映画コラム

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2019年08月24日

結末を知っているはずなのに…それでも『アルキメデスの大戦』に心動かされる理由

結末を知っているはずなのに…それでも『アルキメデスの大戦』に心動かされる理由

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。
40回目の更新、今回もよろしくお願い致します。

もし、あと3日必死に取り掛かればギリギリクリアできる無理難題が目の前にあったとして、それを急に「あ、ごめん。〆切あと1時間後だった」と言われたら、あなたは諦めますか?あと1時間必死粘りますか?

ほとんどの人間は諦めると思います。私も諦めは悪い方ですが、この状態であったら100%諦めて投げ出してしまうでしょう。

どう考えても、結果は99.9999999…%、失敗です。無理です。72時間を使ってギリギリなものを1時間で、、、考えなくても分かります。

しかし、この無謀な挑戦をしようとする人間が現れた時、呆れるわけでもなくバカにするわけでもなく、憧れたのです。その超低確率なゴールに必死になって向かっている人間の一挙手一投足に目が離せなくなり、周りが徐々に感化され、動いていく。文字で起こすと中二病的な感じに見えるでしょう、中二病でもなんでもいいんですこの際、実際心動かされてしまったのですから。この映画に。

今回はこちらの作品をご紹介。

『アルキメデスの大戦』





1933年、日本は欧米列強との対立を深め、軍拡路線を歩み始めていた。そんな中、海軍では世界最大の軍艦を建造する計画が秘密裏に進められていた。省内にはその計画に反対する者たちもいた、山本五十六(舘ひろし)もその1人であった。五十六は「今後の戦争は航空機が主流になる」と考え、巨大戦艦の建造がいかに国家予算の無駄になるか、独自の見積もりを算出し明白にしようとしていた。

しかし、戦艦に関する情報は一切、計画推進派により秘匿されていた。軍部の息のかかっていない協力者が必要な五十六はある天才と出会う。元帝国大学の数学者で100年に1人の天才と言われていた櫂直(菅田将暉)である。ところが櫂は、数学を偏愛し、さらには軍人嫌いという変わり者であった。頑なに協力を拒む櫂に、五十六はある一言を発する。この言葉に櫂は反応し、協力することになる。帝国海軍という巨大な権力に、1人飛び込んでいく。果たして、この頭脳戦の末に待つものとは、、、




監督は、山崎貴。『ジュブナイル』で映画監督でデビュー。CGによる高度なビジュアルを駆使した映像表現・VFXの第一人者。『ALWAYS 三丁目の夕日』では日本アカデミー賞で12部門受賞。ほかにも大作、話題作を多く手がけている。

ヒットメーカーの山崎監督の最新作(封切りから3週間ほど経ってしまいましたが)。今作も冒頭の戦艦大和の、戦いのシーンから見事でした。山崎監督の計算された尺長のなかに様々な要素が含んだVFXの迫力あるシーン。冒頭から、この映画の凄まじさを語る。

印象に残るシーンは、出演者の多くが語っている、やはりクライマックスの大会議室でのシーン。舘ひろし、國村隼、橋爪功、田中泯を始め、ベテラン勢を前に、黒板に数式を書きながら長台詞を言い、説得していく菅田将暉の姿は、目に焼き付き脳裏に色濃く残る。役作りのために、菅田は自分が計算する数式の意味、構造をしっかり理解し撮影に臨んでいる。本人も、「出てくる数式は全て理にかなっているので、一時停止で確認ください」と語るほどに作り込んでいる。それでいて、人間味のあるキャラクターを創り上げていて見事としかいいようがない。

好演で菅田を支えているのが、櫂の付き人を命じられる堅物の軍人、海軍少尉・田中正二郎を演じる柄本佑。最初は櫂のことを嫌っていているが、徐々に憧れ協力的になっていくバディのような存在。その変わりゆくバランス感覚が、作品をさらに彩り豊かに飾る。櫂と田中のコンビは、まさに名コンビ誕生を目にしたと思うほど。

群雄割拠のベテラン勢の中で、さらに一際群を抜いているのが、造船中将・平山忠道を演じる田中泯。台詞は決して多くなく、中盤あたりまでは、周りが舌戦を繰り広げる中、1人静かに一点を見据えて黙している。その姿の存在感たるや、、会議室を去る歩きを見てまたさらに度肝を抜かれました。本作は、史実を元にしたフィクションですが、説得力と支配力で本当にフィクションなのかと疑ってしまうほどです。

史実もそうですし、冒頭の戦艦大和の戦いのシーンから始まるため、観客は大和が建造されることは知っている。であるのに、造船するか否かの会議室のシーンで、観る者の心をこんなにも揺さぶるのはきっと、全場面の説得力と、各演者の芝居の熱量がなせる技。さらには監督の緻密な計算がそこに加わり、ただのフィクションではなくなっている。

どんな結末かは分かっているはずなのに、登場人物の閃光のように人生の一瞬の輝きは眩しいほどに魅力的でした。

宣伝ポスターから想像していたものを、こんなにも大きく裏切られるとは予想せず、やられたと膝を打つ。まだ未見の方は、是非映画館で観ていただきたい。

会議室のシーンと、田中正二郎の登場シーンを個人的にはもう一度観たいと思っています。

是非。

(文:橋本淳)

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(C)2019 映画「アルキメデスの大戦」製作委員会 (C)三田紀房/講談社

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