『ゴールデン・リバー』あなたの予想を裏切る「3つ」の理由



(C)2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.



本日2019年7月5日より公開映画『ゴールデン・リバー』が公開されます。第75回ベネチア映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞し、フランスのアカデミー賞と言われるセザール賞でも4冠(監督賞、撮影賞、美術賞、音響賞)を達成、映画批評サイトRotten Tomatoesでは82%を記録するなど高い評価で迎えられている本作。ポスターなどのパッと見の印象では硬派で重厚なサスペンスおよび西部劇を思わせますが……実は意外と言って良い“親しみやすさ”も備えた作品だったのです。その魅力を大きなネタバレのない範囲で以下にお伝えしましょう。

1:意外な“兄弟萌え”に笑えてほっこりできる!
実は「ちょっと血なまぐさいグリーンブック」だった?



『ゴールデン・リバー』の舞台となるのはゴールドラッシュに沸く1851年のオレゴンのとある町。最強と呼ばれる殺し屋の兄弟が権力者から内密の依頼を受けて、黄金を探す化学式を発見したという化学者を追い始めることから物語が始まります。その道中では様々な敵や障害が立ちふさがり、殺されるか殺されるかの一触即発のサスペンスも展開していく……というのがメインのプロットになっています。

重要なのは、この兄弟が殺し屋という職業に身を置いているのにも関わらず、とっても人間くさくて親しみやすいということ。兄は度胸があり権力者からの信頼も厚い一方で、殺し屋を引退して普通の暮らしをしたいという願いを持っており、しかもロマンチストで必要以上にお人好しだったりもするのです。その弟は粗野で喧嘩っ早いという“ダメな子”ながら、どこか純粋で憎めない可愛げもあります。兄はそんな弟のわがままに振り回されながらも、その身の回りの世話をしつつ、しっかり兄としての務めを担おうとしていました。

この兄弟は二人ともいい年をした大人なはずなのに、どこか少年っぽい幼さすら感じさせ、ケンカをすることがあっても本質的には仲が良いことを随所で思わせ、やり取りそのものが何とも微笑ましくてほっこりできます。もっと端的に言えば確実に“兄弟萌え”と、それに付随した“意外なユーモア”が『ゴールデン・リバー』にはあるのです。特に、兄が女性に“スカーフの扱い”について事細かに“要求”するシーンには愛おしさと情けなさが同居していて(良い意味で)いたたまれない気持ちでいっぱいになりましたし、弟がとあることで兄に突っかかってくるシーンはもう大笑いするしかありませんでした。

また、本作は西部劇であると同時に、一緒に旅をする登場人物(兄弟)の関係性が徐々に変化していく、いわゆる“ロードムービー”としての魅力もあります。人間くさい登場人物たちによる、ほっこりと笑顔になれるユーモアと合わせ、近年では第91回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚本賞の主要3部門に輝き日本でもヒットした『グリーンブック』にも通ずる要素もあったのです。『ゴールデン・リバー』は「ちょっと血なまぐさいグリーンブック」と表現しても過言ではないでしょう(本当です)。

そして、本作では誰もが「えっ!?」と驚ける意外な展開も訪れます。「この流れだったら当然そうなるだろう」という定石からはあえて外れているような作劇は、むしろ一瞬の判断が生死を分けるという西部劇(または現実)の過酷さと不条理を際立たせ、サスペンスとしての緊張感を高めるという効果も生んでいました。

さらに、意図的なシーンのカットがブラックな笑いに繋がっていたり、敵の正体がはっきりと映し出されないことが不気味さを際立たせていたりと、“あえて見せない”ことがプラスの効果を生んでいたりもするのです。ユーモアとサスペンスのバランスが良く、それでいて意外性のある作劇で飽きさせないという……『ゴールデン・リバー』は重圧な作品に見えて、やはり親しみやすいエンターテインメント性が存分にある内容になっていると言っていいでしょう。



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2:個性派な豪華キャストが勢揃い!
それぞれの“まさかの友情”にも注目!



本作は豪華キャストも大きな魅力です。殺し屋の兄役は『おとなのけんか』や『キングコング 髑髏島の巨神』などに出演している名バイプレヤーのジョン・C・ライリーで、ダメな子の弟を演じているのは『her 世界でひとつの彼女』の他2019年10月4日公開予定の『ジョーカー』でも主演を務めるホアキン・フェニックス。ビジュアルは似ていなくても、“長年行動を共にしていた兄弟”であることに存分に説得力を持たせている、それぞれの存在感および演技はさすがの一言でした。

その殺し屋兄弟が出会うことになる連絡係には『遠い空の向こうに』や現在公開中の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』にも出演しているジェイク・ギレンホール、追跡対象の科学者を『ナイトクローラー』や『ヴェノム』で印象的なキャラクターを演じたリズ・アーメッドが演じています。実はこの二人は原作となる小説から大きく膨らませたキャラだったそうで、ある種の“理想主義”的な価値観を持つキャラとして、殺し屋兄弟とは好対照になっていました。彼らもまた殺し屋兄弟と同じく人間くさく、その幸せを願ってしまうキャラでもあるのです。

そして、もともとは追跡をする立場だった兄弟と、追われる立場であったはずの連絡係と科学者の間には、“まさかの友情”も育まれていきます。それは黄金を手にする利害関係の一致による束の間の関係であるようで、ひょっとしたらこの後も続く本物の友情になり得るかもしれない……と「彼らの行く末が良いものでありますように」と心から願える関係性でもあったのです。

この『ゴールデン・リバー』のさらなる魅力となるのは、この四人の奇妙でありながらも尊い関係性と、彼らによる“哲学的”かつ身につまされるセリフの応酬です。彼らそれぞれの価値観は何ら特別なことではなく、現代でも普遍的に持ち得る切実なものでもありました。それは四人を演じた名俳優たちそれぞれの演技の賜物であることも間違いないでしょう。

ちなみに、この『ゴールデン・リバー』の公開日である本日7月5日より、ジェイク・ギレンホールと『ドライヴ』のキャリー・マリガンが夫婦を演じる『ワイルドライフ』も上映開始となっています。こちらは個性派俳優のポール・ダノが初監督を務めた作品で、彼が『ルビー・スパークス』で共演したパートナーのゾーイ・カザンと共同で脚本・製作も務めており、幸せな家庭が崩壊していく様子を14歳の息子の姿を通して描き出すドラマになっているのだとか……ジェイク・ギレンホールのファンは、ぜひこちらもチェックしてみてください。



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3:ジャック・オーディーアール監督の作家性とは?
スタッフもハリウッド最高峰!



本作の監督を務めたのは、『真夜中のピアニスト』や『ディーパンの闘い』などで知られるフランスの名匠ジャック・オーディーアールです。リアルかつ繊細な人間ドラマに定評がある監督であり、通底する作家性としては「登場人物がそれぞれ犯罪を含む“正しくなさ”がある一方で、それでも揺るぎない価値観を持ち合わせている(それを追い求める)」ということが挙げられるでしょう。

例えば、一見すると純粋なラブストーリーにも見える『君と歩く世界』では、両脚を失ったイルカの調教師の女性がとあるシングルファーザーの男性と出会って徐々に希望を手にする過程が描かれているのですが……この男性は他の女性と性的な関係を持ちまくりで、息子の迎えに遅れることも日常茶飯事で、なおかつ犯罪に手を染めてしまったりもするという、全くもって褒められた人物ではありませんでした。しかし、男性がそんな性格だからこそ、両足を失った女性へ偏見もなくサバサバした関係を続けられ、それこそが彼女の救いになっているかもしれない……という関係性が切なさいっぱいに描かれているのです。

この『ゴールデン・リバー』においても、兄弟は望むと望まざるに関わらず殺し屋という職業に身を置いている、“正しくない”人間です。そんな彼らが追いかけていたはずの連絡係と科学者と出会い友情を育み、やがて彼らが真に追い求めていたもの(価値観)がわかっていく様には、思いがけない感動もありました。間違った行動をし続けていたり、どうしようもない悲劇があっても、どこかには救いを見つけられる(かもしれない)……原作となる小説があったとしても、そのジャック・オーディーアール監督の優しく、かつ誠実に“人間”を見つめた作家性がしっかり表れていたと言っていいでしょう。

さらに、衣装を『マリー・アントワネット』などで過去に4度もアカデミー賞に輝いたミレーナ・カノネロ、撮影監督には35ミリフィルムで西部劇の雰囲気を出すことにこだわったというブノワ・デビエ、音楽には『グランド・ブダペスト・ホテル』と“シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞を受賞したアレクサンドル・デスプラと、最高峰のスタッフが揃っています。

総じて『ゴールデン・リバー』はハリウッド最高峰の個性派俳優とスタッフが集結しておりクオリティは折り紙つき、かつフランスの名匠がその作家性を前面に押し出しながらも、ユーモアとサスペンスを併せ持つ親しみやすさもあると……理想的な座組となり、全方位的に完成度を高めた秀作と言っていいでしょう。それでいて、前述した通り「えっ!?」と驚ける、予定調和にならない作劇までも備えているのですから、もう言うことなしですね。ぜひぜひ劇場でこそ、この人間くさくて愛おしい殺し屋兄弟の行く末を、見守ってみてほしいです。

(文:ヒナタカ)

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