映画コラム

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2019年02月08日

寒さを耐え忍ぶ映画を5選と『ハチ公物語』

寒さを耐え忍ぶ映画を5選と『ハチ公物語』




寒い日が続きますね……。

こんなときは無理に外出せず、映画でも見るというのはいかがでしょう?

で、どうせなら冬の寒さがしみるものを、暖かくした部屋の中で鑑賞するというのもオツかも?

というわけで、今回は国民的大ヒット作『ハチ公物語』をご紹介!

忠犬ハチ公の実話を基にした
大ヒット国民映画




 (C)1987 松竹株式会社/ 株式会社東急エージェンシー/三井物産株式会社


『ハチ公物語』はその名のごとく、渋谷駅前の待ち合わせの目印としても有名な銅像で知られる忠犬ハチ公を題材にした実話の映画化です。

大正から昭和にかけての時代、秋田で生まれた秋田犬の子どもたち。そのうちの1匹が東京の大学教授・上野秀次郎夫妻(仲代達矢&八千草薫)の家に引き取られ、ハチと名付けられます。

昔飼っていた犬を亡くして以来生き物を飼うことを躊躇していた秀次郎ではありましたが、やがて本来の愛犬家の血が騒ぎ、溺愛されるようになるハチは、いつのまにか彼が出勤するのを渋谷駅まで送り迎えするのが日課となっていきます。

しかしある日、秀次郎が急死……。

以後、独りとなった静子は娘の嫁ぎ先に身を寄せることになり、やむなくよそに引き取られたハチは飼い主を転々としていくことになりますが、それでも毎日夕方になると渋谷駅に出向いて秀次郎の帰りを待つのでした……。

本作は犬と人との心の触れ合いを主軸に、数奇な運命を経て国民的に知られるようになったハチの生涯を虚実交えた感動作として描いていきます。

当時の渋谷駅前を再現した一大オープンセットを築いての撮影は、大正から昭和にかけての日本情緒を大いに醸し出し、仲代達矢をはじめとするオールスター・キャストの妙と、そして何よりもハチを演じた犬たちの好演を外すわけにはいきません。

雪が舞う渋谷駅前の中で死んでいくハチの姿に、多くの観客は心を熱く揺さぶられながら号泣し、これによって本作は配収20億円という1987年度の邦画配収第1位を計上。

本作の製作・奥山和由、脚本・新藤兼人、監督・神山征二郎は、この後も野口英世とその母の愛情を主軸に据えた『遠き落日』(92)、宮澤賢治の生涯を描いた『宮澤賢治、その愛』(96)とトリオを組んで古き良き日本の情緒を湛えた三部作を発表することにもなりました。

また2007年にはアメリカでリチャード・ギア主演『HACHI 約束の犬』としてリメイクもされています。

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日本映画の超大作はなぜか
極北を題材に死がち?


では、ここからは“寒さ”を大きくクローズアップさせた映画をいくつか挙げていきましょう。

『八甲田山』(77)


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雪の寒さを描いた映画の最高峰ともいえる作品。日露戦争直前に行われふたつの連隊による雪中行軍演習で、青森の連隊が遭難し、210名中199名が死亡した惨劇を基にした新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』を原作に、『日本沈没』(73)の森谷司郎監督がこの惨劇を完全再現。

高倉健、北大路欣也などオールスター・キャストの布陣で、実際に雪に覆われた八甲田で3年の歳月をかけて、現場から脱走する者もいたほどの過酷な撮影を敢行(撮影は鬼の木村大作!)。その狂気は画面に見事に反映され、「天は我々を見放した!」のキャッチコピーも功を奏して大ヒットを記録しました。

なお森谷・新田・木村のトリオは翌78年、大正時代に木曽駒ヶ岳登山で遭難した小学校の生徒と教師の悲劇および師弟愛を描いた『聖職の碑』を発表。

さらに木村大作は飛騨山脈の測量に挑んだ男たちを描いた新田の小説を原作とする『劔岳 点の記』(09)で映画監督デビューを果たしました。

また新田次郎の小説でやはり凍れる寒さを背景としたものとして『富士山頂』(70)『アラスカ物語』(77)も映画化されています。

『南極物語』(83)


南極物語



1958年の南極昭和基地越冬隊の活動が悪天候で急遽中止となり、日本への帰還の際のトラブルで現地に置き去りにされた15匹のカラフト犬の運命と、その中で奇跡的に生き延びたタロとジロを描いた蔵原惟繕監督、高倉健主演の動物映画超大作。

前半は越冬隊と犬たちの交流を、後半は犬たちを主体にしたサバイバルのドラマが壮大なスケールで綴られていきます。北極と南極で長期ロケを敢行、音楽にヴァンゲリスを招いての画と音の神秘的な融合も見逃せないところ。

キャストの中では渡瀬恒彦が凍れる大地を溶かすほどの熱い犬好きぶりを露にしており、多くの愛犬家が納得する好演を示していました。

06年にはアメリカでリメイクされています。

『植村直己物語』(86)


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世界をまたにかけた冒険家として知られ、1984年のマッキンリー冬期単独登頂を果たした後で消息を絶った植村直己の生涯を描いた伝記映画。

映画化のオファーを受けた監督の佐藤純彌は「実際の冒険の地で撮影しなければ植村さんに失礼だ」と世界を股にかけた長期撮影を強硬に主張し、結果として見事なまでに植村氏の過酷な冒険の数々が再現されることになりました。

植村氏に扮した西田敏行は『釣りバカ日誌』シリーズに主演する前で、あたかも植村氏が乗り移ったかのような好演(そのスリムな体形に今の観客は驚くこと必至!?)。 また植村夫人に扮した倍賞千恵子の存在感も忘れられないものがあります。

ちなみに佐藤監督はこの後も西田敏行らの出演で、江戸時代にロシアに漂着した大黒屋光太夫とその仲間たちの数奇な運命を描いた超大作『おろしや国酔夢譚』(92)を発表。シベリア・ロケではヘリコプターを用いて吹雪を起こし、それは『植村直己物語』以上に過酷な撮影だったとのことです。

『オーロラの下で』(90)


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役所広司主演による日本とロシア(当時はソ連)の合作映画。

戸川幸夫の児童文学を原作に、『マタギ』(81)『イタズ』(87)など動物映画の名手・後藤俊夫監督がメガホンを握り、20世紀初頭にシベリアへ渡った日本人マタギがオオカミと犬の間に生まれたオオカミ犬ブランを犬ぞりのリーダーとして育てあげ、やがてジフテリアの血清をわずか5日半で急送する奇跡を成し遂げるまでを描いていきます。

動物映画としての情緒と主人公の数奇な運命とが、タイトルに偽りなくオーロラを伴う壮大な映像美の中で両立した作品。

ロシア映画界の名匠ニキータ・ミハルコフがゲスト出演しているのも映画ファンには見逃せないところでしょう。

と、ここまで選んでみて、その大半は70年代後半から90年代にかけての超大作ばかりであることにハッとさせられたのですが、要するにバブル期の80年代を中心に、こういった超大作を作る土壌と意欲が当時の日本映画界にはあったということかもしれません。
(でも日本人って、何か寒い場所を舞台にした作品が好きですね)

『私の男』(14)


私の男



では、ここ最近の映画で寒々とした背景の映画は? と問われたとき、実は真っ先に思い出したのがこの作品なのでした。

北海道を舞台に、南西沖大地震で家族を亡くした少女・花(二階堂ふみ)が叔父(浅野忠信)と暮らすようになり、いつしか肉体関係が結ばれていくのに伴う殺人を描いたミステリアスな人間ドラマ。

いわゆる近親相姦を題材にしたもので、そのタブー性を通して日本の風土や精神構造までも巧みに露になっていく熊切和嘉監督作品。

花の幼少期は16ミリフィルム、流氷の町での少女時代は35ミリフィルム、そして大人になり舞台が東京に移ってからはデジタルと撮影素材を変えているあたりも映像へのこだわりを強く感じさせるところ。

ふたりの秘密を知った町の地主(藤竜也)が流氷の中で花と対峙し、やがて……といった中盤のシーンは見る者の心を心底凍らせてくれるものがありました。



(文:増當竜也)

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