映画コラム

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2019年01月09日

難しい講釈なんていらない! ロブ・コーエン監督『ワイルド・ストーム』は誰もが楽しめるエンタメ作!

難しい講釈なんていらない! ロブ・コーエン監督『ワイルド・ストーム』は誰もが楽しめるエンタメ作!



© CATEGORY 5 FILM, LLC 2017



いきなりで恐縮だが、筆者の“2019年劇場鑑賞初め”は1月4日公開の『ワイルド・ストーム』だった。監督はエンタメ気質を貫く名匠ロブ・コーエン。ストーリーは至ってシンプルで、極端にいえば「ハリケーンに紛れて大金をせしめてしまえ」という強盗団との攻防を描いた、災害+アクション+クライムサスペンスという内容だ。

目立ったスター俳優は出ていないものの、それが逆に強みとなってキャスティングが物語の邪魔をしておらず、さらにハリケーンによる破壊描写(視覚効果など)に大半の製作費を注ぎ込めたのではないだろうか。その結果、リアル路線に傾倒している現在のハリウッド作品において、本作は久しぶりにスカッとするような純エンターテインメント作品へと仕上がった。今回はそんな『ワイルド・ストーム』の見どころに触れながら、ロブ・コーエンの魅力的な作品群も紹介していきたい。



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シンプルだからこそストレートに熱い!



前述のように『ワイルド・ストーム』は観る者にほとんど頭を使わせることのない、シンプルなストーリーが魅力のひとつにある。逆をいえば観客は頭を空っぽにして劇場の座席に腰を下ろし、あとはハリケーンの来襲を待つだけ。もちろんシリーズものではないし、強盗団には下手な思想も無駄なエピソードもない。「そこに山があるから」登るのと同じように、「そこに金があるから」手に入れたい。ただそれだけなのだ。バックボーンを持つキャラといえば、主人公のウィル(トビー・ケベル)がかつてハリケーンによって肉親を亡くしたことが、現在の気象学者という職業に通じていることくらい。ただ物語においては悲劇そのものよりも、気象学者としての知識がものを言う描写がほとんどだ。



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巨大ハリケーンが上陸するさなかとあればウィルの知識が役立つとはいえ、頭脳だけでは武装集団には立ち向かえない。そこで本作のアクションにおける肝となるのが2つのポイント。まず1つ目がマギー・グレイス演じるヒロイン、ケイシーの存在で、財務省の施設管理スタッフである彼女自身が物語を大きく動かす役目を担っている。目が飛び出るような大金を扱う彼女の戦闘スキルはさすがのもので、銃の扱いはお手の物。ウィルやその兄ブリーズにも見せ場はあるものの、暴風雨が荒れ狂うなか強盗団と派手なドンパチを繰り広げるケイシーの姿は実に頼もしい。



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そしてもう1つのポイントが、ウィルの良き相棒とも呼べる最強の災害用特殊車両“ドミネーター”だ(名前からしてカッコいいぞ)。最強という称号に相応しく、解析装置などに加えて暴風にも耐えられるよう地面に突き刺さるスパイクが装備され、強力なパワーウィンチも完備。走行性能も抜群で、これらのスキルがバットモービルの如く各場面で活躍するのだからなんとも熱い。幾度となくウィルとケイシーの危機を救う“メインキャラ”であり、とある場面では思わず目頭まで熱くなるかもしれない。



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「これがアクション映画だ!」を見せつける怒涛の展開



本作におけるもうひとつの主人公が、言わずもがなハリケーンそのものにある。迫りくる嵐を描いた同系列の災害映画といえばヤン・デ・ボン監督の竜巻映画『ツイスター』や、ビルのような高潮を生み出したウォルフガング・ペーターゼン監督の『パーフェクト ストーム』、近年ではツイスターのアップデート版『イントゥ・ザ・ストーム』といった、VFXをウリにした作品が挙げられる。ちなみに嵐に乗じて強盗団が暗躍する作品には、大雨がもたらす大洪水を描いたクリスチャン・スレーター主演の『フラッド』もあり、いずれにせよどの作品も暴風・豪雨・高潮といった描写が鍵となっている。『ワイルド・ストーム』はそれらの要素がほぼ詰め込まれたなんとも大盤振る舞いな作品であり、アクションとセットで描かれることでバシッと画面を引き締めている。



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土砂降りのなか繰り広げられる激しい銃撃戦や荒れ狂う暴風が迫る中でのカーチェイスは、災害アクションにおける醍醐味といってもいいだろう。もちろん現実の世界で起きている本物の自然災害と並べれば不謹慎かもしれないが、そこは映画の中だからこそ描ける世界。真昼間の晴天のなか派手なドンパチやカーチェイスを展開しても、“それだけ”で終わってしまうが、そこにハリケーンの真っ只中という状況を設定するだけで見せ方は大きく変わってくる。ロブ・コーエンはVFXを巧みに混ぜ込みながら映像を鮮明に描き上げるビジョンに長けていて(それが職業監督たる所以でもある)、観客が「観たい」と思える視点から逸れてしまうことはない。頭を空っぽにして楽しめるとはいうものの、本作を生粋のエンターテインメント作品に仕立てているのは、監督の長年の経験値による功績でもあるのだ。

『ワイルド・ストーム』はロブ・コーエン監督の集大成!



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実は『ワイルド・ストーム』という作品を分解してみると、これまでロブ・コーエン監督が手掛けてきた過去作に通じる部分が多いことに気づかされる。例えば災害描写そのものに注目すると、ロブ・コーエンは海底トンネルの崩落危機を描いたパニックアクション『デイライト』を1996年に放っている。こちらは自然災害ではなく人災を描いたもので、マンハッタンにつながる海底トンネル内で、危険物質を大量に積んだトラックの隊列に暴走車が激突して大爆発を引き起こしてしまう。走行中の車を巻き込みながらトンネル内に爆炎が広がっていく災厄シーンは約2分にもおよび、ILMによる視覚効果とミニチュア撮影、セット撮影による合成が息も詰まるような圧巻の破壊描写を生み出した。

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災害がメインではないが、2002年公開の『トリプルX』では、雪崩とアクションを組み合わせたド迫力のチェイスシーンを展開している。ヴィン・ディーゼル演じる主人公ザンダー・ケイジがスノーボードで敵の追随をかわすため、爆弾を使って雪崩を誘発。山肌を猛スピードで駆け降りるザンダーの背後では画面を覆うような巨大な雪崩が轟音とともに迫り、敵のスノーモービルを次々と飲み込んでいく。こうした大胆不敵かつ豪快なザンダーのアクションが見事にウケ、以降『トリプルX ネクスト・レベル』『トリプルX:再起動』と公開され、現在も第4弾の製作が進むなどヒットシリーズの礎となった。

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『ワイルド・ストーム』ではドミネーターや現金輸送トラックを使ったカーチェイスも見ものだが、ロブ・コーエンのカーチェイス作品といえば今やドル箱シリーズと化した『ワイルド・スピード』が挙げられる。公開は『トリプルX』の前年にあたる2001年で、この作品をきっかけにして主演のポール・ウォーカー、ヴィン・ディーゼルがブレイクを果たした。第1作では現在ほどの大がかりなアクションは仕込まれておらず、あくまでストリートレースとその運転技術を利用した車両強奪犯罪を地に足つけて描いた内容だった。それでもスタイリッシュなカーアクションは多くの支持を集め、この手のジャンル映画としては珍しく全米興行収入だけで1億4400万ドルを超える最終成績を収めた。

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バディものやコンビネーションに的を絞ると、騎士とドラゴンの組み合わせで描いた1996年公開の『ドラゴンハート』に通じるものがある。例えば『ワイルド・ストーム』のウィルとドミネーターは種族どころか人間と機械という全く相容れない関係だが、そのコンビネーションは強い信頼の上にこそ成り立つ。いっぽう『ドラゴンハート』では悪政を敷く暴君アイノン(デヴィッド・シューリス)に立ち向かうべく、ボーエン(デニス・クエイド)とドラゴンの最後の生き残り、ドレイコ(声を演じるショーン・コネリーが渋い!)と手を組むことに。出会った当初はドラゴンスレイヤーと狩られる側という立場だったが、お互いに共感を覚えてからは小芝居を打つなど絶妙な呼吸を見せる。それだけにアイノンとドレイコに関するある秘密が重く圧し掛かることになるが、種族を超越した友情が本作を名ファンタジーへと押し上げたのは間違いない。

まとめ



これまでに挙げた作品以外にも、ロブ・コーエン印のアクションなら『ステルス』、アドベンチャーなら『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』など、エンターテインメントに特化した作品が並ぶ。ロブ・コーエンは多作家というわけでなく、また賞レースに絡むような作品とも無縁だが、どの映画にも観る者の目をスクリーンに釘づけにする魅力が詰め込まれている。新年早々「勉強したくない」「働きたくない」なんて憂鬱な人こそ『ワイルド・ストーム』に悩みも吹き飛ばしてもらい、晴々とした気分になってほしい。

(文:葦見川和哉)

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