『空母いぶき』超ド級の日本映画となった「5つ」の理由!



3:西島秀俊と佐々木蔵之介の役の“対比”が凄まじい!
豪華キャストそれぞれが最高のハマり役だ!




©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ



本作のさらなる目玉と言えるのが、日本最高峰と言える豪華キャストが勢ぞろいしている、特に西島秀俊と佐々木蔵之介が主役として共演していることでしょう。結論から申し上げれば、全員が自身の持ち味を生かしたハマり役であり、彼らの“人間”としての存在感および熱演を観るだけでも大満足できると断言します。

西島秀俊が演じているのは“空母いぶき”の艦長です。その役のどこが凄まじいかと言えば「度を超えて理性的な人物であり、優秀を通り越してもはやサイコパスにも見える」ということでしょう。特に首相に言った“自身の乗る護衛艦の例え”を聞いた時にギョッとする、その口元にうっすらと浮かべる笑みすら怖くなってくるという方は多いはず。どこからどう見てもイケメンで善人にしか見えない西島秀俊のルックとパブリックイメージを逆手にとっているかのような、“不気味さ”すらあるのです。しかし(だからこそ)、その奥に秘めた強い想いや信念も胸に内に隠しているのではないか……という奥行きを感じさせる複雑な役を、西島秀俊は見事に演じきっていました。

佐々木蔵之介の役は西島秀俊とは対照的です。艦長の座を狙っていたものの結局はその大任に選ばれなかった彼は、激情を隠すことができず表に出してしまう、何よりも人死にを恐れ、理論よりも感情を優先してしまうような“当たり前の考え方”をしている、とても“人間くさい”と言える人物です。それでいて、西島秀俊の役とは最終的な目標である「日本という国を守りたい」という価値観では一致している、だからこそ彼らの良い意味で極端な性格の“対比”も際立ち、人間ドラマに厚みを与えていました。

なお、原作者のかわぐちかいじ氏は映画でのこの2人のキャラクターを「国を守り戦う自衛官の優れた“アクセル”と“ブレーキ”だ」と表現しています。それは、「2人が(原作よりも)自衛官としてクッキリと描かれていて、その確執を通して“国を守るとはどういうことか”というテーマが見えてくる」ことを踏まえての表現とのことでした。この2人がどのようにアクセルとブレーキとして事態をコントロールしていくかということも格別のエンターテインメントになっている、それが西島秀俊と佐々木蔵之介という日本最高峰の役者によりもたらされている……ということにも、嬉しさを禁じ得ないのです。

さらに、佐藤浩市が演じている首相も重要な存在になっています。原作での首相は概ねで毅然とした態度でいて、“覚悟”をもってあらゆる出来事に対処する、一国のリーダーとしてほぼ理想的な人物のようにも見えました(ある決断の時にはたまらずにトイレで嘔吐したこともありましたが)。しかし、映画で佐藤浩市が演じている首相の論調や発言そのものは原作と同様であっても、その内面には全編を通じて確実に“人間くさい弱さ”、それこそ前述したコンビニ店長などの一般人と同様の“普通の人”とも変わらないような印象を与えるようになっています。これは佐藤浩市という人間が持つ魅力だけでなく、真摯な役作りにより体現できたものであるのは間違いありません。彼が常に持ち歩いている水筒には妻の用意した漢方ドリンクが入っているという設定にもなっているそうで、それも含めて「一国のリーダーと言うよりも(妻がその身体をいたわっている)1人の普通の人である」ことを示す佐藤浩市の役作りなのでしょう。

特殊な役作りをしているのは市原隼人です。彼が演じるのは戦闘機乗り(航空自衛隊)のパイロットであり、その撮影はほとんどがコクピット内での単独シーンでした。カメラの真正面の至近距離にスタンバイした顔はバイザーで覆われ、必然的にヘルメットから覗く目線と動きの声のみで演技をすることになり、さらに酸素マスクを装着したままセリフを発しなければならないという、孤独かつハードな状態での撮影が深夜まで続けられたのだとか。「戦闘機乗りは闘う時も死ぬ時もたった1人だ」という劇中のセリフそのままのシチュエーションを、市原隼人はやりきっているのです。

その他、本気になると関西弁を口にするというユーモアのある役を演じた山内圭哉、子どもたちのためにせっせとお菓子の長靴作りをするコンビニ店長役の中井貴一、その店長に不満を感じつつも思いやりもあるアルバイト役の深川麻衣、経験の浅さを感じさせる一方で芯のある価値観を持ち合わせている女性記者の本田翼、その女性記者と好対照かつ親しみやすいベテラン記者の小倉久寛、ネットニュースの会社で女性記者の安否を心配し続ける斉藤由貴や片桐仁などなど……脇役と表現してしまうのがためらわれるほど、みんなが忘れがたい印象を残してくれます。言うまでもなく、それぞれの役者のファンにとっても映画『空母いぶき』は必見作でしょう。

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©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ

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