映画コラム

REGULAR

2018年12月19日

ミニオンズだけじゃない!「イルミネーション」スタジオから生まれた魅力的なキャラクターたち

ミニオンズだけじゃない!「イルミネーション」スタジオから生まれた魅力的なキャラクターたち



(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS



12月14日から公開が始まった、イルミネーション・エンターテインメント(以下:イルミネーション)の最新作『グリンチ』。かつて名匠ロン・ハワード監督がジム・キャリーとともに実写映画化したこともある、ドクター・スース原作の人気キャラクターを3DCGアニメーションとして新たに命を吹き込んだ。英語版ではベネディクト・カンバーバッチ、日本語吹替版では大泉洋が声を担当した緑色の毛もじゃキャラ、グリンチ。ひねくれ者がクリスマスに起こす騒動を、イルミネーションらしいセンスとテンポで描いている。

イルミネーションといえば2007年に設立された比較的歴史の新しいスタジオだが、既に『ミニオンズ』や『SING/シング』など作品の評価とキャラクター人気の高い作品が次々と生み出されている。そこで今回は、最新作『グリンチ』を筆頭に、イルミネーション・エンターテインメントから誕生した魅力的な作品たちを紹介していきたい。



(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS



『グリンチ』



まずは最新作の『グリンチ』から。ストーリーの構造は至ってシンプルで、家族のいないグリンチは友達もできないまま成長し、ひねくれた性格のオトナになってしまったキャラクター。寂しい幼少期を過ごしたグリンチはフーの村から離れた洞窟に住み、愛犬のマックスを除いて誰とも交流しようとしない生活を送っていた。そんな彼がクリスマスで浮かれる村人たちを妬み、クリスマスを盗んでしまおうと決めるのだから何とも壮大なひねくれっぷりである。



(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS



アニメ映画のなかでは珍しい“性格に難がありすぎる”主人公だが、かといって憎めないキャラとなっているのも、イルミネーションらしいストーリーテリングの賜物だろう。グリンチの命令に忠実なマックスの存在や、途中で出くわすちょっぴりおバカなトナカイのフレッドと見せる掛け合いはアニメ作品らしい愛らしさがある。さらにひねくれ者というだけではないグリンチの個性も魅力で、実は彼がちゃんと緑のパンツを履いていたなどとは誰が想像できようか。素っ裸だと思っていたらご丁寧にもパンツを履く描写があるのだから、思わぬ小ネタに笑えてしまう。



(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS



本来なら“クリスマスを盗む”なんて意地の悪い描写は、観客に嫌われかねない悪事だ。ところが本作はそこからグリンチの本領が発揮されることもあり、やたら機能的なガジェットを駆使したアンチヒーローの活躍を思いきり楽しむことができる。音楽を手掛けるハリウッド映画音楽の巨匠ダニー・エルフマンの軽妙なサウンドとも相性抜群の効果を見せて、クリスマスのハチャメチャ感が小気味よいテンポで展開されていく。本作は多くが曲線でデザインされていて、エルフマンの音楽も加わり同じように曲線を好むティム・バートンぽさを感じる人も多いのではないだろうか。さらにその後には…と、ここからは本編を観てのお楽しみということで伏せるが、グリンチが決して単調な描かれ方にはならないその感情的な変化をぜひ見届けてほしい。


『怪盗グルー』シリーズ



イルミネーションの記念すべき第1回作品となった、2010年公開の『怪盗グルーの月泥棒』。その後、2013年に『怪盗グルーのミニオン危機一発』、2017年に『怪盗グルーのミニオン大脱走』が公開され、3作品の世界興行収入は合計約25億ドルというまさにイルミネーションの“ドル箱”シリーズだといえる。

怪盗グルーの月泥棒 (字幕版)



同シリーズ、つい黄色い謎の生物“ミニオン”が主人公なのかしらんと思いがちだが(筆者も公開から遅れて第1作を鑑賞するまで予告編などからそう考えていた)、もちろんタイトルにある通り、本作の主人公は発明品を駆使して悪事を働く“怪盗グルー”。グリンチと似た部分もある意地悪な性格の持ち主で、ミニオンたちもその悪党っぷりに惚れこんでグルーに仕えている。

本シリーズは底抜けに明るいアクションコメディとしての性質を前面に押し出しているが、実は同時に“家族”としての物語が描かれていることにも注目してほしい。もちろんグルーとミニオンたちとの信頼関係もそうだが、1作目ではグルーと孤児院育ちの幼い三姉妹の出会いが彼に大きな変化をもたらすことになった。2作目の『怪盗グルーのミニオン危機一発』ではルーシー捜査官とグルーにロマンチックな展開があり、3作目『怪盗グルーのミニオン大脱走』ではグルーの双子の兄ドルーが登場している。ドタバタ感を見せつつ、同時に孤独だったグルーに家族が増えていくという、さりげない温かさもまた魅力になっているのだ。


『ミニオンズ』



『怪盗グルー』シリーズに登場する謎の生物、ミニオン。よくよくじっと見てみればつるんとした坊主頭に申し訳程度の髪が生え、単眼だったり双眼だったりでなぜかゴーグルがマストアイテム。もしも実写なら相当キモチワルイ生き物なのではとも思うが、これがまた妙に愛くるしい。『怪盗グルー』シリーズでは描き切れなかったミニオン誕生の起源をあっさりと冒頭で描き、あとは本シリーズでお馴染みとなったドタバタ展開が繰り広げられていく。

ミニオンズ (字幕版)



ミニオンたちは偉大なる“ボス”に仕えることを目的とした行動原理があり、本作ではその道筋を辿って旅するミニオンたちが描かれている。本シリーズに比べるとドラマ的な面は薄れているものの、その分彼らの魅力が過剰なまでに詰め込まれた作品でもあり、そのポンコツっぷりは子どもが楽しむだけでなく大人も思わず声を出して笑ってしまうほどだ。何を言ってるのかさっぱりなミニオン語であったり、“キング・ボブ”のような謎行動も「意味が分からない」のに「なぜか納得してしまう」魅力が、ミニオンたちからは溢れ出ている。誕生からわずか10年にして、その異常な人気の高さは相次いで商品化されるキャラクターグッズの多さからもはっきりしている。

『イースターラビットのキャンディ工場』&『ロラックスおじさんの秘密の種』



イルミネーションのスポット映像から漏れてしまっているのでつい忘れがちだが、2011年公開の『イースターラビットのキャンディ工場』と翌年公開の『ロラックスおじさんの秘密の種』もイルミネーションの初期作品として押さえておきたい。

イースターラビットのキャンディ工場 (吹替版)



『イースターラビットのキャンディ工場』はアニメーションスタジオとしての特性を活かしたアニメ×実写作品として製作。イースター島とハリウッドを舞台にしてエンターテインメント性を色濃くしつつ、3DCGアニメーションパートではうさぎのイービーとカルロス率いるヒヨコ軍団の仁義なきモフモフバトルを描く。ジェームズ・マースデンらが登場する実写パートも含め、『怪盗グルー』シリーズと同様にコメディアクションを描きながら、実は根底にしっかりドラマとしての下地が用意されている。イービーの“夢”や反発し合う父親との“絆”といった部分で、どのようにその内面が変化していくかにも注目しながら観てほしい。

ロラックスおじさんの秘密の種 (吹替版)



『ロラックスおじさんの秘密の種』は、日本語吹替版で“ロラックスおじさん”の声を志村けんが担当したことでも話題に。本国版ではダニー・デヴィートがロラックスおじさん役を務めたほか、ザック・エフロンやエド・ヘルムズ、テイラー・スウィフトといった面々がボイスキャストとして名を連ねている。本作は『グリンチ』と同じくドクター・スースによる児童文学を原作にして、『怪盗グルー』シリーズのクリス・ルノーが監督を務め、ドリームワークス・アニメーションの『ヒックとドラゴン』で知られるジョン・パウエルが音楽を担当するなどなかなか豪華な布陣。物語も3D技術を駆使した映像で見せつつしっかりと普遍的なテーマを盛り込み、説教臭くはならないようバランスを取った冒険譚が展開している。


『ペット』&『SING/シング』



2016年公開の『ペット』と、日本では2017年3月公開となった『SING/シング』。どちらも動物をメインキャラクターにしながら、それぞれの世界観やテーマ性がはっきり分けられているのが面白いところ。リアル感を残したアニマルデザインの『イースターラビットのキャンディ工場』に比べどちらもアニメ的なデザインとなったが、より表情に幅を持たせたのが共通点だろう。

ペット (吹替版)



『ペット』の原題は『The Secret Life of Pets』であり、そのタイトルからも分かる通り“飼い主が不在にしている状況でペットたちは何をして過ごしているか”がストーリーの導入部であり、軸となっていた。言ってみればイルミネーション作品のなかでも最も観客に近しいストーリーであり、動物を飼ったことがある人なら一度は「いまどうしているかな?」と部屋に残した動物たちに思いを馳せたことがあるはず。本作に登場する“ペット”たちはその行動が度を過ぎたためにとんでもない冒険へと繰り出すことになり、都会という未知の世界をさまようハメになった。時として彼らが経験する不条理な世界は身につまされるところもあるが、同時に動物たちの関係性や妙にリアルな“ペットあるある”も微笑ましく思えてしまうのだ。

SING/シング【通常版】(吹替版)



『SING/シング』は60曲以上ものヒットソング・名曲が作品のなかで使われたほど、“音楽映画”としての側面が強く打ち出された。その内容もエルトン・ジョンやフランク・シナトラからレディー・ガガ、さらには日本からきゃりーぱみゅぱみゅの楽曲も使用されるなど、さながらミュージカル映画の華やかさを持っていたのも特徴だ。主人公のコアラ、バスター・ムーンを筆頭に本作に登場するキャラクターは殆どが一癖持つ。それが彼ら彼女らにとって足かせにもなるが、歌うことを通して少しずつ成長していく姿は、アニメ映画の枠を超えて感情に訴えるもの、胸に響くものがあるはず。時としてセリフ以上のメッセージ性を持つ楽曲を、特に日本語吹替版ではスキマスイッチの大橋卓弥やMISIAといったアーティストが情感たっぷりに歌い上げる姿も感動的だ。なお本作は日本国内で51億円を超える大ヒットを記録しており、イルミネーションが決して“ミニオン頼り”というわけではないと証明している。


まとめ



日本で“ジャパニメーション”が隆盛するなか、いわば10年前にノーブランドながら登場したイルミネーション作品は、すぐさま受け入れられることになった。それだけ作品の持つ魅力が日本人にも馴染みやすいものであったことが大きいのではないだろうか。イルミネーションは今後『ペット2(仮題)』を筆頭に、『ミニオンズ2(仮題)』『SING/シング2(仮題)』が公開予定。ハイクオリティなアニメーションの世界を楽しみに待ちたい。

(文:葦見川和哉)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!