映画業界の人種差別を『ブラック・クランズマン』から考える



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2019年3月22日に映画『ブラック・クランズマン』が公開された。
 
第91回アカデミー賞では脚色賞を受賞し、作品賞.監督賞をはじめとして6部門にノミネート、また第71回カンヌ国際映画祭ではグランプリを受賞するなど、世界中で喝采を浴びる作品だ。

しかし、アメリカの事情を大きく反映した作品であるため、海の向こうで暮らす日本人にはわかりづらいポイントもあるかと思われる。

この記事では『KKK(スー・クラックス・クラン)』『国民の創生』『ブラックパンサー党』を中心に、本作の描く社会性の一面を解説していきたい。

Q:そもそも『ブラック・クランズマン』ってどんな作品なの?


A:社会派でもありながら、基本は娯楽映画として楽しめる作品だ!

本作のあらすじについて軽く説明していこう。

1979年アメリカ・コロラド州のコロラドスプリングズの警察署に、初の黒人の警察官として配属されたロン・ストールワース(ジョン・デヴィット・ワシントン)は根強い黒人差別によって同じ警察官からも苦しめられる日々が続いていた。

そんなある日、過激な白人至上主義団体で知られるKKK(スー・クラックス・クラン)に潜入しようと電話をする。黒人であることを隠して差別用語などを多く使い話をしたところ、KKKのメンバーに気に入られる結果になる。

しかし、黒人であるロンは姿を見せての潜入出来ないために、相棒である白人のユダヤ人刑事であるフリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)に代行してもらうことに。電話でのやり取りはロンが、実際に潜入する際はフリップが担当するという、奇妙なバディによる捜査が始まる。


社会派の一面も強いものの、基本的にはコメディタッチに描かれており、皮肉なども多く笑いながら気軽に鑑賞できる作品に仕上がっている。



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Q:今作で潜入対象となるKKK(スー・クラックス・クラン)ってどんな組織なの?


A:現在にも存在する、過激な白人至上主義団体であり差別主義者の象徴的存在だ!

KKKという名称はニュースなどでも聞き覚えがある方も多いのではないだろうか? 白いシーツのような布を頭からかぶり、目だけをくりぬいたお化けのような独特の姿が印象に残る組織である。

差別的な主張が多く、1960年代のアメリカにおいて黒人の公民権運動が盛んになった際には、多くの差別的な言動の他に、公民権運動の支持者たちに対する過激な攻撃などを繰り返した。

爆弾によるテロ事件を多く起こし、1963年9月15日には黒人が集う16番街バプティスト協会が爆破され、4名の少女が命を落とすこととなる。

そのような行為を繰り返した結果、テロリスト集団として多くの人に認知される結果となり、支持者は離れていったものの、現代でも過激な白人至上主義者たちを集めて存在している組織だ。

なお、白人至上主義団体だがキリスト教保守派の一面もあり、ユダヤ人も差別の対象としている。

KKKは1866年にテネシー州のプラスキという小さな街で6人の若者が結成し、最初はいたずらを繰り返すだけの団体だったものが、徐々に政治性を帯びていった。

当時は南北戦争の直後であり、敗北した南軍の特に白人には鬱屈がたまっていた。南部再建のために配属された北部共和党のメンバーは黒人連帯結社の『ユニオン・リーグ』と協力しながら支持基盤を固めていく。

しかし、それが面白くないKKKなどの白人たちは自分の支持する政党のために黒人を襲撃し、リンチを加えていくようになる。

当時は南北戦直後ということもあり、混沌とする時代に台頭したのがKKKであった。しかし、連邦政府はこのKKKを危険視し、1870年には『クラン対策法』を可決、多くの弾圧によって壊滅的状態となり、各地区の支部は解散を宣言、あるいは活動を停止していった。しかし、そのKKKの組織名など表向きは活動を停止したものの、差別的な行動は無くなることはなかった。

時代は黒人を差別する方針に加速していき、南部では人種の分離や異人種間の結婚の制限、果ては選挙権の剥奪などの人種差別政策である『ジム・クロウ』が成立していくこととなる。



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Q:『ブラック・クランズマン』に出てくる『国民の創生』ってどんな映画なの?



A:映画史に残る名作だけれど、差別的な描写が多くて当時から議論の的になった作品だ!

本作の中では幾つかの映画作品が引用されていくが、その中でも特に印象に残るのが1915年に公開された『国民の創生』だろう。

國民の創生 D・W・グリフィス Blu-ray



映画の黎明期に多くの現代に残る映画的な演出を生み出した映画の父とも呼ばれるD・W・グリフィスの名作と言われ、現代でも多くの評論家などを中心に高く評価される作品となっている。

しかし、その内容は過激なものであった。KKKを主人公に設定し、黒人たちをいじめたり迫害する内容が多かったのだ。

今でこそKKKといえば真っ白なシーツを被ったような独特の衣装が印象に残るが、結成当時は物が少ない時代ということもあり、その姿はまちまちであった。特にかぶる布の色は決まっておらず、緋色などが多かったと言われている。

しかし、この映画内ではKKKは共通して白のシーツを被っている。これによって相手側の黒人の黒と、KKKの白がはっきりとモノクロでも目立つようになり、多くの観客に視覚的に善玉=白いKKK、悪玉=黒い黒人と、差別的ながらもわかりやすい演出となっている。

これはグリフィスの高い演出力を証明しているとも言えるだろう。

当然のことながらすでに100年以上前の作品のため、著作権は切れているため、動画投稿サイトでも無料で見ることができる。当時の英語字幕のため読みづらい部分もあるだろうが、興味がある方はご覧になってみてはいかがだろうか。

公開された当時でもその差別的な表現に大きな議論が巻き起こったが『国民の創生』は大ヒットした。黒人の映画監督であるオスカー・ミショーは1920年に公開された『Within Our Gates(我らが門の内にて)』という作品で直接的に『国民の創生』に返答するなど、多くの反応があったとされている。



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Q:映画業界の黒人差別は国民の創生だけだったの?


A:残念ながら昔は黒人の人権意識が低く、そのような作品が多かったことも否定できない

では、それ以外の映画に関しては決して黒人差別の意識はなかったのだろうか?

答えはNOと言わざるをえない。

現代でも人気のあるコンテンツである1933年に公開された『キングコング』を例にあげる。この作品におけるキングコングとは、黒人差別のオマージュであることは疑いようがない。

白人たちが未踏のジャングルに足を進めると発見されたのが大きなゴリラであるキングコングだ。アメリカに連れ帰ったのだが、キングコングは白人の金髪美女を手にアメリカの象徴であるエンパイアステートビルに登る。

そして最後は死ぬ定めとなり、「キングコングは美女に殺された」と語られる。

つまり本作は“黒人をアメリカに連れてきたものの、アメリカの象徴と白人の美女を我が物で独占しようとし、暴れ始めたために死ぬ運命となった”という、黒人の脅威を描いた差別的な映画といえる。

近年ではその反省もあって、2017年に公開された『キングコング髑髏島の巨神』ではキングコングは心優しい存在とされており、また2018年に公開された『ランペイジ 巨獣大乱闘』ではアルビノ種の白いゴリラと、有色人種であり現代のアメリカを代表するスターであるドゥメイン・ジョンソンが共闘することによってかつての黒人差別のイメージを払拭しようとする向きも見受けられる。

他にも1930年代に成立した映画界におけるヘイズ・コードがある。これは映画に宗教的、あるいは道徳的に問題のある行為を描かせないために基準を設けようという表現規制である。

この中には“薬物の違法取引シーンの禁止”や“子供の性器の露出の禁止”などのような現代でもその意図は理解されやすいと思われる道徳に基づく禁止事項が設けられた。その中には“異人種間の結婚”という項目も設けられた。

つまり、当時の異人種間の結婚は薬物の違法取引などと同じように汚らわしいもの、あってはならないものと考えられていたことがうかがえる。

映画が黒人差別を助長してきた時代というのも、確かにあるのだ。



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Q:黒人による公民権運動って何?



A:今までの差別されてきた状況はおかしいと黒人たちが立ち上がった運動だ

1950年代から1960年代にかけて、アメリカでは公民権運動が盛んになる。この時に活躍した活動家が、日本でも「I have a dream」から始まる演説で有名なキング牧師だ。

1948年にトルーマン大統領が差別の禁止令を出すものの、それが浸透するまで時間がかかり、本格的に公民権運動がスタートしたのは1950年代になってからだ。

映画の中でも登場する“ブラウン対教育委員会裁判”通称ブラウン判決は「白人と黒人を教育の場で分けることは違憲である」という判決を下している。その結果、多くの裁判で黒人の権利回復や差別撤回に動き出した。

しかし、残念ながらそれで「万歳! 差別はなくなった!」とはならなかった。なぜならば、KKKをはじめとした黒人差別集団によってのリンチや反対運動は変わらず続いていたからだ。

そこで登場するのが“ブラックパンサー党”だ



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Q:ブラックパンサー党ってどんな組織なの?



A:黒人の差別解消を訴えた組織……なんだけれど、こちらも過激な団体だ

1960年代にKKKなどの差別主義者たちの抵抗が激しさを増す中で、黒人たちも武装すべきではないか? という思想が色濃くなっていく。キング牧師なども武装については止めようとしたものの、その流れは変わらずにブラックパンサー党はさらに盛り上がりを見せた。

当時の日本でも学生運動が盛んだったが、ブラックパンサー党もマルクス主義の思想を多く受けていた。その結果、暴力的な革命を否定することなく、そのために突き進むようになっていく。

映画の中でも過激な団体として描かれていたが、ロンは惹かれている様子も見受けられる。やはり同じ黒人として、白人の差別に立ち向かう存在として、とても共感するところがあったのだろう。

ただし、ブラックパンサーも徐々に過激化していき、ビルの爆破テロ未遂などを起こし政府から徹底的に弾圧される結果となる。

その意味ではKKK VS ブラックパンサーというブラック・クランズマンの劇中での対立は過激な右派と過激な左派の対立と見ることもできるだろう。



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Q:なぜスパイク・リー監督はアカデミー賞であれほどの感情を爆発させたの?



A:差別問題に対して大きな疑問と怒りを抱いているだ

スパイク・リー監督がアカデミー賞にて脚色賞を受賞した時、盟友であるサミュエル・L・ジャクソンに抱きついて子供のように大喜びしたシーンを覚えている人もいるのではないだろうか?

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一方で、作品賞に『グリーンブック』が読み上げられた瞬間に立ち上がり、帰ろうとした姿もあった。また、アカデミー賞後にはグリーンブックの受賞に不満を持つ声をあげている。

この一連の行動に対する賛否はあるだろうが、それだけ強い思いを抱えていることがうかがえる監督だ。

今作においてもラストシーンでドキュメンタリーのような、映画全体を壊しかねないほどの衝撃の結末が日本でも賛否を呼んでいる。その評価に関しては筆者の意見は控えるものの、多くの人が印象に残ったのではないだろうか。

KKKとブラックパンサーの対立のような黒人差別の歴史はまだ終わっていない。KKKは現代のアメリカでも存在し、今でも活動を続けている。また、ブラックパンサー党も一時は解散に追い込まれたものの、新ブラックパンサーとして復活、2016年には支持を表明していた人物が警察官を銃撃する事件が発生している。
 
また、今でも白人と黒人の間の差別意識は根強く残っていると言われ、白人の警察官が黒人を銃で撃ち、過剰な反応だったのではないか? と疑われる事案は多く発生している。

そんな中でメキシコやイスラム教徒との対立を表明したトランプ大統領の誕生により、多くのアメリカ国民の中で壁が生まれている。

その結果、若い命が巻き込まれて亡くなってしまうという痛ましい事件も発生しているのだ。

その状況に対してスパイク・リー監督は、この映画を通して大きな懸念を表明している。

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最後になるが、ハリウッドは黒人などの有色人種を多く出演させよう、活躍の場を与えようという動きになっているものの、その黒人差別の過去に対する清算がなされたとは言えない。

読者の方の中には「現代において差別的な表現が流行することはありえない」と考える方もいらっしゃるかもしれない。

しかし、ハリウッドは黒人差別、共産主義との対立(赤狩り)やソ連との対立など多くの政治的なメッセージを内包する映画を公開してきた。

ぜひ、映画を見た後に「楽しかった」で終わらず、その映画のメッセージや描いてきた社会問題に目を向けて考えること、そのメッセージが本当に正しいのか? ということを考えることで、自覚の無い差別に気がついて欲しい。

参考文献
浜本隆三著 『クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社の正体』(平凡社新書)

(文:井中カエル)

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