演を務めたほか、メアリー・シェリー原作の『フランケンシュタイン』やトム・クランシー原作でクリス・パイン主演の『エージェント:ライアン』などで監督と俳優を兼任するなど、作風に捉われないスタイルで活躍している。その幅広いジャンル性を活かし、MCU作品の『マイティ・ソー』やディズニー実写版の『シンデレラ』でも監督を務めるなど、文芸作品から娯楽作までそつなくこなしてヒットへと導く手腕には驚かされるばかり。
2017年12月には、監督&主演としてアガサ・クリスティーの不朽の名作を再映画化した『オリエント急行殺人事件』が公開。荘厳な美術や衣装で原作が持つ世界観を忠実に再現し、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス、デイジー・リドリー、ウィレム・デフォーら豪華キャスティングを実現して“誰が犯人役であってもおかしくない”状況を観客に提示している。ブラナーが演じたのはもちろん名探偵エルキュール・ポワロで、くりんとカールした髭をチャームポイントに頭脳明晰な名探偵像を確立。さらに謎が謎を呼ぶ展開だけでなく、かの有名な真相が明かされる場面はミステリー映画としての枠を飛び越えたドラマ性が与えられ、“なぜ不可解すぎる事件が起きてしまったのか”についてリアリティーを与えている。ちなみに本作はヒットを受け、その続編としてクリスティーの『ナイルに死す』がブラナーの監督・主演により映画化が決定。次はどんな難事件を華麗に解決してくれるのか、ケネス・“エルキュール・ポワロ”・ブラナーの活躍に改めて期待したい。
ベン・スティラー
『ナイト ミュージアム』シリーズでの主人公や、アニメ映画『マダガスカル』シリーズでは声の主演を務めるなど、俳優として幅広いキャリアを積んでいるベン・スティラー。彼が初めて監督を務め、ウィノナ・ライダー&イーサン・ホークとともにメインキャストとして出演したのが『リアリティ・バイツ』だ。コメディリリーフ的なイメージがあるスティラーのフィルモグラフィーの中でも、同作は若者たちの現代的な生き方をリアルに切り抜いた青春劇として注目を集めることになった。その後もファッション界を舞台にめちゃくちゃな騒動を描く『ズーランダー』シリーズや、コメディ色を混ぜつつひとりの男が成長する様を壮大な映像美で描いた『LIFE!』などで監督と主演を兼任。またそのほかの監督兼出演作には、ジム・キャリーを主演に迎えてぶっ飛んだサイコキャラを作り上げた『ケーブル・ガイ』がある。
スティラーの監督作で最も評価の高かった作品が、2008年のアクションコメディ『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』だろう。スティラーのほかにロバート・ダウニー・Jr.とジャック・ブラックが共演というなんとも豪華な布陣で、戦争映画製作の現場を舞台にした過激な作品へと仕上げている。とにかくスティラーのブラックユーモアが冴えわたる本作は、戦争映画などへのオマージュを盛り込みつつとにかく“やりたい放題”といった印象が強い。例えばダウニー・Jr.が演じるカーク・ラザラス(どこかで聞いたことのあるような役名)は徹底した役作りで挑む俳優という設定で、なんと黒人を演じるために皮膚移植してまで“黒人化”するというキャラクターだ。さらにゲスト出演を果たしたトム・クルーズをとんでもない姿へと変貌させてしまったことも話題に。ダウニー・Jr.はまさかのアカデミー賞助演男優賞ノミネート、クルーズもチョイ役ながらゴールデングローブ賞にノミネートされるという、ある意味では快挙を成し遂げている。
エリザベス・バンクス
俳優業とともに監督業に進出する女優も多く、ジョージ・クルーニー&ジュリア・ロバーツ共演の『マネーモンスター』を監督したジョディ・フォスターや、『フランシス・ハ』で主演を務め監督作『レディ・バード』がアカデミー作品賞にノミネートされたグレタ・ガーウィグらが有名。『ハンガー・ゲーム』シリーズや『パワーレンジャー』への出演で知られるエリザベス・バンクスもそのひとりで、近年はプロデューサーとしての活躍も目立ち始めている。
バンクスのプロデュース作品としてヒットを記録したのが、アナ・ケンドリック主演で大学アカペラグループの快進撃をポップに描いた『ピッチ・パーフェクト』。アカペラサウンドながらノリノリのセッションで音楽映画としての魅力にあふれ、さらに下ネタ上等の精神を貫き通したガールズコメディにも仕上がっている。バンクスは同作でプロデュースを務めただけでなく、アカペラ大会で実況を担当するゲイル役で出演。当初は主人公のアカペラチーム・ベラーズのちぐはぐなパフォーマンスに冷笑ぎみだったものの、成長を遂げた彼女たちのステージにやがて驚かされることになる。そんなベラーズを、ゲイルとして、そして作品のプロデューサーとして見守ってきたバンクスは続編の『ピッチ・パーフェクト2』で監督の座に就任。新キャラクターにヘイリー・スタインフェルドを迎え、再びベラーズを形作るために友情や軋轢を描写していく。ラストにはベラーズの“横のつながり”だけでなく“縦のつながり”までしっかり描き切るという、絶妙なバランス感で最後の最後まで映画を盛り上げていた。ちなみにバンクスが製作と出演を兼ねた『ピッチ・パーフェクト ラストステージ』が、10月19日から公開となる。
『ピッチ・パーフェクト ラストステージ』 © Universal Pictures
ウー・ジン
最後は中国映画界から。ウィルソン・イップ監督の『SPL/狼よ静かに死ね』で金髪の暗殺者を演じ、主演のドニー・イェンと繰り広げる路地裏でのファイトシーンが称賛されたウー・ジン。以降もムエタイの神様トニー・ジャーとの共闘で話題となった『ドラゴン×マッハ!』や、エディ・ポンとの一騎打ちカンフーファイトが美しい『コール・オブ・ヒーローズ/武勇伝』が相次いで公開されるなど、日本でも着実にファン層を広げつつある。
そんなウー・ジンが監督・製作総指揮・脚本・主演の4役に挑戦したのが『ウルフ・オブ・ウォー』シリーズ。特に今年1月に日本公開された『戦狼/ウルフ・オブ・ウォー』は中国で歴代興行収入を塗り替える特大ヒットを記録し、その破格の興収が日本のメディアでも紹介されるほどだった。同作は“中国版ランボー”といっても過言ではなく、ウー・ジン演じる退役軍人がアフリカの内戦に巻き込まれ、窮地から同胞を救い出すという分かりやすいテーマが全編を貫いている。特に戦闘描写の激しさは本家ランボーを優に超えるレベルで、苛烈極まる銃撃戦に“実写版『ガールズ&パンツァー』”とまで呼ばれるド派手な戦車チェイス、そしてウー・ジンの武術が冴えわたる格闘戦などこれでもかとバトル要素が詰め込まれている。そんなウー・ジンの姿はヒーローそのもので、愛国精神を背負って多勢に無勢と分かっていても敵地に乗り込む姿や、ラストバトルとなるフランク・グリロとの肉弾戦はかなり熱い。監督として采配を振るいアクションスターとしてもキメるその姿から、ウー・ジンが“ジャッキー・チェンの後継者”と呼ばれる理由がはっきりと見て取れるはずだ。
まとめ
俳優兼監督というスターはほかにも、『アルゴ』のベン・アフレックや『グッドナイト&グッドラック』のジョージ・クルーニーらがアカデミー賞に絡むほどの評価を受けている。女優でもアンジェリーナ・ジョリーやドリュー・バリモア、サラ・ポーリーといった面々が。役者だからこそ俳優と向かい合って役作りや演技へのアドバイスができたり、役者側からの視点で作品を眺められるというメリットがある。現在活躍中の男優・女優の中にも着々と監督業進出への準備をしている人は多いはずなので、次にどんな俳優が映画監督としてスポットライトが当たることになるのか、楽しみにしたい。
(文:葦見川和哉)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。