映画コラム

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2019年06月01日

『二宮金次郎』って、実はブットビの革命的ヒーローだった!

『二宮金次郎』って、実はブットビの革命的ヒーローだった!



(C)映画「二宮金次郎」製作委員会



二宮金次郎(二宮金治郎と表記されることもありますね)と聞くと、おそらくはみなさん学校などに置かれてある銅像を思い起こすのではないでしょうか。

薪の束を背負いながら本を読んで歩くその姿は、今の歩きスマホの原点のように思えてならない節もありますけれど(!?)、では二宮金次郎って具体的に何をやった人なのかをちゃんと語れる人って意外に少ないのではないでしょうか(実は私もそうでした)。

そんなときに現れたこの映画『二宮金次郎』……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街384》

これを観てビックリ! 二宮金次郎って、こんなかっこいいヒーローだったの?ってことがよくわかる作品だったのです!

荒廃した土地の再興を命じられた
金次郎の決死の活躍



映画『二宮金次郎』は、今からおよそ200年ほど前の江戸時代後期が舞台です。

天命7年(1787年)、現在の小田原市栢山村に生まれた二宮金次郎は、幼い頃に両親を亡くし、兄弟とも離れ離れになった後、ケチな伯父(渡辺いっけい)のもとで働きながら、自分一人で生きていくために必死で勉強します。

夜に読書するための燈油がもったいないと伯父に責められた金次郎は、アブラナを栽培して菜種油を採り、燈油として使用したり……。

このあたりのところは銅像の風情から察しがつく描写の数々ではありますが、本作はそんな少年時代をあくまでもプロローグとし、大人になった金次郎が何をしたかをメインに描いていきます。

時が経ち文政元年(1818年)、家の再興を成し遂げた二宮金次郎(合田雅史)は、小田原藩の城主(榎木孝明)から心がけの良い領民としての信頼を得て藩にとり立てられ、文政5年(1822年)に荒廃した桜町領(現・栃木県真岡市)の土地の立て直しを命じられます。

翌年、金次郎は田畑や家財を売り払って資金を作り、妻なみ(田中美里)ら家族を伴い、桜町領へ赴きます。

しかし保守的な領民の多くは、「この土地から徳を掘り起こす」という“報徳仕法”と呼ばれる独自の方法論で改革を実行しようとする金次郎の政策に反発。

そんな折、藩から新たに派遣された侍・豊田正作(成田浬)は百姓上がりの金次郎を見下しつつ、次々と彼の邪魔を始めていき、数少ない理解者ともども苦境に立たされていきます……。

金次郎の説く報徳仕法とは、簡単に言えばやる気があって頑張る者ならば、それなりの収入に必ず結びつくという希望に満ちたもので、一方ではその人の置かれた状況や立場に応じた分相応なことを推奨するものでもあって、その奥には“至誠”の精神が満ち溢れていました

現に桜町領の中で彼の思想に共鳴するのは現状を打破したいと願う者たちが多数で、かたや大したことをしなくても何某かの癒着でそこそこの財を得られる者たちからすると鬱陶しいこと極まりない。

また常に前向きな姿勢を貫こうとする金次郎のまぶしさを厭う者(豊田正作がその筆頭)もいます。

やがて映画は金次郎がいかにしてさまざまな迫害と対峙しながら事態を乗り越えていくのかに焦点が注がれていきますが、そのあたりは見てのお楽しみということで!



人を惹きつけてやまない
金次郎のヒーロー性



本作の魅力は、まずは何といっても二宮金次郎を演じる合田雅史の好演で、思わずついていきたくなるほど頼りがいのある存在感が、観る者をぐいぐい引っ張ってくれています。

おそらく本当の金次郎もこういったオーラを放ち続けた男だったのでしょう(実際190センチほどの大男だったという説もあります)。

また金次郎が成田山新勝寺で苦行するシーンも鬼気迫るものがあり、そこに登場する伝説の貫主・昭胤に扮する名優・田中泯のさりげなくも気迫に満ちた存在感も特筆的。

少しずつ、しかし確実に民衆の心を掌握し、難問を乗り越えていく金次郎の姿からは、刀剣を持たなくとも時代劇のヒーローは存在し得るのだと確信させられるものが大いにあります。

監督は『地雷を踏んだらサヨウナラ』や『長州ファイブ』など、いわゆるヒーローらしからぬ普通の人々をヒロイックに描くことに長けた五十嵐匠で、ここでもそんな彼の資質が全面的に開花しています。

時代劇ということでは『サムライマラソン』『多十郎殉愛記』や『居眠り磐音』など壮絶なチャンバラ描写を前面に打ち出した時代劇の快作が今年は多く見られますが、実は『二宮金次郎』もそれらに負けず劣らずのヒーロー時代劇であることが、観れば一目なのです。

二宮金次郎を描いた映画ということで、道徳的もしくは教科書的なものを想像してしまう人は少なくないかもしれませんが、実はほれぼれするほどにかっこいい! そんな醍醐味を満喫させてくれる快作なのでした。

ラストもちょっとしたカタルシスで、思わずウルッと来てしまった次第です。

(文:増當竜也)

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