『メリー・ポピンズ リターンズ』もっと楽しむための「3つ」のポイント!



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現在、映画『メリー・ポピンズ リターンズ』が上映されています。本作は1964年にアメリカで公開された『メリー・ポピンズ』から数えて何と54年ぶりの続編となり、その(リメイクでもリブートでもない続編の)ブランク期間は実写映画における新記録なのだそうです。

この『メリー・ポピンズ リターンズ』のどういったところに魅力があるのか、大きなネタバレのない範囲で以下にたっぷりとお伝えします。

1:異なるタイプのミュージカルシーンがたっぷりと楽しめる!
“アナログ”へのこだわりもあった!


本作の最大の見どころはミュージカルシーンにあると言っていいでしょう。それも、“圧倒的な人間の身体能力+きらびやかな美術”だけでなく、“バスタブ(海)の中を冒険する夢いっぱいのファンタジー”や、“懐かしの2Dアニメと実写の融合”もあるという……それぞれ異なる魅力のあるミュージカルをたっぷりと堪能できるのです。

ミュージカルとは、言うまでもなく歌唱の他、踊りとパフォーマンスも加わった芸術です。生身の人間が一斉に同じ動きをして、音楽とも見事に同期していているため高揚感いっぱいになれる……VFXやCGだけに頼らない、根源的なミュージカルの楽しさに溢れているのです。オープニングでは“もの哀しさ”を感じる画と歌唱が、後には豪華な美術で彩られるようになっていくという“変化”があるのも見どころになっていました。

一方で、バスタブの中での“冒険”では、現実とかけ離れた夢いっぱいのシーンも展開します。ファンタジーの世界に入り込むという多くの方がディズニー映画に求めている要素も、ここに存分に詰まっているのです。



さらに、前作『メリー・ポピンズ』にあった大きな魅力でもある“2Dアニメと実写との融合”も、最新鋭の技術で復活を果たしています。アニメは言うまでもなく“平面”なのですが、それが“立体的”な生身の人間と違和感なく融合し、まるで“アニメの中を冒険している”という不思議な感覚を得られるようになっていました。しかも、今回はミュージカルだけに留まらず、ジブリ映画さながらのスピーディな“奥行き”感のあるアクションシーンも展開するのです。



本作の監督を手掛けたのは、『シカゴ』、『NINE』、『イン・トゥ・ザ・ウッズ』とミュージカル映画を手がけていたロブ・マーシャル。現代でミュージカルを作る意義として、ロブ監督は「現代は混沌としていて暗い話題も多い。だからミュージカル映画が世界中の人々に与える喜びがすごく重要になっている」と語っています。そのミュージカルへのリスペクトおよびこだわりは、全編に行き届いていると言っていいでしょう。

ちなみに、CGやVFXだけに頼らない“アナログ”へのこだわりは、ミュージカルシーン以外にも表れています。具体的には、メリー・ポピンズと3人の子どもたちがバスタブの中に吸い込まれるというシーンはCGを使っておらず、バスタブの中に設置された長い滑り台を演者たちが実際に滑り降りているのです。


ロブ・マーシャル監督は本作で“手で触れられるようなリアルで現実味のある表現を求めた”そうで、CGをできる限り全編で使わない他、スタントマンもなるべく起用しないようにしていたそうです。『メリー・ポピンズ リターンズ』が映画作品として成功したのは、現代の最先端の映像技術を用いている一方で、そのような昔ながらの(前作にあった)“生身の人間が演じる”ミュージカル映画の面白さも突き詰めている、その両者のバランスが絶妙だったことにもあるのでしょう。

2:字幕版と吹替版それぞれが最高のクオリティだ!


本作は字幕版と吹替版が公開されているため、どちらを選べばいいかと悩んでいる方も多いでしょう。結論から言えば、「どちらを選んでも最高なので、好きなほうを選べば良い!」です。

字幕版ではベテラン字幕翻訳者の松浦美奈さんが各楽曲における英語の“言葉遊び”をも日本語に置き換えており、その見事さには感嘆しきりでした。言うまでもなく、本作にはエミリー・ブラント、ベン・ウィショー、メリル・ストリープなどハリウッドトップクラスの俳優陣が集結しており、その歌唱力はさすがの一言です。

吹替版は“完全日本語吹替版”と銘打たれている通り、会話シーンのみならず全ての楽曲の歌唱シーンも日本語になっています。翻訳を『トイ・ストーリー』をはじめ数多くのディズニー映画の吹替を担当したいずみつかさ、訳詞を『メリー・ポピンズ』の舞台版も担当していた高橋亜子が務めており、演者の口の動きに合うよう、日本語の歌としてとして面白く感じられるように楽曲が翻訳されていました。舞台版でもメリー・ポピンズを演じていた平原綾香の他、優しいお父さんを演じた谷原章介や、気さくな青年を演じていた岸祐二も実にハマっていました。



ここまでの吹替のクオリティになったのは、30年以上にわたり世界各国の吹替版の監修をしているリック・デンプシーが来日し、声優陣のアフレコ現場に立ち会って、各々のキャラクターや演技について細かい指導やアドバイスを行なったためでもあるのでしょう。「普段は字幕派」「ミュージカルの吹替はちょっと苦手だな」と思っている方も、ぜひ吹替版も選択肢に入れてみてほしいです。

3:前作ファンが楽しめるファンサービスもたくさんあった!


※以下は物語上のネタバレはありませんが、前作を観ていた方にとってはサプライズとも言える“配役”についても記しています。予備知識なく観たいという方はご注意を!

本作には前作『メリー・ポピンズ』を観ている方に嬉しい“ファンサービス”がたくさん込められています。前作から引き続き登場する“大砲で時間を知らせる海軍大将のおじいさん”というキャラや、“凧”というアイテムなどなど……それらをただ単に登場させるだけでなく、ストーリー上も重要になっていくということに、確かな前作へのリスペクトを感じることができました。

さらに注目は、前作で“一人二役”をこなしていた俳優のディック・ヴァン・ダイクが、今回は銀行の名誉社長の“息子”役として登場すること。前作で当時37歳であった彼は“老けメイク”をして役に挑んでいたのですが、今回も92歳にしては若く見えるため老人用の化粧と髪を使って少し年上に見せる必要があったのだそうです。

さらに、終盤に登場するバルーン・レディ(風船屋のおばあさん)を、ドラマ『ジェシカおばさんの事件簿』などで知られるアンジェラ・ランズベリーが演じています(出演時には92歳でディック・ヴァン・ダイクとの年齢差はわずか2ヶ月)。アンジェラ・ランズベリーは前作『メリー・ポピンズ』との関係がないように思われるかもしれませんが、実はジュリー・アンドリュースがメリー・ポピンズにキャスティングされる前は、彼女が同役に考えられていたのだそうです(そのジュリー・アンドリュースが今回のカメオ出演を断ったのは「これはエミリー・ブラントのショーであり、それを邪魔したくはないから」というのが理由だったのだとか)。

具体的な言及は避けておきますが、この他にもファンサービスおよび前作のオマージュと思われるシーンが本作にはあります。物語そのものは前作を知らなくても問題なく楽しめますが、可能であれば前作を直前に観るか、または思い入れたっぷりの状態で臨んだほうがより面白く観られることでしょう。



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おまけその1:エミリー・ブラントの役作りのポイントとは?


今回のメリー・ポピンズを演じたエミリー・ブラントと、前作で同役を演じたジュリー・アンドリュースにはとある共通点があります。それは“妊娠をしたために映画の製作を延期した”ということ。2人ともあまりにメリー・ポピンズという役に相応しかったために、妊娠したとしても代役を立てることはしなかったのです。そのエミリーは妊娠期間中もボイストレーニングを行っていたそうで、さらには今回の新曲9曲の制作過程にも関わっていたのだとか。

そのエミリー・ブラントは役を引き受けるに当たって、原作となる児童文学を読み直したところ、メリー・ポピンズの人物像が映画(前作)と原作で少し違うことに気付いたのだそうです。原作のポピンズはよりエキセントリックで、厳しさとユーモアを併せ持っていて、良い意味での“未知の存在”であり、その部分を参考にして今回のメリー・ポピンズを作り上げたのだとか。彼女が前作ではなく、原作から今回の役作りをしたのは、ジュリー・アンドリュースが演じていたメリー・ポピンズが“不滅の存在”であり、その真似をするなどおこがましいと考えたことにもあるそうです。

今回のメリー・ポピンズも、厳しいように見えて実は優しいという、今で言うところの“ツンデレ”な印象はそのまま。凛としていて頼りになる一方で、時々キュートにも見えるという魅力も全く失われてはいません。前作のファンも納得ができる“新しくも懐かしいメリー・ポピンズ”になっていることでしょう。



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おまけその2:物語はちょっとモヤッとするところも?


あえて気になったことにも言及しますが、今回の『メリー・ポピンズ リターンズ』は前作へのリスペクトを十分に感じる一方で、物語上ではモヤッとする、納得しにくいところもあった、というのが正直なところです。

まずは、メリー・ポピンズが(劇中の時間で)25年ぶりに再びやってくる理由そのものが薄く感じられること。前作の子ども2人はイタズラ好きで4ヶ月で6人の乳母が辞めてしまい、銀行家のお父さんは頑固で融通が利かず、お母さんも女性参政権運動に夢中で子供を乳母に任せきり……などの問題があり、家庭教師としてやってきたメリー・ポピンズが彼らの“ものの見方”が変えていくという物語になっていました。しかし、今回で主な問題となるのは“家を失ってしまうかもしれない”という物質的なものであり、登場人物の心変わりや精神面とは直接的な関係がないため、メリー・ポピンズの魔法および、彼女が教えてくれる“現実を生きるためのアドバイス”との食い合わせがそもそもよくないように感じられるのです。

また、前作におけるメリー・ポピンズの魔法は「お砂糖ひとさじで(楽しくなる)」という歌詞にもあるように、あくまで現実を楽しく生きるための“ほんのちょっぴりのファンタジー(想像)”でした。一方で、今回ではメリー・ポピンズの魔法がとある現実の問題を解決して“しまっている”という展開もありました。メリー・ポピンズはあくまでアドバイスをしたり、魔法で誰かのものの見方を少し変えてくれるだけでもよかったのに……と思った方も少なくはないでしょう(終盤では「最初からメリーポピンズがそうすれば良かったのでは?」というツッコミどころもありました)。


前作のことを考えなくても、多くの方が気になるであろうことはコリン・ファース演じる悪役の顛末です。具体的にどうなるかはネタバレになるので書かないでおきますが、正直に申し上げて良い気分にはなれませんでした。

しかしながら、前作の物語をなぞりながらも、新たなスペクタクルを用意したクライマックス、意外な伏線も用意されているなどの作劇が存分に工夫されているのも事実です。“普遍的な家族の幸せのあり方を描く”という尊さは前作から間違いなく引き継がれていますし、メリー・ポピンズが見せてくれるファンタジックな魔法のビジュアル、そしてミュージカルの感動こそを期待する人にとっては、物語も肯定的に受け入れられるのかもしれません。



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おまけその3:合わせて観てほしい3つの映画はこれだ!


最後に、『メリー・ポピンズ リターンズ』と合わせて観るとさらに楽しめる、3つの映画をご紹介します。

1.『雨に唄えば』






“生身の人間によるパフォーマンス”というミュージカルの根源となる魅力が詰まっているのが、この『雨に唄えば』。サイレント映画からトーキー映画(音声付き映画)に移る時代における“舞台裏もの”のコメディとして楽しく、主演のジーン・ケリーによるダンスの数々、特に土砂降りの雨の中で見せるタップダンスは忘れがたいものがあります。楽曲それぞれが耳に残り、物語も愉快で、古臭さなんて全く感じさせない、まさに名作を呼ぶにふさわしい内容になっています。『ラ・ラ・ランド』の劇中では本作のオマージュと思われるシーンもありますよ。

※『雨に唄えば』は以下の記事でも紹介しています↓
□これを観ておくと『ラ・ラ・ランド』がさらに楽しめる!10の映画

2.『ロジャー・ラビット』




『メリー・ポピンズ』および『メリー・ポピンズ リターンズ』で2Dのアニメと実写が融合しているシーンはごく一部のみでしたが、この『ロジャー・ラビット』では全編でそれが展開! 人間とアニメのキャラが実社会で共存しているというとんでもない設定となっており、アニメのキャラの“影”までもが実写と違和感のないように細かく描かれていたり、アニメのクルマによる破天荒なカーチェイスも展開したりと見どころは満載です。物語は殺人事件の謎を追うというもので、ちょっぴりアダルト(エッチ)な要素があることも特徴。ディズニーキャラをイジったギャグもあり、「いいのかこんなことして?」と良い意味で不安にもなる独創的な内容になっていました。

3.『ウォルト・ディズニーの約束』




『メリー・ポピンズ』の原作者であるパメラ・トラバースと、ウォルト・ディズニーとの関係性を描いたドラマです。その原作者がどのような“条件”を映画化において申しつけるかと言うと……「ミュージカルは御法度」「アニメなんか絶対ダメ」「あの俳優は最悪だから絶対起用しないで」「このセットはイメージと違う」などなど……「そんな要望を聞き入れていたら映画が作れないよ!」と思わざるを得ない難題ばかりなのです。

この『ウォルト・ディズニーの約束』の魅力は、この超めんどくさい原作者をどうにかして説得し、彼女が何故そこまで頑固なのかという謎を解き明かす過程にあります。『メリー・ポピンズ』を愛した方にとって、新たな作品の魅力、その奥深さに気づけることでしょう。原題の「Saving Mr. Banks」も大きな意味を持っていますよ(バンクス氏とは『メリー・ポピンズ』の登場人物であり、銀行員として働く厳格な父親です)。

(文:ヒナタカ)

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